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プロローグ
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*2011年の作品です
【登場人物】
三原奈央(みはら なお)……ヒロイン。タウン誌の編集。
長峰佑樹(ながみね ゆうき)……奈央の元同級生。
唐沢(からさわ)……奈央と佑樹の元同級生。
=プロローグ=
電車の窓越しに流れていく景色を、三原奈央(みはら なお)は感慨深げに眺めた。日曜日のローカル線は空いていて、向かい合わせのボックスシートに他の乗客はいない。
卒業から10年も経ったのに、文化祭の取材というかたちで、母校を訪れることになろうとは思ってもみなかった。
奈央は28歳。千葉の県立高校から東京の私立大学に進み、卒業後は地元に戻って小さな出版社に就職した。今は実家を出てひとり暮らしをしながら、タウン情報誌の編集者をしている。
県内をいくつかのブロックに分けて、担当地域の様々な情報を紙面で紹介するやつだ。
秋には文化祭特集を組むのだが、今年は母校を取り上げることになったのだ。
よく晴れた10月の日曜日の昼下がり、電車は定刻に駅に着いた。パンツスーツにカメラバッグを肩から提げて、奈央はあの頃のように母校への道を歩く。
10年の間には、周辺も大きく様変わりしていた。
最寄駅は高架式になり、線路を横目に歩くことはできなくなった。通いなれた書店はつぶれ、校門前にあったベーカリーは、コンビニエンスストアに変身していた。
学校にも顔見知りの教師はいない。ただひとりを除いては。
「あんたが高校の先生とはね」
「おかしいか? これでも3年のクラスの副担任をやってて、きめの細かい進路指導を実践中だぞ」
高校の玄関先で奈央を出迎えてくれたのは、かつてのクラスメートだった唐沢(からさわ)だ。聞けば現代社会の教師として、今年の春から母校に赴任したのだという。
映画監督になる夢はどうしたのかと尋ねると、彼は首をすくめて、
「子どものころの夢をひとつずつ捨てて、大人になるんだよ」
と、笑った。
その笑顔が、高校時代の唐沢の笑顔に重なった。
と同時に様々な思い出がよみがえり、奈央の胸をきゅうっとさせる。他にもいたはずだ。
胸の奥深くにほろ苦い思いを刻み付けた人が。
来客用のスリッパに履き替えながら、奈央の心は高校三年生の秋に引き戻されていた。
【登場人物】
三原奈央(みはら なお)……ヒロイン。タウン誌の編集。
長峰佑樹(ながみね ゆうき)……奈央の元同級生。
唐沢(からさわ)……奈央と佑樹の元同級生。
=プロローグ=
電車の窓越しに流れていく景色を、三原奈央(みはら なお)は感慨深げに眺めた。日曜日のローカル線は空いていて、向かい合わせのボックスシートに他の乗客はいない。
卒業から10年も経ったのに、文化祭の取材というかたちで、母校を訪れることになろうとは思ってもみなかった。
奈央は28歳。千葉の県立高校から東京の私立大学に進み、卒業後は地元に戻って小さな出版社に就職した。今は実家を出てひとり暮らしをしながら、タウン情報誌の編集者をしている。
県内をいくつかのブロックに分けて、担当地域の様々な情報を紙面で紹介するやつだ。
秋には文化祭特集を組むのだが、今年は母校を取り上げることになったのだ。
よく晴れた10月の日曜日の昼下がり、電車は定刻に駅に着いた。パンツスーツにカメラバッグを肩から提げて、奈央はあの頃のように母校への道を歩く。
10年の間には、周辺も大きく様変わりしていた。
最寄駅は高架式になり、線路を横目に歩くことはできなくなった。通いなれた書店はつぶれ、校門前にあったベーカリーは、コンビニエンスストアに変身していた。
学校にも顔見知りの教師はいない。ただひとりを除いては。
「あんたが高校の先生とはね」
「おかしいか? これでも3年のクラスの副担任をやってて、きめの細かい進路指導を実践中だぞ」
高校の玄関先で奈央を出迎えてくれたのは、かつてのクラスメートだった唐沢(からさわ)だ。聞けば現代社会の教師として、今年の春から母校に赴任したのだという。
映画監督になる夢はどうしたのかと尋ねると、彼は首をすくめて、
「子どものころの夢をひとつずつ捨てて、大人になるんだよ」
と、笑った。
その笑顔が、高校時代の唐沢の笑顔に重なった。
と同時に様々な思い出がよみがえり、奈央の胸をきゅうっとさせる。他にもいたはずだ。
胸の奥深くにほろ苦い思いを刻み付けた人が。
来客用のスリッパに履き替えながら、奈央の心は高校三年生の秋に引き戻されていた。
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