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第二章 キャバクラの客

味方

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"なぜだ。なぜこうなった。"

僕は、寝ている彼女を叩き起こした。

「ねぇ。これどういうこと?」

僕がそう言うと、彼女は寝ぼけたまま起きようとしなかった。

「もういい。家帰るわ。」

この場に耐えられなかった僕は、そう言い残し、彼女の家を出た。
自転車に跨り、ペダルを漕ぎ始めると自然と涙が溢れた。
気が付けば、ぐしゃぐしゃの顔で泣いていた。

"また裏切られた。"
そう考えると悲しくて仕方なかった。

家へ着くと、僕はすぐに自分の部屋に入った。
ベッドに寝転がり、頭から布団を被った。

鼻が詰まって呼吸が苦しい。
"このまま眠るように死ねたらいいのに。"
そんな事を考えていた。

少しして、部屋をノックする音がして、ドアが開いた。

「帰ってるなら、ただいまくらい言いなさいよ。」

母の声だった。

「うん。」

僕は泣いたのがバレないように返事をした。

「どうかしたの?」

しかし、母にはお見通しだった。

「ううん。別に。おやすみ。」

僕がそう言うと、母はそれ以上聞かなかった。

「歯磨きしなさいよ。」

そう言って、母は部屋から出ていった。

それからしばらく、何も考えることができずに、ぼーっとしていた。
リビングのテレビの音だけが、かすかに聞こえていた。

携帯を開くと彼女からは何も連絡は来ていなかった。

僕は心の行き場を探し、幼馴染に電話をかけてみた。

「はい。」

幼馴染はすぐに出た。

「あ、ごめん。いま平気?」

僕がそう言うと、幼馴染は寛いでいたのか気怠そうに答えた。

「うん。平気だよー。」

僕は気持ちを落ち着かせながら話し始めた。

「あの。彼女が浮気をしました。」

幼馴染は驚いていた。

「え!またかよ。はぁーまじかー。」

それから僕は、幼馴染についさっき起きたことを全て話した。

「もう決定的証拠じゃん。てかさ、あいつのどこがいいの?俺だったら絶対付き合いたくないんだけど。」

幼馴染は少し苛立ちながらそう言った。

「普段はいい子なんだよ。あぁ見えて。波長も一緒っていうか気が合うし、笑いのツボも一緒みたいな。」

僕がそう言うと、幼馴染が煙草の煙を吐き出す音が聞こえた。

「まぁ、2人が気が合うのは隣にいてわかるよ。でも俺はあいつのマイペースなところが嫌だね。約束の時間守らないし、お前との約束も守らないし、自己中で腹立つわ。」

僕はその時、幼馴染が僕の為に怒ってくれているのだと、少し嬉しくなった。

「うん。本当に自己中だわ。でもさ、こんなに誰かを好きになったの初めてっていうか、運命っていうか。なんというか。」

僕がそう言うと、幼馴染は煙草を吸い終わったようだった。

「つまりさ、お前は別れるつもりはないってことだよな?」

僕は少し答えに迷ったが、"うん。"と一言だけ返事をした。

「だったら行きなよ。あいつのところに。手を離したら、またすぐどっか行くぞ。」
 
幼馴染が僕の背中を押してくれているのがわかった。
しかし、僕には彼女と向き合う勇気が出なかった。

「でも、また捨てられるかもしれないし。しんどいよ。」

僕が弱々しく言うと、幼馴染はさらに僕の背中を押してくれた。

「その時はその時だ。何があっても俺はお前の味方でいるから。だから、早く行け!」

僕は嬉しかった。
僕の身に起きていることなのに、自分のことのように悲しんでくれる。腹を立ててくれる幼馴染はかけがえのない存在だと思った。

「わかった。ありがとう。また連絡する。」

僕はまた泣きそうになった。

「おう。じゃあな。」

幼馴染はそう言うと電話を切った。

そして、僕は再び彼女の家へと走り出した。

"1秒でも早く戻らなきゃ。"
そう思いながら、全力で自転車を漕いだ。
もう、泣いている時間は終わりだ。
外はすっかり暗くなっていたが、視界は良好だった。

そして、彼女の家へ着いた。
僕は深呼吸をして、恐る恐る彼女の家の鍵を開けた。

しかし、そこに彼女はいなかった。

 

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