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2章 卓球をはじめよう!
007話 初練習と、特技と ②
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そして、美夏の練習については自分に考えがあった。
「ミカの練習なんですが、最初みんなのラリーを見させようと思ってます」
「打たないの?」
稔里ちゃんが不思議そうな顔をする。さっき素振りはさせないと言ったから、すぐ打たせると思ったのだろう。
「この子、どんなスポーツでも『一流選手の動きを目で見て覚える』のがすごい上手いんです。せっかくフォームのお手本のようなみのりちゃんがいるんで、最初はみのりちゃんのラリーを見させようかと」
「なる。じゃアリスとゆのちで打った方がいいね。私とだと右対左になっちゃうし」
「あ、大丈夫っす! 見る人さえ右利きなら」
美夏の言葉に、私も続ける。
「私も絵東さんのラリー観たいので、最初は二人でお願いします」
「ん、りょーかい」
そう言うと、先輩がピンポン玉をラケットの上でポンポンと弾ませながら向かって左側に構える。左利きの選手は右利きのように真ん中に構えるのではなく右側、対戦する場合向かって左側に構えフォアハンド、利き腕側を大きく開ける形を取る。
「三年まともにラケット握ってないからいきなり空振りしても笑わないでよー」
そう言いながら先輩がそっと稔里ちゃんのフォアに対してサーブを打つ。稔里ちゃんも最初は軽めにレシーブをするが、絵東先輩のレシーブがみるみるうちにギアを上げていく。
小柄な先輩だから多分そうかなと思っていたが、やはり先輩は前陣速攻型のスタイルのようだ。台にピッタリと張り付き、ボールが卓球台を跳ねたと同時に素早く打ち返す。若干打ち返すボールにばらつきがあるのがブランクの影響なのだろうが、フォームの美しさには全くブランクを感じない。
私はつい先輩のフォームを目で追っていたが、隣を見ると美夏はしっかりと稔里ちゃんのフォームを目に焼き付けていた。
「重心は、基本フラット。打つとき利き足。利き足から体幹の捻りをインパクト後のフォロースルーまで繋げる……」
美夏がブツブツと小声でつぶやきながら稔里ちゃんの動きを観察している。
これが運動神経の権化と言われる私の幼馴染の特殊能力とも言うべき才能だ。
子供の頃から様々なスポーツをしてきたことで、どういう意図があって身体が今その動きをしているのかが見ればわかるらしい。
「よし、いけそう」
その場で何度か素振りをする美夏。びっくりするくらいそれらしいフォームになっている。
「じゃフォアでラリーね」
私もなんだかんだで去年の夏の稔里ちゃん戦がラストで半年以上はラケットを持っていない。フォアハンド、利き腕の表面でボールを打つ。懐かしい感覚。
私のサーブに対し、美夏がボールを返してくる。
初心者にありがちなラケットが上向きになってしまったり、腕で前に押し出すといった動きは一切ない。しっかりとラケットを斜め下に被せて斜め上に振り抜く卓球のフォーム。
もちろん見ただけと実際に自分で打つのでは打球感などに差があるだろう、最初はボールが上手くヒットせずネットに引っ掛けたり逆にコートオーバーしたりしたが、それもあっという間に修正してくる。
ものの数十分のラリーで美夏はそれなりの形でしっかりラリーが続くようになっていた。中学で三年間初心者から始める子たちを見てきたが、だいたい始めて半年くらいのラリーの形は身に付けている。
あらためて美夏の運動神経の良さを思い知る。無意識の自分が「ミカにすぐに抜かれてしまうんじゃないか」と不安になっていた気持ちは嘘ではなかった。
しばらく絵東先輩と稔里ちゃん、私と美夏の組み合わせでラリーを続けたあと、今度は絵東先輩からラリーのお誘いを受ける。自動的に美夏の相手は稔里ちゃんにお願いすることになる。
「お願いします」
「お手柔らかにね~」
久しぶりのサウスポーの選手とのラリー。小学校のクラブでは左利きの子がいたが、自分の周囲にいたサウスポーはその程度だったので、テレビやネットで見るようなトップクラスのサウスポーの球を受けるのは初めてだ。
(見た感じよりすごい重い……!)
卓球はボールに回転がかかっていると打ったときに重く感じる。
前陣速攻型の選手は球離れを速くすることを第一に考えるので、ほとんど回転のないボールを返す。小学校のときの私がそうだった。
でも、先輩のボールは球離れが速いのにしっかりと上回転が乗っている。ラケットへの当て方がよほど上手なのだろう。
「ゆのちいい球打つね。さすがカットマンだ」
「え、そうですか」
軽めのラリーなので打ちながらこれくらいの雑談はできる。むしろ初日は雑談込みにしたいから先輩は軽めのラリーをメインにしたのだと思う。
「うん。回転の乗りがいい。これだけ基礎連で回転かかってるならカットも良いカット打ちそう。せっかくだしカット打たない? 初日からはやめておく?」
カットはほぼベタ足で打つ基礎練習と違って一球毎に動く全身運動なのでさすがに雑談しながら打つようなものではない。
ただ、私の中ではカット打ちは基礎中の基礎だ。むしろ初日だからこそしっかりと身体に動きを思い出させたかった。
「いえ、カットいきます。次お願いします!」
「ミカの練習なんですが、最初みんなのラリーを見させようと思ってます」
「打たないの?」
稔里ちゃんが不思議そうな顔をする。さっき素振りはさせないと言ったから、すぐ打たせると思ったのだろう。
「この子、どんなスポーツでも『一流選手の動きを目で見て覚える』のがすごい上手いんです。せっかくフォームのお手本のようなみのりちゃんがいるんで、最初はみのりちゃんのラリーを見させようかと」
「なる。じゃアリスとゆのちで打った方がいいね。私とだと右対左になっちゃうし」
「あ、大丈夫っす! 見る人さえ右利きなら」
美夏の言葉に、私も続ける。
「私も絵東さんのラリー観たいので、最初は二人でお願いします」
「ん、りょーかい」
そう言うと、先輩がピンポン玉をラケットの上でポンポンと弾ませながら向かって左側に構える。左利きの選手は右利きのように真ん中に構えるのではなく右側、対戦する場合向かって左側に構えフォアハンド、利き腕側を大きく開ける形を取る。
「三年まともにラケット握ってないからいきなり空振りしても笑わないでよー」
そう言いながら先輩がそっと稔里ちゃんのフォアに対してサーブを打つ。稔里ちゃんも最初は軽めにレシーブをするが、絵東先輩のレシーブがみるみるうちにギアを上げていく。
小柄な先輩だから多分そうかなと思っていたが、やはり先輩は前陣速攻型のスタイルのようだ。台にピッタリと張り付き、ボールが卓球台を跳ねたと同時に素早く打ち返す。若干打ち返すボールにばらつきがあるのがブランクの影響なのだろうが、フォームの美しさには全くブランクを感じない。
私はつい先輩のフォームを目で追っていたが、隣を見ると美夏はしっかりと稔里ちゃんのフォームを目に焼き付けていた。
「重心は、基本フラット。打つとき利き足。利き足から体幹の捻りをインパクト後のフォロースルーまで繋げる……」
美夏がブツブツと小声でつぶやきながら稔里ちゃんの動きを観察している。
これが運動神経の権化と言われる私の幼馴染の特殊能力とも言うべき才能だ。
子供の頃から様々なスポーツをしてきたことで、どういう意図があって身体が今その動きをしているのかが見ればわかるらしい。
「よし、いけそう」
その場で何度か素振りをする美夏。びっくりするくらいそれらしいフォームになっている。
「じゃフォアでラリーね」
私もなんだかんだで去年の夏の稔里ちゃん戦がラストで半年以上はラケットを持っていない。フォアハンド、利き腕の表面でボールを打つ。懐かしい感覚。
私のサーブに対し、美夏がボールを返してくる。
初心者にありがちなラケットが上向きになってしまったり、腕で前に押し出すといった動きは一切ない。しっかりとラケットを斜め下に被せて斜め上に振り抜く卓球のフォーム。
もちろん見ただけと実際に自分で打つのでは打球感などに差があるだろう、最初はボールが上手くヒットせずネットに引っ掛けたり逆にコートオーバーしたりしたが、それもあっという間に修正してくる。
ものの数十分のラリーで美夏はそれなりの形でしっかりラリーが続くようになっていた。中学で三年間初心者から始める子たちを見てきたが、だいたい始めて半年くらいのラリーの形は身に付けている。
あらためて美夏の運動神経の良さを思い知る。無意識の自分が「ミカにすぐに抜かれてしまうんじゃないか」と不安になっていた気持ちは嘘ではなかった。
しばらく絵東先輩と稔里ちゃん、私と美夏の組み合わせでラリーを続けたあと、今度は絵東先輩からラリーのお誘いを受ける。自動的に美夏の相手は稔里ちゃんにお願いすることになる。
「お願いします」
「お手柔らかにね~」
久しぶりのサウスポーの選手とのラリー。小学校のクラブでは左利きの子がいたが、自分の周囲にいたサウスポーはその程度だったので、テレビやネットで見るようなトップクラスのサウスポーの球を受けるのは初めてだ。
(見た感じよりすごい重い……!)
卓球はボールに回転がかかっていると打ったときに重く感じる。
前陣速攻型の選手は球離れを速くすることを第一に考えるので、ほとんど回転のないボールを返す。小学校のときの私がそうだった。
でも、先輩のボールは球離れが速いのにしっかりと上回転が乗っている。ラケットへの当て方がよほど上手なのだろう。
「ゆのちいい球打つね。さすがカットマンだ」
「え、そうですか」
軽めのラリーなので打ちながらこれくらいの雑談はできる。むしろ初日は雑談込みにしたいから先輩は軽めのラリーをメインにしたのだと思う。
「うん。回転の乗りがいい。これだけ基礎連で回転かかってるならカットも良いカット打ちそう。せっかくだしカット打たない? 初日からはやめておく?」
カットはほぼベタ足で打つ基礎練習と違って一球毎に動く全身運動なのでさすがに雑談しながら打つようなものではない。
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「いえ、カットいきます。次お願いします!」
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