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落ちる

落ちる3

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巨大なつるつるした岩の上から落ちそうになっている冴子の足元には青い空が広がり優雅にトンビが飛んでいる。

所々に雲が浮かぶ。

剣山の頂上はとても高くて素晴らしい眺めが足元に広がっている。

もちろん、今の冴子にはそんな風景を楽しむ余裕はない。

重力に従ってこのつるつるした岩から落ちれば命はない。

しかし、容赦なく体はズルズルと落ちていく。

落ちまいと体に力を入れるがもがけばもがくほど落ちていくスピードがましているような気にさえなる。

健太郎がロープをもう一度投げる。

これで三度目だが、手に届くところにロープは届かない。

風が影響して思い通りにいかない。
健太郎はロープにくくりつけるもっと大きな石がないかと探す。
冴子は今にも岩場から転落してしまいそうだ。

焦る。

少し大きい石を見つけたが岩と岩の間に挟まっていて抜けない。
こいつをロープにくくりつければ冴子のところまでロープが届くはず。

思いっきり力を込めて引き抜こうとするが、


抜けない。


ただ、少し動くので、何とか頑張れば外れるかもしれない。

そうこうするうちに冴子の下半身は岩から完全に落ちて、上半身だけとなった。
岩の角に胸が当たって痛い。

「は、早く助けて」
もう体裁を気にしている場合ではない。
必死で助けを呼ぶ。

叫ぶ。

「は、早くー」

先程までは何とかなると期待していたいる自分がどこかにいたが、

どこにも引っかかりどころがない。

足を動かしてみるが足の踏み場もない。

つるつるした岩の感触と足やお尻の重さが感じられるのみだ。


現実にもう落ちて死ぬかもしれない。

涙がにじんできた。

そうして助けを求めて上を見上げているとふと美香の顔が目に入った。

一瞬だが少し笑っているように見えた。

冴子はそれを目にすると、悔しい思いが込み上げてきた。

美香にとっては私は邪魔者。

このまま落ちてしまえば、健太郎さんは美香のものになってしまうかもしれない。

健太郎はどこに行ったのだろう。
姿が見えない。

私だけここから落ちて死んでしまうなんて耐えられない。

悔しい。

意地でも這い上がってやると腕に力を込めるが、思いとは裏腹に体はどんどん落ちていく。

岩の角につっかえていた胸がついに外れた。

ストーン

という感触とともに落ちる。

足の裏がゾワゾワとする。

辛うじて岩の角に指が引っかかった。

その頃ようやく健太郎は大きめの石を岩の間から抜き取ることが出来た。

急いでロープにくくりつけようとするが滑って上手くいかない。

気持ちが焦る。

ようやくロープに石をくくりつけて冴子の方を見ると誰もいない。

もしかして既に岩から落ちたのか。

よく見ると岩の角に微かに指が見える。

健太郎は急いで指の近くにロープを放り投げる。
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