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7章

黒い魔法使い

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ユノとキリヤがアンドレアや騎士団の幹部からやや遅れて陣営に入ると、予めこの作戦に則って訓練していたお陰で、もう騎士団の準備は整っていた。
「ユノとキリヤ様は後ろに下がっていてください。騎士団で新しい炎の攻撃魔法を習得しておりますので姿を見せたら一斉にその魔法を使います。その魔法で『黒の魔法』を使う魔法使い以外にはダメージを負わせられます。ダメージを与えた後は、キリヤ様に兵士たちが攻撃をできないように一か所に集めて捕らえます。そうすれば残るはドレイク宰相だけです」
「新しい炎の魔法?」
ギルラディアの兵士をドレイク宰相から引き離す作戦は事前に聞いていたが、ユノは新しい炎の魔法の話を聞くのは初めてだった。
「あぁ。フライングレースの時に火の精が消えるような魔法は使わない方がいいとユノはアドバイスしてくれただろう? 火の精の言葉も教えてくれたから、火の精とコミュニケーションが取れる様になった。お陰で火の精を消さずに攻撃できる上に、今回の作戦に効果的な新しい魔法を作り出すことができた」
緊迫した時ではあったが、ユノはアンドレアの言葉を聞いて嬉しくなって目を細めた。
「火の精と一緒に生み出した魔法なんてすごいですね!」
「あぁ。すごい魔法だから、よく見ていてくれ」
アンドレアは嬉しそうに言って、ユノに手を差し出した。
差し出された手をユノが握って二人は固く握手を交わすと、アンドレアは少しだけ心配そうに口を開いた。
「ユノは分かっていると思うが、ドレイクの『黒い魔法』で一番怖いのは一瞬で命を奪う『絶命の魔法』だ。それに十分気を付けてくれ。あとキリヤ様の『封印の魔法』が当たればドレイクも動けないが、完全に封印するには数分かかる。その間はキリヤ様も無防備になる。俺たちの方でギルラディア兵が行かないようにするが、万が一騎士団が捕らえ損なった者がキリヤ様を狙わないか、ユノがよく見ていてくれ」
「わかりました。アンドレアも気を付けて」
ユノが言うとアンドレアは頷いた。
「キリヤ様、ご武運をお祈りします」
アンドレアはキリヤの手を取ると、今度はキリヤとも固く握手を交わした。
「お前なら大丈夫だと信じている。必ず我々が勝利して国民を安心させよう」
キリヤがアンドレアに微笑むと、アンドレアは泣き笑いのような表情になった。
「はい。必ず」
アンドレアがそう言うと、北の方角の空に小さな光の集団が見えた。
「来ましたね」
ユノがそう言うと、アンドレアはすぐに騎士団のところに駆け戻った。
そして。
「打て」
アンドレアが騎士団に合図をすると、アンドレアを始めとする騎士団が一斉に空に向かって指を翳した。
すると、それぞれの指の先から炎の鞭のような長細いものが現れ、こちらに向かうギルラディア軍に向かって一斉にそれは伸びて行った。
これならば指先から炎が離れることがないので、火の妖精が消えることはない。
まだ夜が明け前の暗い空に一斉に放たれた炎。
一人一人のものは細くても、それが絡み合うようになって、太い火の放射となり、まるで夏の昼間の様に明るくなった。
こちらが急襲を仕掛けてくるとは思いもよらなかったのか、炎の放射から慌てて箒を翻して逃げる兵士たちが見えたが、その兵士たちを火の放射はぐるりと取り巻いた。
「すごい……!」
作戦通りの様子にユノは思わず興奮して声を上げた。
アンドレアたち騎士団はそのまま空に飛び立ち、火の放射で取り囲んだギルラディア兵を捕らえに向かった。
そこからほんの数秒だった。
黒い風のようなものが雪の上に舞った。
騎士団の素晴らしい魔法で高揚した気分が一気に吹き飛ぶほどに重く、不穏な空気が流れた。
「……っ現れたな」
キリヤが低く言った。
「能力の高い『術師』を隠していたのか。これまで『光の魔法使い』にずっと付いていた『術師』は随分とレベルが低い『術師』であった。してやられたな」
黒い風は徐々に人の形となり、真っ黒なローブを着た恐ろしい魔法使いが現れた。
初めて会うが、ユノもキリヤもすぐに分かった。
『黒の魔法使い』であるドレイク宰相だ。
    
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