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4章

誰と踊るの2※キリヤ視点

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「今夜のパートナーに僕を選んでくれて嬉しいよ」
大広間前のロビーでキリヤを見つけると、シュリが真っ白な頬を赤く上気させて駆け寄ってきた。
「この前はごめんね。アンリ学園長は平民との共生を合言葉に掲げているから、その目標の達成のためには平民も一人くらいは生徒会に入れて我慢しなきゃいけないんだよね。僕は君のパートナーなのに理解が足りなかった。だからキリヤは怒っちゃったんだよね。ちゃんと反省したよ」
大きなエメラルドグリーンの瞳をうるうると潤ませてシュリは話した。
多くの人がこの瞳を見ると虜になるらしいが、キリヤはこれまで心を動かされたことはなかった。
そのとき、普段は静かで思慮深い黒い瞳が脳裏に過った。
静かな時もどうしようもなく好ましいが、一生懸命学んでいるときや懸命に自分の考えを述べているときに生き生きと輝きだすとき、キリヤの心臓はドキドキとうるさいほどに高まるのだ。
そんなことを思いながら、キリヤは口を開いた。
「そもそも生徒会役員としても僕のパートナーとしても他者を傷つけることは容認できない」
「はぁい。ね。そんな堅苦しいことより、早く行かないと向こうの学校の方々を待たせることになっちゃうよ」
キリヤは重苦しい溜息を吐いた。
シュリの家は『占術』に長けている『術師』の家柄の中でも、特に重宝されている。
その『占術』で戦時敵国がどういう動きをするのか水晶に映し出してもらい、戦術を立てている。
戦争だけでなく、国の大切なことを決めるのにもその占術は大いに役立っている。
優秀な『術師』がいることで国の明暗を分けるといっても過言ではない。
フィザード家以外にも『術師』はいるが、能力の高いフィザード家は国にとっても貴重な存在だった。
シュリの占術の能力は、ユノの箒の場所を見つけるくらいが精々と言ったところであるが、シュリの父親や祖父が出てきたら厄介だ。
占術の力を悪用してユノを陥れることなど訳ないだろう。
キリヤの傍にいるということは、フィザード家だけではなくこういう多くの老獪とも関わりを持ってしまうということ。
家の後ろ盾があるハイクラスの者ならともかく、平民、しかも孤児であるユノには危険すぎる相手だ。
だから、平民は自分の傍に置かないほうがいい。
そう思っていたのに、キリヤはどうしてもユノと一緒にいたいと思ってしまった。
そんなユノを傍に置きたいと思うのなら、キリヤはこれまで以上に周囲に気を付けて行動しなければならなかった。
そんなことを考えながら、キリヤはシュリをパートナーとして伴い、会場である大広間に入った。
真っ白なテーブルクロスが掛けられた長方形のテーブルがいくつも並んでいた。
中央には真っ赤な薔薇のアレンジメントが豪華に飾られていた。
両校の校長や理事長が座るテーブルに案内される。
「リリィ、ようこそ。わが学園へ。昼のプログラムはお楽しみいただけましたか?」
キリヤの隣に席が要されている魔女学校の生徒会長のリリィ・カナリアに声を掛けた。
リリィは薄い青のドレスを身に纏い、気品あふれる雰囲気だった。
「えぇ。とっても興味深かったわ。今年から生徒会役員になったとかいう平民の方? あの方平民なのに説明がとっても上手ね」
「お気に召していただけて、よかったです」
隣で聞いていたシュリは鼻白んだ様子であったが、キリヤはユノが褒められて内心誇らしい気持ちになった。
しかしそれが表には出さないように極力気を付けてキリヤは返答した。
「あら? 今入って来た方、昼間の交流会でお会いした平民の方かしら?」
リリィが視線を向けた方を見ると、ユノが会場に今宵のパートナーであるイヴァンとそしてアンドレアと三人で入って来るのが見えた。
仮面舞踏会の時とは違い、今日は燕尾服を身に着けていた。
寮の同室のサランから今日の服は借りる予定だと言っていたので、キリヤは燕尾服を贈った。
自分が贈った服を身に纏っているのを見てキリヤは目を細めた。
彼の深い黒の瞳と合うように、深みのある黒で作らせたそれは彼の体にぴったりだった。
黒の髪や瞳は平民にはよくある色だが、彼の黒は艶やかに濡れているような漆黒だ。
綺麗だ……
心の声があふれ出そうになるのをキリヤは慌てて飲み込んだ。
彼をエスコートするイヴァンの紫ととても似合っているし、隣の燃える様に赤い瞳と髪のアンドレアにも引けを取らない。
華やかなわけではないのに、イヴァンとアンドレアを伴っていても見劣りするどころかむしろユノが人目を引いているようにも見えた。
いつも目の上まで覆っている彼の長い前髪を、今日は後ろに流すようにしてセットしていた。
黒曜石のような瞳と、秀でた額が露になっていた。
そして動きの一つ一つに大変品があり優雅であった。
「平民の方でも、とても目を引く方ね」
リリィも興味深そうにユノを見ていた。
美しく正装をしたユノを見て、シュリも驚愕の表情を浮かべていた。
それ以外の周りの反応もシュリと同様だった。
その周りの様子に、溜飲が下がるような気持ちになると同時に、キリヤ自身も自覚ができるくらいはっきりとした嫉妬が沸き上がってきた。
彼を、自分以外の誰にも見せたくないーーー
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