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5章
冬の休暇~離れがたい~
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二人が歩いていくのは真っ白な雪原。
向こうには楓の森が見える。
「向こうに見える楓の森がうちの村の自慢なんですが、戦争の前はこの雪原も楓の森だったんです。全部燃やされてしまって。蜜が採れる楓は農作物の収穫があまり望めない村の貴重な財源でもあるので、少しずつですが元に戻るよう植林しているんですが、思うように進んでいないのが現実です。更に戦争になったら、今度こそ楓の森は全て無くなってしまうかもしれません……」
「そうか……ここも楓の森だったのか」
ユノの話を聞いてキリヤは真っ白な雪原を見つめた。
「それで、君は村だけでなく森も守らなければならなったから『守護神の石』を作ることに熱心だったんだな」
「はい。ようやく再建できた村人達の家や楓の森を戦火から守ってくれる『守護神の石』が戦争が始まる前にどうしても必要なんです」
『守護神の石』で囲んだところは外敵の攻撃から守ってくれるシールドが現れる。
王都の王宮などはそのようにして外敵の攻撃に備えているのだが、それをどうしても村に持ち帰りたい。
「しかし『守護神の石』は貴重な鉱石だ。村の住宅だけならまだしも、森を守るとなると相当の量が必要だ。国中から集めても集まるかどうか……もうこれ以上戦場になってしまった場所を犠牲にしたくない。何か良い手立てはないものか」
ユノの故郷の景色を見渡しながらキリヤは苦しそうに呟いた。
「実は、来学期『魔法動物の谷』に学園で研修旅行に行くと思うのですが、そこに『守りの氷』というものがあるらしいんです」
「『守りの氷』? 聞いたこと無いな」
初めて聞く言葉にキリヤは目を見張った。
「『錬金術』の授業のトリトン先生が鉱石にとても詳しいので一緒に調べたところ『守護神の石』と同じ効力を発する氷でした」
ユノが言うとキリヤは目を輝かせた。
「もしかして『守りの氷』は氷が溶ける気温のところでは効力を発揮しないが、この村のようにずっと寒いところでは『守護神の石』と同様に使える、そういうことか?」
「そのとおりです。研修旅行の際にトリトン先生とその氷の採集をしてみないかと話しています」
キリヤの言葉にユノは頷いた。
「『守りの氷』で村を戦火から守れるなら作戦の幅が大きく広がるな。採集に軍の者や国の学者を同行させよう。トリトン先生には国と共同で『守護神の石』の代替物の共同調査を進めたいということを学者を通じてこの休暇のうちに相談しておく。国の作戦のための事業とすれば人も多く動かせる」
そう言ってキリヤはユノの肩をさらに強くぎゅっと抱いた。
「どこかを犠牲にしないで国を守れるよう、なんとかしてみせる」
「ありがとうございます。僕も今まで沢山『守りの氷』について調べたので是非一緒に採集させて下さい」
ユノがそう言うと視界にキリヤのものと思わしき馬車が入った。その馬車が見えると、キリヤの視線がキョロキョロと不自然に動いた。
彼がこんな様子を見せるのは珍しい。
「ユノ……その……」
「うん?」
キリヤの意図が分からず、ユノが首を傾げる。
キリヤのきれいな顔が珍しく真っ赤に染まっている。
「頑張れるように……キス……してほしい」
キスならば、さっきも散々した。それが嫌だなんて言った覚えはないのに。
「その……なんだ……君から……」
疑問がそのまま顔に浮かんでいたであろうユノに、キリヤが分かるように言い直した。
「お……俺から?!」
離れたところに馬車が見えるだけの誰もいない雪原で、思わず大きな声を出してしまった。
「……だめか? 君の態度や嘘をつかない彼を見て隣国の兵士だが問題ない人物なのだと判断したよ。ただその分……君を大きな愛で包んでいるように見えて、僕は……かなり妬いている。明日のホリデーパーティの夜は彼と過ごすんだろう?」
あのクールなキリヤの拗ねたような甘えるような表情に心臓がどきん、と脈打った。
「他にも幼馴染たちがいます……二人きりじゃないですよ」
彼が妬いているだなんて、信じられなくて動揺を隠すように静かな声で伝えた。
「あんな仲の良さそうな幼馴染が他にもいるのか。僕の手前抑えていたようだったが、彼が君を見る目は、とても大切なものを見るような目だったし、君も彼を信頼しきっていた」
「家族みたいなものですから。その……キリヤに対する気持ちとは違います」
ユノがそう言ってもキリヤの瞳は拗ねたような色を隠せなかった。
「彼と僕が君にとって違うということを、ちゃんと僕に教えて……」
言いながらユノは彼の腕の中に閉じ込められていた。
「……目、瞑って下さい……」
真っ白な世界の中で、彼が目を瞑っている姿はとても美しくて、ユノは息を呑んだ。
睫までプラチナ色で、そこにちらちら舞う白銀の雪の結晶が舞い降りる。
手は……こんなとき手はどこに置いたらいいんだろう。
少しだけ宙を彷徨ったあと、ユノの両手は彼の肩に置くことにした。
顎を少し上げ、彼の唇に触れようとしたが、届かない。
つま先立ちでもう一度試みる。
すると。
ふ、っと軽く唇の先だけが触れた。
キリヤの瞼が開いた。
「……どこの小鳥にキスされたのかと思った」
ふは、とキリヤは笑って言った。
「な……何ですか、その例え……っん」
キリヤは少しだけ身を屈めて反論しようとするユノの唇に口づけた。
ふわりと柔らかく重なった唇。
「ん……っ」
それから、舌がぬるり、と入り込んでくる。
こんな、外なのに。
大胆にユノの口の中全てを自分のものにでもするように深く口付けた。
舌を吸われて、体に甘い痺れが走る。
濡れた舌の感覚に目眩がして、ユノは縋り付くように彼の背に手を回した。
キリヤに手ほどきされたことを思い出して、一生懸命呼吸をするとくらくらしたが、キリヤは優しくユノを褒めるように撫でた。
「上手に息できるようになったな、さすが覚えがいい……」
こんなことを褒められて、ユノの頬は寒い外だというのに熱くなる。
キリヤはそんなユノに唇を柔らかく数度軽く押し付けると、名残り惜しそうに離れた。
額をくっつけて、冷えた鼻の頭を戯れる様に擦り付けあう。
もう、行かなくてはならない時間なんだろうな。
そう思うのに、中々言えない。そしてキリヤも言わない。
しばらく鼻先を揶揄うようにぶつけ合って、小鳥が交わすようなキスを何度か交わした。
そしてぎゅっと力強くユノを抱きしめた。
彼のムスクの香りで胸がいっぱいになった。
「ユノが僕のために戦士の勉強をしてくれたこと、嬉しかった」
「大して力になれないとは思うんですけど……」
「いや。今日の話を聞けただけでも、ものすごく助かった」
そう言ったあと、キリヤはうんと優しい瞳でユノのことを見つめて言った。
「僕は『光の魔法使い』だから、国民は誰もが僕に何かあったら守ってほしいと言うし、もちろん僕もそのつもりだ。……でも、ユノが僕を守ろうとしてくれているんだなと感じて嬉しかったんだ」
日がすっかり暮れてしまい、夜の帳が下りた中での雪原は幻想的で、白銀と濃紺の世界だ。
「離れがたくなるから、ここでいい」
ユノの耳元でそう囁いて、キリヤはそっとユノの体を離した。
「このまま攫ってしまいたくなる……僕に攫われる気はない?」
低くて、少し掠れた声。
キリヤのひどく男らしい表情に胸が高鳴った。
いっそ彼に攫われてしまいたいと思ってしまうくらいに彼のことが好きだ。
でも。
「それは困ります……」
ユノがちいさく呟くと、彼はそうか、と言ってユノの頭を撫でた。
「そうか。君を困らせたくはないから、もう行くよ……少しでも早く君のもとに戻れるよう頑張る」
キリヤはユノの目を見てそう言った。そして
「名残惜しくなるばかりだから、このまま振り返らずに馬車まで行くよ。いってきます、ユノ」
ユノが大好きな表情で彼は微笑んだ。
「いってらっしゃい」
ユノがそう言うと、キリヤは馬車に向かって駆け出した。
「俺も、ちゃんと守れるようにもっともっと頑張る」
聞こえてはいないだろうが、キリヤの背中に向かってユノは一人静に誓った。
このキリヤの髪の色のような美しい雪原の中で見たキリヤの姿は、ユノは故郷に雪が降るたびに思い出すことになる。
向こうには楓の森が見える。
「向こうに見える楓の森がうちの村の自慢なんですが、戦争の前はこの雪原も楓の森だったんです。全部燃やされてしまって。蜜が採れる楓は農作物の収穫があまり望めない村の貴重な財源でもあるので、少しずつですが元に戻るよう植林しているんですが、思うように進んでいないのが現実です。更に戦争になったら、今度こそ楓の森は全て無くなってしまうかもしれません……」
「そうか……ここも楓の森だったのか」
ユノの話を聞いてキリヤは真っ白な雪原を見つめた。
「それで、君は村だけでなく森も守らなければならなったから『守護神の石』を作ることに熱心だったんだな」
「はい。ようやく再建できた村人達の家や楓の森を戦火から守ってくれる『守護神の石』が戦争が始まる前にどうしても必要なんです」
『守護神の石』で囲んだところは外敵の攻撃から守ってくれるシールドが現れる。
王都の王宮などはそのようにして外敵の攻撃に備えているのだが、それをどうしても村に持ち帰りたい。
「しかし『守護神の石』は貴重な鉱石だ。村の住宅だけならまだしも、森を守るとなると相当の量が必要だ。国中から集めても集まるかどうか……もうこれ以上戦場になってしまった場所を犠牲にしたくない。何か良い手立てはないものか」
ユノの故郷の景色を見渡しながらキリヤは苦しそうに呟いた。
「実は、来学期『魔法動物の谷』に学園で研修旅行に行くと思うのですが、そこに『守りの氷』というものがあるらしいんです」
「『守りの氷』? 聞いたこと無いな」
初めて聞く言葉にキリヤは目を見張った。
「『錬金術』の授業のトリトン先生が鉱石にとても詳しいので一緒に調べたところ『守護神の石』と同じ効力を発する氷でした」
ユノが言うとキリヤは目を輝かせた。
「もしかして『守りの氷』は氷が溶ける気温のところでは効力を発揮しないが、この村のようにずっと寒いところでは『守護神の石』と同様に使える、そういうことか?」
「そのとおりです。研修旅行の際にトリトン先生とその氷の採集をしてみないかと話しています」
キリヤの言葉にユノは頷いた。
「『守りの氷』で村を戦火から守れるなら作戦の幅が大きく広がるな。採集に軍の者や国の学者を同行させよう。トリトン先生には国と共同で『守護神の石』の代替物の共同調査を進めたいということを学者を通じてこの休暇のうちに相談しておく。国の作戦のための事業とすれば人も多く動かせる」
そう言ってキリヤはユノの肩をさらに強くぎゅっと抱いた。
「どこかを犠牲にしないで国を守れるよう、なんとかしてみせる」
「ありがとうございます。僕も今まで沢山『守りの氷』について調べたので是非一緒に採集させて下さい」
ユノがそう言うと視界にキリヤのものと思わしき馬車が入った。その馬車が見えると、キリヤの視線がキョロキョロと不自然に動いた。
彼がこんな様子を見せるのは珍しい。
「ユノ……その……」
「うん?」
キリヤの意図が分からず、ユノが首を傾げる。
キリヤのきれいな顔が珍しく真っ赤に染まっている。
「頑張れるように……キス……してほしい」
キスならば、さっきも散々した。それが嫌だなんて言った覚えはないのに。
「その……なんだ……君から……」
疑問がそのまま顔に浮かんでいたであろうユノに、キリヤが分かるように言い直した。
「お……俺から?!」
離れたところに馬車が見えるだけの誰もいない雪原で、思わず大きな声を出してしまった。
「……だめか? 君の態度や嘘をつかない彼を見て隣国の兵士だが問題ない人物なのだと判断したよ。ただその分……君を大きな愛で包んでいるように見えて、僕は……かなり妬いている。明日のホリデーパーティの夜は彼と過ごすんだろう?」
あのクールなキリヤの拗ねたような甘えるような表情に心臓がどきん、と脈打った。
「他にも幼馴染たちがいます……二人きりじゃないですよ」
彼が妬いているだなんて、信じられなくて動揺を隠すように静かな声で伝えた。
「あんな仲の良さそうな幼馴染が他にもいるのか。僕の手前抑えていたようだったが、彼が君を見る目は、とても大切なものを見るような目だったし、君も彼を信頼しきっていた」
「家族みたいなものですから。その……キリヤに対する気持ちとは違います」
ユノがそう言ってもキリヤの瞳は拗ねたような色を隠せなかった。
「彼と僕が君にとって違うということを、ちゃんと僕に教えて……」
言いながらユノは彼の腕の中に閉じ込められていた。
「……目、瞑って下さい……」
真っ白な世界の中で、彼が目を瞑っている姿はとても美しくて、ユノは息を呑んだ。
睫までプラチナ色で、そこにちらちら舞う白銀の雪の結晶が舞い降りる。
手は……こんなとき手はどこに置いたらいいんだろう。
少しだけ宙を彷徨ったあと、ユノの両手は彼の肩に置くことにした。
顎を少し上げ、彼の唇に触れようとしたが、届かない。
つま先立ちでもう一度試みる。
すると。
ふ、っと軽く唇の先だけが触れた。
キリヤの瞼が開いた。
「……どこの小鳥にキスされたのかと思った」
ふは、とキリヤは笑って言った。
「な……何ですか、その例え……っん」
キリヤは少しだけ身を屈めて反論しようとするユノの唇に口づけた。
ふわりと柔らかく重なった唇。
「ん……っ」
それから、舌がぬるり、と入り込んでくる。
こんな、外なのに。
大胆にユノの口の中全てを自分のものにでもするように深く口付けた。
舌を吸われて、体に甘い痺れが走る。
濡れた舌の感覚に目眩がして、ユノは縋り付くように彼の背に手を回した。
キリヤに手ほどきされたことを思い出して、一生懸命呼吸をするとくらくらしたが、キリヤは優しくユノを褒めるように撫でた。
「上手に息できるようになったな、さすが覚えがいい……」
こんなことを褒められて、ユノの頬は寒い外だというのに熱くなる。
キリヤはそんなユノに唇を柔らかく数度軽く押し付けると、名残り惜しそうに離れた。
額をくっつけて、冷えた鼻の頭を戯れる様に擦り付けあう。
もう、行かなくてはならない時間なんだろうな。
そう思うのに、中々言えない。そしてキリヤも言わない。
しばらく鼻先を揶揄うようにぶつけ合って、小鳥が交わすようなキスを何度か交わした。
そしてぎゅっと力強くユノを抱きしめた。
彼のムスクの香りで胸がいっぱいになった。
「ユノが僕のために戦士の勉強をしてくれたこと、嬉しかった」
「大して力になれないとは思うんですけど……」
「いや。今日の話を聞けただけでも、ものすごく助かった」
そう言ったあと、キリヤはうんと優しい瞳でユノのことを見つめて言った。
「僕は『光の魔法使い』だから、国民は誰もが僕に何かあったら守ってほしいと言うし、もちろん僕もそのつもりだ。……でも、ユノが僕を守ろうとしてくれているんだなと感じて嬉しかったんだ」
日がすっかり暮れてしまい、夜の帳が下りた中での雪原は幻想的で、白銀と濃紺の世界だ。
「離れがたくなるから、ここでいい」
ユノの耳元でそう囁いて、キリヤはそっとユノの体を離した。
「このまま攫ってしまいたくなる……僕に攫われる気はない?」
低くて、少し掠れた声。
キリヤのひどく男らしい表情に胸が高鳴った。
いっそ彼に攫われてしまいたいと思ってしまうくらいに彼のことが好きだ。
でも。
「それは困ります……」
ユノがちいさく呟くと、彼はそうか、と言ってユノの頭を撫でた。
「そうか。君を困らせたくはないから、もう行くよ……少しでも早く君のもとに戻れるよう頑張る」
キリヤはユノの目を見てそう言った。そして
「名残惜しくなるばかりだから、このまま振り返らずに馬車まで行くよ。いってきます、ユノ」
ユノが大好きな表情で彼は微笑んだ。
「いってらっしゃい」
ユノがそう言うと、キリヤは馬車に向かって駆け出した。
「俺も、ちゃんと守れるようにもっともっと頑張る」
聞こえてはいないだろうが、キリヤの背中に向かってユノは一人静に誓った。
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