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エドワルド王子

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 アスカは洞窟の奥の方にある牢獄に閉じ込められた。明かりはロウソク一本で薄暗い。見張りが二人出入口に座っている。おなかが空いていてぐうーぐうー鳴って惨めな気持ちになる。盗賊達はスープのような物を持ってきたがとてもじゃないが食べる気にはなれない。
薄明かりに照らしてみると、ゆで卵程の目玉が三つほどゴロゴロしてるし、生臭さとアンモニア臭が混じっている。とてもじゃないが手をつけられない。
見張り役は「ご馳走だぞ」と言うが本当だろうか。見るだけで吐き気がする。

 一人になってお父さんとお母さんと妹のハルナのことを思い出すと、涙がでてきた。衝動的にこんな所に来てしまってごめんなさい。もうみんなとは会えないかもしれない。わたしはこれからどうしたらいいの。

そこへ何かの気配を感じて振り向くと、いつの間にかペルーラがいた。アスカの顔に少しだけ希望が戻った。

「ペルーラ! どうやってここへ来たの?」

「僕は時計の精霊だからいつでも時計の近くにいるよ」

「もしかして助けに来てくれたの?」

「いや、残念だけど、僕にはそんな力はないよ。見守るくらいしか出来ないんだ」

「そうなの……でもペルーラがいてくれるだけで心強いわ」

「僕も君の傍にいたいんだけど……」とペルーラは肉球でアスカの左手首をポンポンと叩いた。

「月の時計ね。エレナという女に奪われたの」

「アスカ、何とか取り戻せないかな。あれが近くにないと君の傍にいられない」

「何とかしたいけど……」

二人は首をひねってしばらく考えたけれどもいいアイデアは浮かばなかった。



翌朝、アスカが目を覚ますとペルーラはいなくなっていた。洞窟の中が騒がしい。どうやら盗賊どもがどこかに出発する準備をしているようだ。

 昼前になり、ミカラム頭領が現れて牢屋から出された。

「おい、黒髪の女、これから山を超えて隣の国へ行く。大人しくついてこい。騒いだり逆らえばその命ないと思え」

ミカラムはぶっとい剣をアスカの前にふりかざした。

こんなもので切られたら頭が真っ二つに割れるに違いない。

アスカは大きく二つ頷いた。

「分かりました。分かりました」

そして、勇気を振り絞ってお願いした。

「と、頭領。時計をか、返してく、ください」

恐怖のあまり声がふるえる。

「時計か。時計は既にここにはない。今朝方エレナと一緒に町に出向いて売ってきた」

「えええぇぇぇぇ」

「心配するな。百ゴールドで売れたぞ」

(値段なんかどうでもいいよ。ペルーラと会えなくなったのよ)

「まあ、そう落ち込むなって。代わりにお前のために素敵なドレスを買ってきたから。エレナが選んだから間違いないぜ。楽しみにしてな」

ドレスなんて要らないわよ。

ペルーラ、ペルーラ、ペルーラ

ああ、わたしの唯一の心の救いが……

もう、ペルーラに会えないのね。

アスカはペルーラと会えなくなったことに脱力し、肩を落とした。

何もやる気がしない。

盗賊どもの馬に乗せられて山越えの旅に引き連れられた。





一方、町では路上に市場が広がっていた。

そこへ、白い馬に乗って現れたのはエドワルド王子。

白系の王族の服に身を包んでいるが、その鍛え上げられた筋肉質な体がよく分かる。

市場を見回っていたが、ある商人の前で馬から飛び降りると尋ねた。

「この月の時計をどこで手に入れた」

「は、はいそれは……」商人は驚いて目をしばたかせている。

「云わぬと切るぞ」
エドワルド王子はサーベルを抜きブュンブュンと振り回した。

「ひぇー。王子様勘弁してください。それは今朝盗賊から買い取りました」

「盗賊?」

「はい。脅されてしょうがなく買い取らされたんです」

「そいつらはどっちに向かった」

「山の方です」

「店主。この時計は俺様が買い取る。いくらで買取った?」

「百ゴールドです」

「よし、わかった! では俺様は二百ゴールド出そう。お代は後ほど城に取りに来い。異論はあるまい!」

「はい。それはそれは」と商人は嬉しそうな顔で手を擦り合わせている。

「ハイヤー! イケー!」
エドワルド王子はこの世で最も速い白馬と言われるホワイトブライアンを全速力で山の方に向けて走らせた。
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