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ケシの実
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ペルーラが注意を引いている大きな木の箱に近づき、エドワルド王子が短刀を使ってこじ開けて中身を確認した。
中からは黒いつぶつぶの植物の種のようなものが出てきた。
「これはケシの実です」
「ケシの実?」
「ケシの実は麻薬の原料を栽培することが出来ます」
「麻薬ですか? ジャルジャンは武器だけでなく麻薬を使って金儲けをしているってことですか?」
「その可能性が高いです。北方の国では薬物が乱用されており、日常的に戦争が行われているという噂を聞きました」
「そんな事、すぐに止めさせなければ」
アスカはリアルな武器の山を見て、それを使って人々が殺し合いをしていると考えただけでぞっとした。それに麻薬までばらまかれたら、人々の生活はボロボロになる。不幸な人たちが増え続けているのだ。かつて中国がアヘン戦争でボロボロになった事を歴史の授業で学んだことを思い出した。この世界でも同じことが行われているのだ。
「にゃーにゃーにゃー」
ペルーラも同意している。
「ジャルジャンのヤツめ。人の不幸で金儲けをしやがって」王子も怒っている。
アスカは聞いた。
「エドワルド王子、あなたはこの戦争を止めさせることができますか?」
「うーーん」
王子は困った顔をした。ジャルジャンに武器や麻薬を売るのを止めろと言って素直に聞くはずもない。しかもここルーカス王国は王子のエスタ王国とは友好関係にないので政治的な意見を聞き入れるはずもない。むしろ、ルーカス王国の国王デシャンは北方の三国を手に入れて国を強くしてエスタ王国に攻め込んでくる可能性もある油断ならない人物だ。下手な口出しをしようものならルーカス王国との戦争に発展する口実を与えてしまう可能性だってある。
「王子、あなたの身分ならなんとか戦争を止めさせることができるはずです」
「しかし、ルーカス王国の政治に下手に口出しすれば、それこそ我がエスタ王国との戦争に発展しかねないです。そうなれば我が国民が必要のない戦乱に巻き込まれてしまいます。私は国民を愛しています。むやみやたらに危険にさらすわけにはいきません」
「王子! たった今、あなた様の事を見損ないました」
「なんと」
「あなたは自国の事だけを考えていればよいのですか? 私はそうは思いません。誰かがどこかで苦しんでいたら助けようとは思わないのですか? それには自国も他国もないでしょう。それにルーカス王国のような国は、遅かれ早かれいずれエスタ王国に攻め入ってきますわ」
アスカは麻薬を拡散して行われる戦争の恐ろしさに興奮して気が付けば正論をまくし立てていた。それは、広島や長崎に原爆が落とされた事に怒りを感じたのと同じであったし、ヒットラーがユダヤ人を迫害して殺害したのを知った時に怒りを感じたのと同じ種類のものだった。そういった歴史を知っているだけに戦争の怖さとその行き着く先を知っている。世界はできるだけ早く平和に向かわなければ被害が増えるばかりだ。
「アスカ殿、私はあなたがなぜ我が国の妃にふさわしいのか、今わかったような気がします。あなたの言われていることは正しい。私は自国の事ばかりを考えていた視野の狭い己が恥ずかしいです。他国の平和も願って初めて自国の平和も実現するというものだという事がわかりました。素晴らしい思想です」
「わかっていただけてうれしいです。私が妃にふさわしいかどうかは別として、一緒に戦争を止めさせましょう。王子、あなたのご身分ならきっとなんとかなります」
「アスカ殿、私は早速、北方三国に無駄な戦争をやめるように手紙を書きます。それとこの国のデシャン国王に武器と麻薬の密売を止めるように説得しに行くつもりです」
「王子、大変だとは思いますがお願いします」
「それとアスカ殿、私の事を見損なわないでください」
「先ほどは大変失礼な事を言ってすみませんでした。私のようなものが出しゃばった物言いをしてしまいました。お詫びいたします」
「いえ、ありがたいお言葉でした。いずれ北方三国の戦争が収まりましたら私の妃になってください」
「王子、私はあなたの妃にふさわしい身分ではないと思います」
「なんと奥ゆかしい。私は今までここまで女性に魅力を感じたことはないのです」
「それはうれしいです。しかし、王子はあの時計の事で何か勘違いされております。あの時計は私がリサイクルショップで買ったものなのです。ですから、本当の持ち主は私ではありません」
「いえ、そんなことは関係ありません。あの時計を持ってあなたが現れたのですから、あなたが私の妃となるお方です。どうか、お約束ください」
「わかりました。戦争が止まって、ジャルジャルの元を去ることができるようになったら、あなたの元へ参ります。その時にもう一度冷静になって考えてみてください」
「アスカ殿、約束ですよ」
そういうと、王子はアスカの手を取り、その甲に優しく口づけをした。
それから、アスカと王子はホワイトブライアンに乗ってジャルジャンの屋敷まで戻った。
すぐに令嬢たちの人だかりができて、アスカは邪魔者扱いされたが、王子はすぐさま部屋に戻った。きっと約束通り各国への手紙を書いているのだろう。
中からは黒いつぶつぶの植物の種のようなものが出てきた。
「これはケシの実です」
「ケシの実?」
「ケシの実は麻薬の原料を栽培することが出来ます」
「麻薬ですか? ジャルジャンは武器だけでなく麻薬を使って金儲けをしているってことですか?」
「その可能性が高いです。北方の国では薬物が乱用されており、日常的に戦争が行われているという噂を聞きました」
「そんな事、すぐに止めさせなければ」
アスカはリアルな武器の山を見て、それを使って人々が殺し合いをしていると考えただけでぞっとした。それに麻薬までばらまかれたら、人々の生活はボロボロになる。不幸な人たちが増え続けているのだ。かつて中国がアヘン戦争でボロボロになった事を歴史の授業で学んだことを思い出した。この世界でも同じことが行われているのだ。
「にゃーにゃーにゃー」
ペルーラも同意している。
「ジャルジャンのヤツめ。人の不幸で金儲けをしやがって」王子も怒っている。
アスカは聞いた。
「エドワルド王子、あなたはこの戦争を止めさせることができますか?」
「うーーん」
王子は困った顔をした。ジャルジャンに武器や麻薬を売るのを止めろと言って素直に聞くはずもない。しかもここルーカス王国は王子のエスタ王国とは友好関係にないので政治的な意見を聞き入れるはずもない。むしろ、ルーカス王国の国王デシャンは北方の三国を手に入れて国を強くしてエスタ王国に攻め込んでくる可能性もある油断ならない人物だ。下手な口出しをしようものならルーカス王国との戦争に発展する口実を与えてしまう可能性だってある。
「王子、あなたの身分ならなんとか戦争を止めさせることができるはずです」
「しかし、ルーカス王国の政治に下手に口出しすれば、それこそ我がエスタ王国との戦争に発展しかねないです。そうなれば我が国民が必要のない戦乱に巻き込まれてしまいます。私は国民を愛しています。むやみやたらに危険にさらすわけにはいきません」
「王子! たった今、あなた様の事を見損ないました」
「なんと」
「あなたは自国の事だけを考えていればよいのですか? 私はそうは思いません。誰かがどこかで苦しんでいたら助けようとは思わないのですか? それには自国も他国もないでしょう。それにルーカス王国のような国は、遅かれ早かれいずれエスタ王国に攻め入ってきますわ」
アスカは麻薬を拡散して行われる戦争の恐ろしさに興奮して気が付けば正論をまくし立てていた。それは、広島や長崎に原爆が落とされた事に怒りを感じたのと同じであったし、ヒットラーがユダヤ人を迫害して殺害したのを知った時に怒りを感じたのと同じ種類のものだった。そういった歴史を知っているだけに戦争の怖さとその行き着く先を知っている。世界はできるだけ早く平和に向かわなければ被害が増えるばかりだ。
「アスカ殿、私はあなたがなぜ我が国の妃にふさわしいのか、今わかったような気がします。あなたの言われていることは正しい。私は自国の事ばかりを考えていた視野の狭い己が恥ずかしいです。他国の平和も願って初めて自国の平和も実現するというものだという事がわかりました。素晴らしい思想です」
「わかっていただけてうれしいです。私が妃にふさわしいかどうかは別として、一緒に戦争を止めさせましょう。王子、あなたのご身分ならきっとなんとかなります」
「アスカ殿、私は早速、北方三国に無駄な戦争をやめるように手紙を書きます。それとこの国のデシャン国王に武器と麻薬の密売を止めるように説得しに行くつもりです」
「王子、大変だとは思いますがお願いします」
「それとアスカ殿、私の事を見損なわないでください」
「先ほどは大変失礼な事を言ってすみませんでした。私のようなものが出しゃばった物言いをしてしまいました。お詫びいたします」
「いえ、ありがたいお言葉でした。いずれ北方三国の戦争が収まりましたら私の妃になってください」
「王子、私はあなたの妃にふさわしい身分ではないと思います」
「なんと奥ゆかしい。私は今までここまで女性に魅力を感じたことはないのです」
「それはうれしいです。しかし、王子はあの時計の事で何か勘違いされております。あの時計は私がリサイクルショップで買ったものなのです。ですから、本当の持ち主は私ではありません」
「いえ、そんなことは関係ありません。あの時計を持ってあなたが現れたのですから、あなたが私の妃となるお方です。どうか、お約束ください」
「わかりました。戦争が止まって、ジャルジャルの元を去ることができるようになったら、あなたの元へ参ります。その時にもう一度冷静になって考えてみてください」
「アスカ殿、約束ですよ」
そういうと、王子はアスカの手を取り、その甲に優しく口づけをした。
それから、アスカと王子はホワイトブライアンに乗ってジャルジャンの屋敷まで戻った。
すぐに令嬢たちの人だかりができて、アスカは邪魔者扱いされたが、王子はすぐさま部屋に戻った。きっと約束通り各国への手紙を書いているのだろう。
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