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反撃の狼煙

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 エドワルド王子は急いで山の麓の農家に駆けつけた。馬から下りると、その場に横になった。失血で頭がボーッとしている。ホワイトブライアンの白い毛が王子の血でところどころ染まってしまっている。
「すまないなブライアン。美しい体に血をつけてしまって。しばらく休んでてくれ」

「ヒヒーン」ブライアンは王子の事を心配するように鳴いた。

「エドワルド王子! どうなされたんですか。そのお怪我は」
国民から慕われるエドワルド王子の元には直ぐに近所の農民が集まった。

「大変だ。直ぐに手当をしなければ」
王子は農夫に手当を受けながらすぐさま指示を出した。

「みんな、すまないがこれから大事な人を助けに行かねばならない。直ぐに城に向けて緊急の狼煙をあげてくれ」

「分かりました」

「それから、ホワイトブライアンにカイバと水を与えてやってくれ」

「お任せ下さい。ブラッシングもしておきやす」

農夫たちは直ぐに手分けをして行動に移った。普段からエドワルド王子がどれだけ慕われているかがうかがわれる。

 四本の白い狼煙が城に向けて焚かれた。この狼煙は最も緊急な事態を表す。

 エドワルド王子にとってアスカがあのミカラムに捕らわれていることが一秒たりとも許せなかった。何故ならアスカはこの月の腕時計を持っていた。だとしたら将来自分の妃になるかもしれない女性である。その女性が盗賊に捕らわれて奴隷として扱われているなんてとてもじゃないが許し難い。全身全霊をかけて一刻も速く救い出し、城へお招きしなければならない。

 王子の精鋭部隊がすぐさま城を出て駆けつけた。

「王子! 如何なされましたか。酷い怪我ではございませんか」
精鋭部隊の隊長ラウルが心配する。

「お前はいつも大袈裟だな。この程度かすり傷よ。もう血は止まった」

「しかし、ものすごい血の跡ではないですか」王子の衣服に黒ずんだ血の跡がついている。

「そんな事より、大事な人を盗賊から奪い返しに行かねばならない。直ぐに出発するぞ!」

王子が立ち上がろうとして貧血気味によろめいた。その体をラウルが受け止める。

「大事な人とは誰ですか?」

「アスカという美しい黒髪の女性だ。我らの国にとってとても大事な人だ」

「分かりました。エドワルド様はここでお待ちくだされ」

「いや、休んではいられない。俺も行く。別の馬を用意しろ。ホワイトブライアンは疲れているので休ませる」

「ハハッ!」


 王子の精鋭部隊の一部はすぐさま盗賊の後を追いかけて出発した。王子も準備が整い次第後を追って第二部隊として出発した。

 王子の指示は的確で素早かった。精鋭部隊の動きはよく訓練されており、何一つ無駄はない。なにしろ、エスタ王国の中で最も武術に長けたものが十数名が選ばれて構成されているのである。他国からも一目置かれる部隊である。対戦すればミカラムの盗賊などはひとたまりもないであろう。

ただし、間に合いさえすれば……


 山の峠付近に達していた盗賊ミカラムはエドワルド王子の精鋭部隊が追いかけて来る事に気づいた。想定していたよりもかなり早く兵を上げてきたので驚いている。

「エドワルド王子の精鋭部隊が早くも追って来たぞ」
 
遠目からも精鋭部隊の持つ槍の先端がキラキラ輝いているのが見えた。

「このままではすぐに追いつかれる。急げ! 国境はすぐそこだ。ルーカス王国へ逃げこめばエドワルド王子も追ってくることはできまい」

盗賊どもはわれ先に道を急いだ。追いつかれれば武装したエドワルド王子の精鋭部隊に槍で串刺しにされるのは目に見えている。

「エレナ、お前はその女を連れて先に行け。わしは一番後ろを行く」

「ミカラム、その命決して粗末にはしないで」

「分かっておる。必ずやルーカス王国で再会しよう」

「あなた、愛してるわ」

エレナは覚悟を決めるとたずなをしごいて加速した。エレナの前に乗っているアスカは物凄いスピードと振動で振り落とされそうになる。しかし、こんな岩場に振り落とされれば間違いなく大怪我をするであろう。

アスカは必死で馬の首にしがみついていた。

これはメリーゴーランド

これはメリーゴーランド

そうつぶやきながら。
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