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ジャン=ジャック・ルソー
ママンからの便り
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ルソーはヴァランス婦人の消息が分からぬまま、貧乏生活をしていた。
時に、坊さんから食事を恵んでもらい、怪しげな性行為を強要されて逃亡したりしながら、飢えをしのいでいた。
優しい、下心のない立派な坊さんもいた。
そして、ようやくヴァランス婦人からの頼りがルソーの元に届いた。
旅費も同封されていて、ルソーは急いで夫人の元に向かった。まるで天国へ向かうかのような幸せな気持ちだった。
ルソーが婦人の元にたどり着くと、婦人はルソーにツテを使って仕事を紹介してくれた。それは、国王の土地を測量するという仕事で、数年の期限のある仕事だった。
数学的な思考が求められたが、なんとか独学で算術も学んでいたルソーは今度はなんとか勤める事ができそうであった。
婦人の屋敷にはクロード・アネが一緒に住んでいた。彼は薬草や茶について詳しいので、召使いとして雇われていた。婦人が植物研究を奨励したのでクロード・アネはますます植物の研究に熱心になり、植物学者となっていた。
ルソーが婦人の家に着いて間もなくして事件が起こった。
「坊や! 坊や! 早く来てちょうだい!」
ママンの叫び声に驚いていて駆けつけると、クロード・アネが床に倒れていた。口から泡のようなものを吹き出している。
ヴァランス婦人は落ち着きを失って、家中を駆け回った。
ルソーは訳が分からず、クロード・アネを介抱した。なんとか、水を飲ませて起こそうと試みた。
「坊や! この人は毒を飲んだみたい。どうしよう」
婦人は震える手で空になった阿片の瓶を持っていた。
ルソーはアネの口の中に手を突っ込んで吐き出させようとした。
口を下に向け背中を叩いた。
「私はこの人を死なせたくないの。坊や何とかして」
ルソーはアネの口の中に水を流し込んでなんとか毒を吐き出させようとした。
「私はこの人と愛し合っていたの。なんとか助けて」
(愛しあっていた?!)
ルソーはその意味をすぐには理解できなかった。
ルソーはアネの口の中奥深くに指を突っ込んだ。その時には少し憎しみの感情が沸き起こっていた。これ以上、入らないというくらいまで喉の奥の方にまで指を突っ込んだ。
「ゴホッゴホッ」
と言ってアネは阿片の粒を吐き出した。
涙を流しながら婦人が、粘液まみれのアネに抱きついた。
「神様、あー神様。ありがとうございます」
ルソーは、アネが無事に助かったのを見届けると、複雑な気持ちで部屋を出た。
婦人とアネがそんな関係であるとは今まで全く気づかなかった。
なんて俺は鈍感なんだろうとルソーは思った。
同じ家に住んでいてそんなことにも気づかなかったのだ。
もちろん、ルソーは母親のような婦人とそんな関係になろうとは思ってもいなかったのだが、嫉妬の感情が強く渦巻いていた。
時に、坊さんから食事を恵んでもらい、怪しげな性行為を強要されて逃亡したりしながら、飢えをしのいでいた。
優しい、下心のない立派な坊さんもいた。
そして、ようやくヴァランス婦人からの頼りがルソーの元に届いた。
旅費も同封されていて、ルソーは急いで夫人の元に向かった。まるで天国へ向かうかのような幸せな気持ちだった。
ルソーが婦人の元にたどり着くと、婦人はルソーにツテを使って仕事を紹介してくれた。それは、国王の土地を測量するという仕事で、数年の期限のある仕事だった。
数学的な思考が求められたが、なんとか独学で算術も学んでいたルソーは今度はなんとか勤める事ができそうであった。
婦人の屋敷にはクロード・アネが一緒に住んでいた。彼は薬草や茶について詳しいので、召使いとして雇われていた。婦人が植物研究を奨励したのでクロード・アネはますます植物の研究に熱心になり、植物学者となっていた。
ルソーが婦人の家に着いて間もなくして事件が起こった。
「坊や! 坊や! 早く来てちょうだい!」
ママンの叫び声に驚いていて駆けつけると、クロード・アネが床に倒れていた。口から泡のようなものを吹き出している。
ヴァランス婦人は落ち着きを失って、家中を駆け回った。
ルソーは訳が分からず、クロード・アネを介抱した。なんとか、水を飲ませて起こそうと試みた。
「坊や! この人は毒を飲んだみたい。どうしよう」
婦人は震える手で空になった阿片の瓶を持っていた。
ルソーはアネの口の中に手を突っ込んで吐き出させようとした。
口を下に向け背中を叩いた。
「私はこの人を死なせたくないの。坊や何とかして」
ルソーはアネの口の中に水を流し込んでなんとか毒を吐き出させようとした。
「私はこの人と愛し合っていたの。なんとか助けて」
(愛しあっていた?!)
ルソーはその意味をすぐには理解できなかった。
ルソーはアネの口の中奥深くに指を突っ込んだ。その時には少し憎しみの感情が沸き起こっていた。これ以上、入らないというくらいまで喉の奥の方にまで指を突っ込んだ。
「ゴホッゴホッ」
と言ってアネは阿片の粒を吐き出した。
涙を流しながら婦人が、粘液まみれのアネに抱きついた。
「神様、あー神様。ありがとうございます」
ルソーは、アネが無事に助かったのを見届けると、複雑な気持ちで部屋を出た。
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なんて俺は鈍感なんだろうとルソーは思った。
同じ家に住んでいてそんなことにも気づかなかったのだ。
もちろん、ルソーは母親のような婦人とそんな関係になろうとは思ってもいなかったのだが、嫉妬の感情が強く渦巻いていた。
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