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エスタ王国
熱
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熱にうなされるアスカが、意識もうろうとしながら見た白い馬はホワイトブライアンだった。
その背中には、エドワルド王子が乗っているはずだった。
アスカは一瞬、王子が助けに現れた幻想を見ていた。
しかし、王子はいなかった。
現れたのはホワイトブライアンだけであった。
「にゃー、にゃー、にゃー」とペルーラが鳴いて騒ぐと、ホワイトブライアンが気づいて近寄ってきた。
ハイエナ達はホワイトブライアンの風格に威圧されて陰に隠れた。
「なんだ、黒猫と小娘か」
「エドワルド王子は?」
ホワイトブライアンは下を向いて首を振った。
ホワイトブライアンによると、エドワルド王子は、武装した北方三国の兵隊に追い詰められ、滝に転落して濁流に流されたそうだ。
ホワイトブライアンは川沿いに王子を何日も探したが、行方がわからなくなってしまった。
そうこうしているうちに、北方三国がエスタ王国に戦艦部隊を向けていることを聞きつけた。
「これからどうするつもりだい?」
「王子はきっと生きているはずだ。あの王子が死ぬはずがない。だから、俺はエスタ王国で帰りを待つ。王子が帰って来るまでエスタ王国を守らなければならない」
ホワイトブライアンの目には決意がみなぎっていた。
「そうか。それならついでと言っちゃ悪いが、僕達もエスタ王国に乗せていってくれないか。アスカが熱を出して倒れてしまったんだ」
「ふん。しょうがない。これも何かの縁だ。乗せていってやろう。その代わり、エスタ王国のために働いてもらうぞ」
「わかったよ」
ペルーラに選択肢はなかった。恐らくアスカはこのまま治療を受けなければ数日で死んでしまうだろう。噛まれた腕がひどく腫れ上がって、高熱を出している。
「アスカ、アスカ、ホワイトブライアンの背中に乗って!」
ペルーラがアスカの顔を必死で押しながら叫んだ。
アスカはペルーラの言ったことに微かに気づいたのか、うっすらと目を開けて体を動かし、木の枝からゆっくりと、ホワイトブライアンの背中へ落ちた。
ドサリと音がした。
アスカは何とかホワイトブライアンにまたがると、たてがみにしがみついた。
ホワイトブライアンはアスカとペルーラを背中に乗せると速歩でエスタ王国の方へ向かった。
森の獣たちも、エドワルド王子の愛馬ホワイトブライアンと知っていて、手出しはしない。
アスカはエドワルド王子の背中におんぶされている夢を見た。とても心地よかった。
エスタ王国に近づくと、村人達が驚いた。
「わっ! ホワイトブライアンだ」
「エドワルド王子はどうした?」
「アスカが乗っている!」
村人達は背中にアスカが乗っている事にとても驚いた。
ホワイトブライアンは気難しくて、エドワルド王子以外の人は決して乗せた事がなかったのだ。
「ホワイトブライアンがアスカを認めているのか?」
村人達はささやきあった。
ホワイトブライアンは宮殿に入ると、大きくいなないた。
「ハヒヒヒヒヒヒーン」
門兵はアスカの容態を確認すると急いでイル博士を呼びに行った。
「おお!ホワイトブライアン!」
イル博士は大急ぎで駆けつけて、アスカの傷口を確認した。
「 こ、これはいかん! 森の獣に噛まれとる。直ちに医務室に運べ! 毒が回らんように慎重にじゃぞ」
アスカは担架に乗せられ、医務室へ運ばれていった。
その背中には、エドワルド王子が乗っているはずだった。
アスカは一瞬、王子が助けに現れた幻想を見ていた。
しかし、王子はいなかった。
現れたのはホワイトブライアンだけであった。
「にゃー、にゃー、にゃー」とペルーラが鳴いて騒ぐと、ホワイトブライアンが気づいて近寄ってきた。
ハイエナ達はホワイトブライアンの風格に威圧されて陰に隠れた。
「なんだ、黒猫と小娘か」
「エドワルド王子は?」
ホワイトブライアンは下を向いて首を振った。
ホワイトブライアンによると、エドワルド王子は、武装した北方三国の兵隊に追い詰められ、滝に転落して濁流に流されたそうだ。
ホワイトブライアンは川沿いに王子を何日も探したが、行方がわからなくなってしまった。
そうこうしているうちに、北方三国がエスタ王国に戦艦部隊を向けていることを聞きつけた。
「これからどうするつもりだい?」
「王子はきっと生きているはずだ。あの王子が死ぬはずがない。だから、俺はエスタ王国で帰りを待つ。王子が帰って来るまでエスタ王国を守らなければならない」
ホワイトブライアンの目には決意がみなぎっていた。
「そうか。それならついでと言っちゃ悪いが、僕達もエスタ王国に乗せていってくれないか。アスカが熱を出して倒れてしまったんだ」
「ふん。しょうがない。これも何かの縁だ。乗せていってやろう。その代わり、エスタ王国のために働いてもらうぞ」
「わかったよ」
ペルーラに選択肢はなかった。恐らくアスカはこのまま治療を受けなければ数日で死んでしまうだろう。噛まれた腕がひどく腫れ上がって、高熱を出している。
「アスカ、アスカ、ホワイトブライアンの背中に乗って!」
ペルーラがアスカの顔を必死で押しながら叫んだ。
アスカはペルーラの言ったことに微かに気づいたのか、うっすらと目を開けて体を動かし、木の枝からゆっくりと、ホワイトブライアンの背中へ落ちた。
ドサリと音がした。
アスカは何とかホワイトブライアンにまたがると、たてがみにしがみついた。
ホワイトブライアンはアスカとペルーラを背中に乗せると速歩でエスタ王国の方へ向かった。
森の獣たちも、エドワルド王子の愛馬ホワイトブライアンと知っていて、手出しはしない。
アスカはエドワルド王子の背中におんぶされている夢を見た。とても心地よかった。
エスタ王国に近づくと、村人達が驚いた。
「わっ! ホワイトブライアンだ」
「エドワルド王子はどうした?」
「アスカが乗っている!」
村人達は背中にアスカが乗っている事にとても驚いた。
ホワイトブライアンは気難しくて、エドワルド王子以外の人は決して乗せた事がなかったのだ。
「ホワイトブライアンがアスカを認めているのか?」
村人達はささやきあった。
ホワイトブライアンは宮殿に入ると、大きくいなないた。
「ハヒヒヒヒヒヒーン」
門兵はアスカの容態を確認すると急いでイル博士を呼びに行った。
「おお!ホワイトブライアン!」
イル博士は大急ぎで駆けつけて、アスカの傷口を確認した。
「 こ、これはいかん! 森の獣に噛まれとる。直ちに医務室に運べ! 毒が回らんように慎重にじゃぞ」
アスカは担架に乗せられ、医務室へ運ばれていった。
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