9 / 12
第一章 リラクゼーションの男
別のカタチで
しおりを挟む浅草へ向かう車中は、さっきまでのことが嘘のように明るかった。
僕も考えないようにしていたし、彼女もきっと同じだった。
幼馴染も明るく振る舞ってくれていた。
浅草に到着すると、浅草寺はライトアップされていて、既にお祭りムードだった。
浅草寺の参拝の列が仲見世を埋め尽くしていて、僕たちはとても並ぶ気にはならなかった。
「すごい列だな。」
幼馴染が呆気にとられながら言った。
「あっち屋台出てるよ!」
彼女が楽しそうに指差すと、みんなで屋台に向かった。
焼きそばやたこ焼き、ステーキ串にじゃがバタ。
色々な屋台が出ていた。
「私、りんご飴食べたい。」
彼女は無邪気な笑顔でそう言うと、僕におねだりしてきた。
「俺はステーキ串食べようかな。」
幼馴染も楽しそうだった。
結局、彼女はりんご飴、幼馴染はステーキ串、僕はたこ焼きを買った。
「いただきます!」
3人で手を合わせると、それぞれの戦利品を食べ始めた。
幸せな時間だった。
夢のように楽しかった。
気付けばカウントダウンが始まっていた。
10!9!8!7!
自然と周りの人達が他人同士で声を揃えて叫んでいる。
僕たちも一緒に声を上げた。
6!5!4!3!2!1!
ハッピーニューイヤー!
歓声と拍手が上がる。
お酒を飲む人。はしゃいでいる人。新年の挨拶をする人。あけおめメールを送る人。
色々な人がいた。
「あけおめ!」
僕らは3人で挨拶をし合った。
それから、"カラオケでも行くか。"
ということになり、カラオケ屋を目指して移動した。
しかし、近辺のカラオケ屋はすでに満室で入れなかった。
「仕方ないから漫喫行ってみる?個室空いてるかもよ。」
僕がそう言うと、2人も"そうだね。"とついてきた。
漫画喫茶は意外とすいていて、個室も空いていた。
僕らは個室に入り、3人でゲームをすることにした。
それから、夜が明けるまで漫画喫茶で過ごした。
帰りの車内で、彼女は寝ていた。
幼馴染も眠そうだったが、僕に気を遣ってか起きてくれていた。
「またね。おやすみ。」
「おやすみ。」
幼馴染を家まで送り届け、僕は彼女の家へ向かった。
彼女の家へ着く頃には、彼女も目を覚ましていた。
「3日、おばさん家行くでしょ?」
彼女が聞いてきた。
毎年1月3日は、彼女のおばさんの家で新年会をしていた。
高校生の時から、僕もその会に毎年お邪魔させてもらっていた。
「あぁ。うん。行く。」
僕は忘れかけていたが、そう返事をした。
「じゃあ、また3日ね。」
彼女はそう言うと、車から降りた。
僕が車を走らせると、バックミラー越しに彼女が手を振っているのが見えた。
"元の日常が戻ってきた。"
そう思った。
1月3日。
おばさんの家へ向かう為、僕は自転車に跨った。
"私は先に行ってるからね。"
彼女からは、そうメールが入っていた。
おばさん家に着くと、子供たちとシーズーが出迎えてくれた。
「あけましておめでとうございます。」
僕は子供たちとシーズーに挨拶をすると、おばさん家のリビングへ入った。
「あ、いらっしゃい!」
おばさんはキッチンで支度をしながら、僕に言った。
「お邪魔します。あけましておめでとうございます。」
僕はおばさんに挨拶をすると、彼女の横に座った。
それから、おばさんの旦那さん。彼女のお母さん。彼女のおじいちゃんに挨拶をした。
「何飲む?ビール?」
旦那さんがそう言うと、おばさんが間髪入れずに突っ込んだ。
「ダメに決まってるでしょ!まだ19歳なんだから!」
"さすが夫婦だ。息ぴったり。"
そう思いながら僕は烏龍茶をもらった。
それから、おばさんの作った美味しい料理を食べながら、楽しい時間を過ごした。
僕がふと、彼女のほうに目をやると彼女の携帯が鳴っていることに気付いた。
「携帯ずっと鳴ってるよ。」
僕がそう言うと彼女は少し苦い顔をしながら言った。
「実は、石原さんから連絡が止まらなくて。私はずっと無視してるんだけど。」
僕は驚いて、彼女の携帯を見せてもらった。
そこには、石原さんからの何通ものメールと着信履歴があった。
"会いたい。"
"無視しないでよ。"
"今日も会いたくて、君の家の前まで来てしまいました。どこにいるの?"
僕は鳥肌が立ち、空いた口が塞がらなかった。
「これ、もはやストーカーだよね?」
僕が聞くと彼女は不安そうな顔で答えた。
「やっぱり。そうだよね?」
僕はこのままではまずいと思った。
彼女の身に何かあってからでは遅い。
「もう1回、石原さんと会おう!」
僕がそう言うと彼女は戸惑っているようだった。
「石原さんの中で不完全燃焼なんじゃないかな?もう1度3人で会って話そう。何かあってからじゃ遅い。」
僕は彼女を説得した。
すると彼女は渋々納得し、石原さんにメールを送った。
"もう1回3人でちゃんと話そう。"
そして、2日後に石原さんともう1度会うことになったのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
創作の役に立つかも知れないし役に立たないかも知れないメモ的なようなものかも知れない物
神光寺かをり
エッセイ・ノンフィクション
何かの役に立つかも知れないし、役立たずかも知れないテキストデータです。
この記事は過去にTwitterアカウント(@syufutosousaku)のツイートや、個人ブログの記事を再編集したものです。
※随時更新するかも知れません。
※当方の間違い、スペルミス、取り違えなど御座いましたら、こっそりご指摘ください。
※この作品は、ノベルアップ+にも掲載しています。
男女について考える(ほとんど憶測と偏見とヒステリー)
月澄狸
エッセイ・ノンフィクション
私は生物学も心理学も学んでいない、ただの学のない女だ。ついでに恋愛経験もない、さらには友達もいない。告白されたこともないし当然したこともない。そんなわけでこの連載は、浅い知識と経験から「なんとなく思ったこと」を感情的に書き連ねるだけのものになる。読んでも何の学びもなく、不快になるだけなのでご注意を。(※LGBTQについては分からないので、基本的に古い価値観オンリーで書きます。)
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します
水空 葵
ファンタジー
貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。
けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。
おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。
婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。
そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。
けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。
その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?
魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです!
☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。
読者の皆様、本当にありがとうございます!
☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。
投票や応援、ありがとうございました!
女子部屋っっ!!
浅野新
エッセイ・ノンフィクション
生理やPMS等困ったことで個人的に集めた役に立つかもしれない情報を提供していきます。生理関連は本当に大変だから女子部屋と言いつつ男性も大歓迎。こちらをしっかり読んで奥さんや彼女を労われば貴方のイケメン度は爆上がりな事間違いなし。男子も女子も気軽に読んでいってください。
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。
どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる