上 下
37 / 41
ジャン=ジャック・ルソー

ママンの新しい恋人

しおりを挟む
ルソーがママンの家に急いで戻ると、いつものような歓迎を受けなかった。

それどころか、ルソーが帰って来ることを女中が知らなくて驚いた。こんな事は今までになかった事だった。

ルソーはショックを受けた。

ママンを見つけてその足元に駆け寄った。

「おら、おかえり坊や!」と言ってママンはルソーに接吻をした。

「旅行はどうだった? 体の調子は?」

「ママン、僕の手紙を受け取らなかったの?」

「受け取ったわよ」

「受け取っていないみたいだ」

「そんな事ないわよ」

ルソーは以前のように歓迎されていない事を悟った。

そして、それが何故なのかすぐにわかった。

この家には、一人の青年が住み着いていた。

女たらしの平凡な男で、体格はいいが、面白みもなんにもない金髪野郎だった。

二枚目のようなキザな口のきき方をして、歯の抜けた婆さん女中にまで手を出す始末で、ママンはそのことをたいへん嫌がったが、その女中を首にする訳にもいかなかった。

ママンはその青年と上手くいかない時はルソーに愚痴を言ったが、上手くいっている時にはルソーは全く相手にされなかった。

その青年の前では、ルソーはいないのも同然だった。

つまり、ルソーの立場は青年に完全に横取りされてしまったのだ。

ルソーはそれでも何とかママンの幸福を願って、自分の快楽やよろこびを犠牲にすることを誓った。

ママンのために青年を立派な男に仕立てあげようと教育を試みたが、無駄だった。

ルソーはママンを抱かないと決めて、その通りにした。その事は余計にルソーとママンとの距離を大きくしていった。

青年はママンのことをこれっぽっちも考えることなく、財産を浪費していった。

ママンの家は財産がつき果てて、もはや年金も止められるのは目に見えている状況となった。それでもママンはルソーの言葉に耳を傾けない。

ママンはルソーに対して冷たい態度をとるようになった。

もっとも愛するママンと心が全く通わない状況をルソーが耐えられる訳もなく、家を出ていくことにした。


リヨンに家庭教師の口があり、住み込みで兄弟二人を教えることになった。しかし、その子供たちは飲み込みが悪く、ルソーは苛立った。

飲み込みが悪いと怒鳴り散らし、イタズラをされると殺すのではないかというほどのけんまくで怒った。
 
これでは、良い教育もできるはずがなかった。

さらに、ママンの家では潜めていた盗み癖が再発した。ママンの家ではなんでも自由に使って良かったので何も盗む必要がなかったのだ。

しかし、家庭教師の家で酒蔵の管理を任されたルソーはワインを盗んで飲むようになってしまった。
それがばれて居ずらくなってしまったルソーは色々な事に失望して放浪の旅に出ることになった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径
歴史・時代
古事記、日本書紀、各国風土記などに遺された神話と魏志倭人伝などの中国史書の記述をもとに邪馬台国、古代出雲、古代倭(ヤマト)の国譲りを描く。予定。序章からお読みくださいませ

処理中です...