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1章
6話
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炎天下の練習は只でさえ辛いのに、凌斗は昨日生理が来た日であった。いわゆる生理2日目というやつで、コンディションは最悪だった。 凌斗のポジションはセンターフォワード。 このチームではフォワードが最も熾烈なポジション争いが行われているのだが、三年生でさえ凌斗のライバルではなかった。凌斗はゴール付近での得点力がずば抜けて優れている。ただ、一つだけ大きな弱点があった。 生理があるため貧血が起こりやすいのだ。特に生理2日目は酷いので、どうしてもパフォーマンスの質が落ちてしまう。そこをライバル達やコーチにムラがあると指摘されないように、必死で体調不良を誤魔化しながらプレイしなければならない。
何度目か数えるのが嫌になるくらいのシュート練習をしていたときだった。
「部長、ちょっといいですか?」
耳慣れた蒼の声が聞こえてきた。蒼は結局部活が始まるギリギリに現れたので、部屋を出てからまだ会話らしい会話は交わしてなかった。
「すいません。ちょっと指の感覚おかしいんでテーピングして来てもいいっすか?」
「え、まじで? 痛みは?」
蒼の言葉に部長を務める北川が心配そうな顔を見せる。
「大丈夫です。ちょっと違和感あるんで悪くならないように念のためってとこです」
「そか。よかった。城田無しで全国はキツいからまじで怪我は気を付けてくれよ」
怪我というわけでは無いと知って、北川は安心した顔を見せる。
蒼は1失点のみで中学の全国大会を制したチームのゴールキーパーで、当時の監督が熱烈に口説いて入学させたという逸話の持ち主だった。高校1年のときからレギュラーの座を誰にも明け渡したことはなかった。
「はい。あ、川瀬にテーピング頼みたいんで一緒に少し抜けます」
唐突に出てきた自分の苗字に、凌斗は思わず二人を振り返る。
「凌斗、いいかな?」
振り返って目が合った凌斗に蒼は問い掛ける。
「30分後に紅白戦始めるから城田も川瀬もそれまでに戻れよ」
凌斗が返答する前に部長から声が掛かった。
部室の扉を開けると、夏の室内特有の蒸れた空気が立ち込めていた。
先に部室に足を踏み入れた蒼がエアコンのスイッチを入れると、涼やかな風が吹き出し、思わず凌斗はほっと息を吐いた。
「ほら、蒼。手」
部室に置いてある救急箱からテーピング用のアイテムを取り出しながら凌斗が言うと
「あー、テーピングしなくても大丈夫。別に手は何ともないから」
蒼はキーパーグローブを取ると、 問題ないと言うように凌斗の目の前でてのひらを握ったり開いたりしてみせた。
「は?なんで?」
驚いて軽く目を見開いた凌斗の頬に、大きな蒼のてのひらが触れた。
「凌斗、顔色めちゃくちゃ悪かった……貧血起こしてるでしょ?少し休んだ方がいいと思って」
「え…… そんな分かるくらい駄目だったか?」
パフォーマンスは落ちてないつもりだったんだけど、と凌斗が落ち込んだ表情を見せる。
「プレーは全然平気。いつもどおりシュートの切れ味も良かったし、今日もすごい格好良かった」
ふわり、と蕩けるような優しい笑顔を浮かべて凌斗を見るものだから、思わず凌斗はどぎまぎして蒼から目を逸らした。
「でも」
蒼のてのひらが、凌斗の頬をそっと撫でて
「少し、顔色が悪いと思って」
心配そうに言った。
「……な……っなんだよっ……お前は三年とシュート練してたくせに、こっちまでチェックしてるなんて、さすが高校生NO.1キーパーとか言われてるヤツはヨユーだなっ」
体調が悪かったことを見抜かれてたことが恥ずかしくて、凌斗はイライラしてしまう。普段はこんなことくらいで腹なんか立たないのに。それどころか、凌斗を心配して上手いこと部室で休ませる算段をしてくれた蒼に感謝するべきだとわかっているのに。八つ当たりのように凌斗が意地悪な言い方をすると
「余裕なんて、ないよ……」
砂糖をたっぷり含ませたと思うほどに甘いのに、どこか苦味も含んだような切ない声で蒼は呟くと凌斗を腕をそっと引いて近くの椅子に座ると、自身の膝に凌斗を乗せた。
「そ……っ蒼?」
「すぐ無理するし……危なっかしくて、心配で心配で目が離せない……」
膝に乗せた凌斗を背中からぎゅっと抱き締める。決して小さいわけではない凌斗だが、キーパーとして名高い蒼は長い手足と広い肩幅を持ち体格にも恵まれていて、すっぽりと腕の中に収まってしまう。
蒼の大きなてのひらがトレーニングウェアのウエストを潜って滑らかで美しい腹筋の更に下。
「躯は熱いのに、ココは冷えてる……痛いでしょ?痛み止め飲んだ?」
ずきずきと疼く下腹を優しく撫でられると、伝わる温かさでイライラしていた気持ちも撫でられていくみたいだった。
「朝飲んだけど……ちょっと痛い……それより」
「貧血がきつい?」
優しいてのひらに痛いことを、辛いことを隠せなくなる。 凌斗が素直に頷くと、蒼は椅子のすぐ後ろにあったロッカーに手を延ばして荷物の中から何か小さな瓶を取り出した。
「鉄剤持ってきた。朝飲み忘れてたよね」
貧血対策で毎朝凌斗が飲んでるドリンクタイプの鉄剤を蒼はキャップをばきり、と緩めて手渡す。
「わり……ありがと」
フルーティーな味のドリンク剤を凌斗はぐいっと飲み干す。
「じゃ、練習戻るか……っうわ」
ドリンク剤を飲み干して蒼の膝から立ち上がりかけた凌斗だが、腕をぐいっときつく後ろに引かれた。
「鉄剤飲んだからってすぐに元気になるわけじゃないから……」
蒼の広い胸にどさりと倒れ込んだ凌斗をそのまま背中からぎゅっと抱き締める。
「部長も30分はいいって言ってくれたし、少し休んでから行こう?」
紅白戦の前にタンポンも変えた方がいいだろうしね、と甘い声を流し込まれて、凌斗の体温がふわりと高まる。蒼のマリンのトワレと汗の匂いが混じって、艶かしい匂いにクラクラ目眩がしそうだった。
「部長も三年もお前には皆甘いもんな。俺なんかトイレに行っただけで罰則ランニングなのにさ」
腕の中が心地好いと認められなくて、どこか拗ねたような口ぶりになってしまう。
「そんなことないよ。キーパーは少ないから、貴重なだけ。凌斗の得点力の方がみんな期待してるよ」
そう言って大きなてのひらが凌斗の内ももを撫でた。思わずびくり、と凌斗は背を引き攣らせる。
「ごめん、ごめん。凌斗、敏感だよね……いい匂い……」
謝りながらも、脚を撫でるのを止めず、鼻先を凌斗の耳の辺りに潜らせる。大きなてのひらが、腹部や脚に優しい熱を伝える。
いい匂いって、お前の方がだろ……そう思ったけれど、腕の中にいるとぼうっとしてきて言葉にならない。
「ちょっとだけど、寝たら? タンポン変えなきゃいけないから5分前になったら起こすね」
甘い声に誘惑されるままに凌斗は目を閉じた。
何度目か数えるのが嫌になるくらいのシュート練習をしていたときだった。
「部長、ちょっといいですか?」
耳慣れた蒼の声が聞こえてきた。蒼は結局部活が始まるギリギリに現れたので、部屋を出てからまだ会話らしい会話は交わしてなかった。
「すいません。ちょっと指の感覚おかしいんでテーピングして来てもいいっすか?」
「え、まじで? 痛みは?」
蒼の言葉に部長を務める北川が心配そうな顔を見せる。
「大丈夫です。ちょっと違和感あるんで悪くならないように念のためってとこです」
「そか。よかった。城田無しで全国はキツいからまじで怪我は気を付けてくれよ」
怪我というわけでは無いと知って、北川は安心した顔を見せる。
蒼は1失点のみで中学の全国大会を制したチームのゴールキーパーで、当時の監督が熱烈に口説いて入学させたという逸話の持ち主だった。高校1年のときからレギュラーの座を誰にも明け渡したことはなかった。
「はい。あ、川瀬にテーピング頼みたいんで一緒に少し抜けます」
唐突に出てきた自分の苗字に、凌斗は思わず二人を振り返る。
「凌斗、いいかな?」
振り返って目が合った凌斗に蒼は問い掛ける。
「30分後に紅白戦始めるから城田も川瀬もそれまでに戻れよ」
凌斗が返答する前に部長から声が掛かった。
部室の扉を開けると、夏の室内特有の蒸れた空気が立ち込めていた。
先に部室に足を踏み入れた蒼がエアコンのスイッチを入れると、涼やかな風が吹き出し、思わず凌斗はほっと息を吐いた。
「ほら、蒼。手」
部室に置いてある救急箱からテーピング用のアイテムを取り出しながら凌斗が言うと
「あー、テーピングしなくても大丈夫。別に手は何ともないから」
蒼はキーパーグローブを取ると、 問題ないと言うように凌斗の目の前でてのひらを握ったり開いたりしてみせた。
「は?なんで?」
驚いて軽く目を見開いた凌斗の頬に、大きな蒼のてのひらが触れた。
「凌斗、顔色めちゃくちゃ悪かった……貧血起こしてるでしょ?少し休んだ方がいいと思って」
「え…… そんな分かるくらい駄目だったか?」
パフォーマンスは落ちてないつもりだったんだけど、と凌斗が落ち込んだ表情を見せる。
「プレーは全然平気。いつもどおりシュートの切れ味も良かったし、今日もすごい格好良かった」
ふわり、と蕩けるような優しい笑顔を浮かべて凌斗を見るものだから、思わず凌斗はどぎまぎして蒼から目を逸らした。
「でも」
蒼のてのひらが、凌斗の頬をそっと撫でて
「少し、顔色が悪いと思って」
心配そうに言った。
「……な……っなんだよっ……お前は三年とシュート練してたくせに、こっちまでチェックしてるなんて、さすが高校生NO.1キーパーとか言われてるヤツはヨユーだなっ」
体調が悪かったことを見抜かれてたことが恥ずかしくて、凌斗はイライラしてしまう。普段はこんなことくらいで腹なんか立たないのに。それどころか、凌斗を心配して上手いこと部室で休ませる算段をしてくれた蒼に感謝するべきだとわかっているのに。八つ当たりのように凌斗が意地悪な言い方をすると
「余裕なんて、ないよ……」
砂糖をたっぷり含ませたと思うほどに甘いのに、どこか苦味も含んだような切ない声で蒼は呟くと凌斗を腕をそっと引いて近くの椅子に座ると、自身の膝に凌斗を乗せた。
「そ……っ蒼?」
「すぐ無理するし……危なっかしくて、心配で心配で目が離せない……」
膝に乗せた凌斗を背中からぎゅっと抱き締める。決して小さいわけではない凌斗だが、キーパーとして名高い蒼は長い手足と広い肩幅を持ち体格にも恵まれていて、すっぽりと腕の中に収まってしまう。
蒼の大きなてのひらがトレーニングウェアのウエストを潜って滑らかで美しい腹筋の更に下。
「躯は熱いのに、ココは冷えてる……痛いでしょ?痛み止め飲んだ?」
ずきずきと疼く下腹を優しく撫でられると、伝わる温かさでイライラしていた気持ちも撫でられていくみたいだった。
「朝飲んだけど……ちょっと痛い……それより」
「貧血がきつい?」
優しいてのひらに痛いことを、辛いことを隠せなくなる。 凌斗が素直に頷くと、蒼は椅子のすぐ後ろにあったロッカーに手を延ばして荷物の中から何か小さな瓶を取り出した。
「鉄剤持ってきた。朝飲み忘れてたよね」
貧血対策で毎朝凌斗が飲んでるドリンクタイプの鉄剤を蒼はキャップをばきり、と緩めて手渡す。
「わり……ありがと」
フルーティーな味のドリンク剤を凌斗はぐいっと飲み干す。
「じゃ、練習戻るか……っうわ」
ドリンク剤を飲み干して蒼の膝から立ち上がりかけた凌斗だが、腕をぐいっときつく後ろに引かれた。
「鉄剤飲んだからってすぐに元気になるわけじゃないから……」
蒼の広い胸にどさりと倒れ込んだ凌斗をそのまま背中からぎゅっと抱き締める。
「部長も30分はいいって言ってくれたし、少し休んでから行こう?」
紅白戦の前にタンポンも変えた方がいいだろうしね、と甘い声を流し込まれて、凌斗の体温がふわりと高まる。蒼のマリンのトワレと汗の匂いが混じって、艶かしい匂いにクラクラ目眩がしそうだった。
「部長も三年もお前には皆甘いもんな。俺なんかトイレに行っただけで罰則ランニングなのにさ」
腕の中が心地好いと認められなくて、どこか拗ねたような口ぶりになってしまう。
「そんなことないよ。キーパーは少ないから、貴重なだけ。凌斗の得点力の方がみんな期待してるよ」
そう言って大きなてのひらが凌斗の内ももを撫でた。思わずびくり、と凌斗は背を引き攣らせる。
「ごめん、ごめん。凌斗、敏感だよね……いい匂い……」
謝りながらも、脚を撫でるのを止めず、鼻先を凌斗の耳の辺りに潜らせる。大きなてのひらが、腹部や脚に優しい熱を伝える。
いい匂いって、お前の方がだろ……そう思ったけれど、腕の中にいるとぼうっとしてきて言葉にならない。
「ちょっとだけど、寝たら? タンポン変えなきゃいけないから5分前になったら起こすね」
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