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5章
冬の休暇~幼馴染達との夜~
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ホリデーパーティの夜を村長の家で子どもたちと過ごしたあと、村長夫人に沢山のごちそうの入ったバスケットを持たされたユノは、年下の国境警備隊員であるマルクルと待ち合わせ、ギーク村に向かった。
二人で真冬のため凍っているその川を渡ると、ギーク村の国境警備隊の詰所の明かりが見える。
ギルラディア共和国ギーク村の詰所の前に二人は降り立つ。
詰所の大きな窓から川を渡ってくる様子が見えていたらしく、ユノたちが呼び鈴を鳴らす前に扉は開いた。
「ユノ! マルクル! いらっしゃい!」
中から飛び出してきたのはギーク村の国境警備隊のルカ。今日は焦げ茶色の髪を後ろで一つに縛っていた。
そして彼の背後からは昨日会ったニコライが顔を覗かせていた。
ニコライとルカはユノよりも年上で今年二十歳になった。
「早速来てくれたのか。寒いから早く中に入れ」
ルカとニコライは笑いながら二人を温かく迎え入れてくれた。
「こっちのケーキとか葡萄酒は二人に差し入れで、楓の蜜の瓶はギーク村のみんなに配って」
ユノは収納バッグからバスケットを取り出してルカとニコライに渡しながら言った。
「みんな砂糖が手に入らなくて困っていたからありがてぇ」
ルカが葡萄酒を温めてくれている間に、ニコライが受け取った楓の蜜の瓶を見て言う。
「うちの村には楓の木も一緒に使えたらいいのに」
マルクルがため息交じりに言う。
「学校も治癒院も二つの村で一緒に作って共有して、国境警備隊以外も自由に行き来出来たら僕たちの生活も大分良くなるのにね」
ルカが一人一人に温めた葡萄酒が入ったカップを渡しながら言う。
「そうだな。あと国交が回復したら貿易や旅行なんかでこの国境を通る人も増えるだろうし。国交が回復して国境警備隊がいらなくなったら、大きなログハウス作って宿屋やってみたいよなぁ」
ルカが夢見る様に言った。
子供の時からずっとこんな風に何度も何度もお互いの夢を話し合ってきた。
だからもう、数えきれないほど互いの夢を聞いてきている。
みんな口にすることで、遠いところにあるその夢を近づけようとしているみたいだった。
「でもドレイク宰相は『封印の魔法』が解けたら早速戦争の準備ときたもんだ」
ニコライがため息を吐いて、カップの葡萄酒をグイっと呑んだ。
「年が明けたら、村の役場とこの国境警備隊の詰所にも首都からドレイクの息がかかった役人が派遣されるんだよな」
ルカが困ったように言う。
「じゃあこれまでみたいに、ここに気軽に来られなくなっちゃうってこと?」
マルクルが眉をハの字のように下げて言う。
「そうだ。これまでみたいにここには来られないぞ」
ニコライがマルクルの言葉を肯定する。
「いよいよ、また戦争って感じがしてきたな……」
「戦争が始まったら……ニコライとルカとも戦わなきゃならないってこと……?」
一番年下のマルクルが不安そうに呟いた。
それまで騒がしかった室内に、パチパチ……と暖炉で火の精が弾ける音だけ響いた。
ユノは立ち上がると暖炉の前にしゃがみ込み、そっと火の精に魔法油を注ぐ。
そして静かに、だがはっきりとユノは口を開いた。
「戦争が始まったら学期の途中でもすぐに帰ってくる。絶対に俺たちの間で殺し合うなんてさせないから」
親たちの世代は準備が足りなかったため、ユノたちの両親を始めとするクルリ村の村民の多くが犠牲になった。
「そうだ。戦争になっても俺たちは絶対に生き残って、二つの村を栄えさせる夢を叶えよう」
ニコライは安心させるようにマルクルの傍に行くとマルクルの巻き毛を大きな手で撫でた。
二人で真冬のため凍っているその川を渡ると、ギーク村の国境警備隊の詰所の明かりが見える。
ギルラディア共和国ギーク村の詰所の前に二人は降り立つ。
詰所の大きな窓から川を渡ってくる様子が見えていたらしく、ユノたちが呼び鈴を鳴らす前に扉は開いた。
「ユノ! マルクル! いらっしゃい!」
中から飛び出してきたのはギーク村の国境警備隊のルカ。今日は焦げ茶色の髪を後ろで一つに縛っていた。
そして彼の背後からは昨日会ったニコライが顔を覗かせていた。
ニコライとルカはユノよりも年上で今年二十歳になった。
「早速来てくれたのか。寒いから早く中に入れ」
ルカとニコライは笑いながら二人を温かく迎え入れてくれた。
「こっちのケーキとか葡萄酒は二人に差し入れで、楓の蜜の瓶はギーク村のみんなに配って」
ユノは収納バッグからバスケットを取り出してルカとニコライに渡しながら言った。
「みんな砂糖が手に入らなくて困っていたからありがてぇ」
ルカが葡萄酒を温めてくれている間に、ニコライが受け取った楓の蜜の瓶を見て言う。
「うちの村には楓の木も一緒に使えたらいいのに」
マルクルがため息交じりに言う。
「学校も治癒院も二つの村で一緒に作って共有して、国境警備隊以外も自由に行き来出来たら僕たちの生活も大分良くなるのにね」
ルカが一人一人に温めた葡萄酒が入ったカップを渡しながら言う。
「そうだな。あと国交が回復したら貿易や旅行なんかでこの国境を通る人も増えるだろうし。国交が回復して国境警備隊がいらなくなったら、大きなログハウス作って宿屋やってみたいよなぁ」
ルカが夢見る様に言った。
子供の時からずっとこんな風に何度も何度もお互いの夢を話し合ってきた。
だからもう、数えきれないほど互いの夢を聞いてきている。
みんな口にすることで、遠いところにあるその夢を近づけようとしているみたいだった。
「でもドレイク宰相は『封印の魔法』が解けたら早速戦争の準備ときたもんだ」
ニコライがため息を吐いて、カップの葡萄酒をグイっと呑んだ。
「年が明けたら、村の役場とこの国境警備隊の詰所にも首都からドレイクの息がかかった役人が派遣されるんだよな」
ルカが困ったように言う。
「じゃあこれまでみたいに、ここに気軽に来られなくなっちゃうってこと?」
マルクルが眉をハの字のように下げて言う。
「そうだ。これまでみたいにここには来られないぞ」
ニコライがマルクルの言葉を肯定する。
「いよいよ、また戦争って感じがしてきたな……」
「戦争が始まったら……ニコライとルカとも戦わなきゃならないってこと……?」
一番年下のマルクルが不安そうに呟いた。
それまで騒がしかった室内に、パチパチ……と暖炉で火の精が弾ける音だけ響いた。
ユノは立ち上がると暖炉の前にしゃがみ込み、そっと火の精に魔法油を注ぐ。
そして静かに、だがはっきりとユノは口を開いた。
「戦争が始まったら学期の途中でもすぐに帰ってくる。絶対に俺たちの間で殺し合うなんてさせないから」
親たちの世代は準備が足りなかったため、ユノたちの両親を始めとするクルリ村の村民の多くが犠牲になった。
「そうだ。戦争になっても俺たちは絶対に生き残って、二つの村を栄えさせる夢を叶えよう」
ニコライは安心させるようにマルクルの傍に行くとマルクルの巻き毛を大きな手で撫でた。
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