上 下
28 / 41
ジャン=ジャック・ルソー

農村での出来事

しおりを挟む
ヴァランス婦人の消息が分からないルソーはアヌシーで婦人からの連絡を待つしか無かった。

その間、ルソーは割と可愛らしい顔をしていたので、若い娘からモテるようになっていた。

馬に乗った2人組のお嬢さんから誘惑を受けたり、音楽教室のお嬢さんから誘惑を受けた。

しかし、性的に疎いルソーは男女の関係を持つことも無く過ごしていた。

ちなみに、ルソーは男女関係なく、才能ある人を好きになるようで、ヴァンチュールと言うおしゃべり上手な歌声の良い青年を気に入った。

ルソーという人間は人に愛着を持ちやすい人間なんだと思う。

そして、誰かを陥れるとか、誰かの利益を奪い取るとかそう言った気持ちがないため、愛嬌があって気に入られることも多いのだろう。ただ、相手が自分を利用しようとしたり、無理やり何かをやらせようとしたり、不当な扱いをする事には反抗した。

この時のルソーはとにかくヴァランス婦人を母親のように慕っていたし、結ばれたいとも思っていた。なので、他の女性とは深い中にはならずにいた。何よりも心の中にあるのはヴァランス婦人だった。

待ってもヴァランス婦人からの便りがないので、ルソーは婦人の消息を追ってフランスへ旅に出る。

この頃のルソーは本当に貧乏で、放浪者だった。田舎の農村地帯を放浪しながら、様々なことを夢想して空腹に耐えた。

道がわからなくなって、農家に入った。

農村の人に声をかければ、ジュネーヴの時と同じように食うに困らない者は、放浪者に食べ物を恵んでくれるものと思っていた。

「すみません。なにか貰えませんか。喉がカラカラで、腹が減って動けません」

農民は怪訝そうにルソーを一瞥した。
「君は何者だい。どこから来たんだ」

「アヌシーから来ました。人を探してパリに向かっているのですが、迷子になってしまいまして」

「悪いがこれしかないんだ」
農民は薄い牛乳と粗末な大麦のパンを差し出した。

ルソーは久しぶりの食べ物に人目も気にせずがっついた。美味しそうに薄い牛乳を飲みほし、パンに付いたワラクズまで食べ尽くした。

それを見た農民は部屋に戻って、ハムと上等な小麦のパンとワインを持ってきてくれた。久々のご馳走にルソーの胃はびっくりしている。

「どうやら君は役人ではないようだ」

「はい。ただの旅人です」

「いや、フランスでは税金がきつくてな、贅沢品を持っていることが役人にバレると税として持っていかれてしまう」

「ぜ、贅沢品? 食べ物がですか?」

「ああ。役人は食べ物を持っていると容赦なく税として持っていくから、隠しているんだ」

「あなた方が一生懸命働いて作った農作物ではないですか。なぜ、役人に持っていかれるんですか」

「あいつら酒蔵ネズミ共は自分たちの身分を守るために容赦ねえんだ。餓死するとまではいかねえが、干からびる手前だよ」

「そ、そんな。真面目に働いているあなた方が食うに困るだなんて」

「まあ、仕方ねえよ。役人に逆らうのは王様に逆らうことになる」

「そ、そんな。王なら何をやっても構わないなんて許せない」

「若いの。滅多なことを言うもんじゃないよ。役人に知られたらとんでもない事になるぞ」


くそ!

真面目に生きている人達が損をしているなんて許せない。

ふつふつと怒りが込み上げてきた。

この出来事を経験して、ルソーは世界を見る目が変わった。

今まで、その現実を知らなかった事が恥ずかしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

大陰史記〜出雲国譲りの真相〜

桜小径
歴史・時代
古事記、日本書紀、各国風土記などに遺された神話と魏志倭人伝などの中国史書の記述をもとに邪馬台国、古代出雲、古代倭(ヤマト)の国譲りを描く。予定。序章からお読みくださいませ

処理中です...