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ジャン=ジャック・ルソー

父の逃亡

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ルソーは可愛がられながらも、精神的には抑圧されて育った。

しかしながら、中流階級に属しているルソーは当時の子供達の中では本を読むことが出来る恵まれた生活を送っていた。



大鷲のレフトはそんなルソーの状況を、アルプスの丘の上の筋肉隆々男に伝えた。

「それで、そのジャン=ジャック・ルソーとかいう子供の何が面白いのだ」

「この子は、体は弱々しいですが、本を読むことが出来ます」

「知識だけでは何の役にも立たんではないか」

「それだけではございません。支配からの抵抗力と実行力があります」

「ほう、例えば?」

「近所に口やかましいクロの奥さんという人がいました。クロの奥さんは決して悪い人では無いのですが、ルソーや他の子供たちを見る度に口やかましく小言を言います。彼女なりの教育的行動だったとは思われます。しかし、ルソーはこれが納得出来なかった」

「それで?」

「ルソーはクロの奥さんが教会に行っている間に鍋の中に小便をしたんです」

「ほう」

「クロの家族がその鍋を美味しい美味しいと言って食べてるのを覗いて大笑いしていました。これには私も吹き出さずにはおられませんでした」

「あははは。それは面白い。何をしでかすのかわからん子じゃな」

「はい。この子には不当な拘束に対する憎しみと、それに対する反抗心が育ってきているような気がします」

「うむ。そういったイデオロギーが人間社会には必要かもしれん。もう少し様子を見て来い」

「はっ!」

大鷲はジュネーヴの街を目指して急降下していった。



ルソーの父イザークは、珍しく街の酒場に来て若い女性の歌声を聴いて楽しんでいた。

そこへ、ゴーチェという軍人崩れの男がやって来てイザークにからんだ。

「お前の奥さん、シュザンヌだったかな。あれはいい女だったな」

「うるせえ。気分が悪くなるからあっちに行ってろ」

ゴーチェはひどく酔っ払っていた。イザークの肩に手を回した。

「なあ兄弟。そんなに冷たくすんなよ。あいつはいい女だった」

「てめえには関係ねえだろ!」

「いやいや、この街の男はみんなシュザンヌに惚れてたんだよ」

「だからどうしたんだよ」

「まあまあ、そう熱くなるなよ。兄弟。お前もそろそろシュザンヌの代わりになる女を探しにここへ来たんだろ」

「そんな事ねえよ。あっち行け!」

「そんなマジになんなよ。シュザンヌだってお前がいねえ間、ずいぶんよろしくやってたぜ」

「そんな事ねえよ。それ以上言ったらぶっ殺すぞ」
イザークは頭にきて自分よりもデカくて力も強いゴーチェを睨みつけた。

「はははは。笑えるぜ。お前知らねえのか。お前の奥さんはなあ、ラ・クロジュールって公使の男とよろしくやってたんだよ」

「なんだとこのやろう!」イザークは思わずゴーチェの顔面を殴りつけた。

「シュザンヌがそんなことするわけねえだろ!」イザークの腕は怒りで震えていた。

ゴーチェは鼻血を出しながら、よろけた。

「てめえこのやろう!」ゴーチェは猛然とイザークに殴りかかった。

非力なイザークはゴーチェとやり合っても敵うはずはなかった。

イザークは右手で剣を握りしめた。

それを見ていた酒場の男共は、ゴーチェを押さえつけた。
「やめろ、やめろ。どーみたっておめえが悪い」

イザークは気分を害して酒場を出て家に帰った。そして、ルソーを強く抱き締めた。


事件はそれだけでは終わらなかった。

翌日、イザークは警察に呼び出され、貴族に対して剣を抜いたという事で取調べを受けた。ゴーチェは縁者の議員を使ってイザークに重い罪をきせた。

ゴーチェは見た目はともかく、とても小賢しく、汚く、卑劣な男だったのだ。

特権階級の言い分がなんでも通る時代だ。イザークの弁解は全く聞き入れられなかった。イザークは牢獄に入れられるのを拒み、街を捨てることにした。シュザンヌの面影が強く残ったこの街で暮らすにはあまりにも辛すぎたのだ。

イザークは牢獄に入れられる前に他国へ逃亡し、ルソーはベルナール叔父を後見人としてジュネーヴに残ることになった。
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