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4章
誰と踊るの4
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※ユノ視点に戻ります。併せて時間も少し巻き戻して下さい。晩餐会前お支度中のシーンから
そして戴冠式から息を吐く間もないほどのスピードで交流会の日はやってきた。
昼間の交流プログラムとして、シュトレイン国立魔法学園独自の授業を魔女学校の生徒たちに受講してもらう。
ユノは魔女学校との昼間の交流会を終え、サランと共に晩餐会参加の身支度のために寮に戻っていた。
晩餐会に参加するのはそもそも生まれて初めてであったユノは、晩餐会に参加するだけでひどく緊張していた。
サランがあれこれ言いながらユノの髪をセットしていると不意に部屋のドアがノックされた。
「どうぞ!」
サランが椅子に座るユノの後ろに立ち、ユノの髪を整えながら、離れた位置からドアを開錠する魔法を使った。
かちゃりと寮の古いかぎが開錠された音の後、現れたのはイヴァンだった。
「緊張してそうだね」
「イヴァン?!」
ハイクラスのイヴァンがここを訪ねてくるのは珍しいため、ユノもサランも目を見開いた。
ユノはこの学園で過ごして五年目になるが、知る限りではハイクラスの人がここを訪れたのは初めてだ。
しかもこのまま晩餐会に参加するのか、完璧な正装をしていた。
「お届け物があってね」
そう言って彼が長く美しい指先を振るうと、一着の燕尾服が現れた。
ふわりと宙を舞って、古ぼけた木の椅子に座るユノの膝に優しく落ちた。
「うわ……たっかそう……」
思わずサランが下世話なことを呟いたのも無理がない。
それくらいに美しく誂えられた燕尾服だった。
「あの……これ……?」
ユノはイヴァンの顔を見る。
「うん。君に、だよ。ユノ」
「ひぇ……」
イヴァンの言葉を聞いて思わず声を漏らしたのはユノではなく、サラン。
「イヴァンが……?」
ユノは驚きすぎて一瞬言葉を失ったが、なんとか聞きたいことを声にできた。
「いや。とある人物から届けてくれと頼まれた。侍従を通してではなく、僕から直々に渡してほしいそうだ」
イヴァンは首を横に振って言った。
ユノはそっと膝に乗る燕尾服に触れた。
優しく品の良い光沢を放ち、触れた指先が溶けそうなほど滑らかな感触。
胸のチーフが白ではなく、深いロイヤルブルー。
誰からのプレゼントなのかわかってしまう。
「こんな高価なもの、いただけません……とその方にお伝えしていただけますか?」
ユノがイヴァンに言うと、イヴァンは笑った。
「贈り主も君がそう言うだろうって予想してたよ。君が受け取れないと言ったらユノのサイズにぴったりに誂えたから、君がいらないと言うなら捨てるしかないな、と伝えてと言われてるんだけど、どうする?」
「そんな……捨てるなんてもったいない。仕立て直してください」
「いーや。あの人なら君が返したりしたら本当に捨てるね。着てあげればすごく喜ぶし、これを着ている君の姿を見て贈り主の疲れも癒えると思うけど」
この燕尾服を贈ってくれた彼の忙しさを思うと胸が痛んだ。
本当にこれを着るだけで少しでも喜んでもらえるのだろうか。
「ユノのサイズぴったりって言っても直接採寸したわけじゃないんでしょ? ここのところユノは背も伸びているし、ぴったりとも限らないじゃん。とりあえず試着してから考えたら?」
ユノの後ろに立っていたサランがそう提案した。
「彼の言うとおりだよ。まずは着るだけ着てみなよ」
イヴァンも続き、二人に押し切られる形でユノはベッドの天幕を降ろして着替えた。
話すのは初めてであろうイヴァンとサランだが、燕尾服に合わせるカフスやヘアスタイルについて天幕の外で盛り上がっている声が聞こえる。
そして戴冠式から息を吐く間もないほどのスピードで交流会の日はやってきた。
昼間の交流プログラムとして、シュトレイン国立魔法学園独自の授業を魔女学校の生徒たちに受講してもらう。
ユノは魔女学校との昼間の交流会を終え、サランと共に晩餐会参加の身支度のために寮に戻っていた。
晩餐会に参加するのはそもそも生まれて初めてであったユノは、晩餐会に参加するだけでひどく緊張していた。
サランがあれこれ言いながらユノの髪をセットしていると不意に部屋のドアがノックされた。
「どうぞ!」
サランが椅子に座るユノの後ろに立ち、ユノの髪を整えながら、離れた位置からドアを開錠する魔法を使った。
かちゃりと寮の古いかぎが開錠された音の後、現れたのはイヴァンだった。
「緊張してそうだね」
「イヴァン?!」
ハイクラスのイヴァンがここを訪ねてくるのは珍しいため、ユノもサランも目を見開いた。
ユノはこの学園で過ごして五年目になるが、知る限りではハイクラスの人がここを訪れたのは初めてだ。
しかもこのまま晩餐会に参加するのか、完璧な正装をしていた。
「お届け物があってね」
そう言って彼が長く美しい指先を振るうと、一着の燕尾服が現れた。
ふわりと宙を舞って、古ぼけた木の椅子に座るユノの膝に優しく落ちた。
「うわ……たっかそう……」
思わずサランが下世話なことを呟いたのも無理がない。
それくらいに美しく誂えられた燕尾服だった。
「あの……これ……?」
ユノはイヴァンの顔を見る。
「うん。君に、だよ。ユノ」
「ひぇ……」
イヴァンの言葉を聞いて思わず声を漏らしたのはユノではなく、サラン。
「イヴァンが……?」
ユノは驚きすぎて一瞬言葉を失ったが、なんとか聞きたいことを声にできた。
「いや。とある人物から届けてくれと頼まれた。侍従を通してではなく、僕から直々に渡してほしいそうだ」
イヴァンは首を横に振って言った。
ユノはそっと膝に乗る燕尾服に触れた。
優しく品の良い光沢を放ち、触れた指先が溶けそうなほど滑らかな感触。
胸のチーフが白ではなく、深いロイヤルブルー。
誰からのプレゼントなのかわかってしまう。
「こんな高価なもの、いただけません……とその方にお伝えしていただけますか?」
ユノがイヴァンに言うと、イヴァンは笑った。
「贈り主も君がそう言うだろうって予想してたよ。君が受け取れないと言ったらユノのサイズにぴったりに誂えたから、君がいらないと言うなら捨てるしかないな、と伝えてと言われてるんだけど、どうする?」
「そんな……捨てるなんてもったいない。仕立て直してください」
「いーや。あの人なら君が返したりしたら本当に捨てるね。着てあげればすごく喜ぶし、これを着ている君の姿を見て贈り主の疲れも癒えると思うけど」
この燕尾服を贈ってくれた彼の忙しさを思うと胸が痛んだ。
本当にこれを着るだけで少しでも喜んでもらえるのだろうか。
「ユノのサイズぴったりって言っても直接採寸したわけじゃないんでしょ? ここのところユノは背も伸びているし、ぴったりとも限らないじゃん。とりあえず試着してから考えたら?」
ユノの後ろに立っていたサランがそう提案した。
「彼の言うとおりだよ。まずは着るだけ着てみなよ」
イヴァンも続き、二人に押し切られる形でユノはベッドの天幕を降ろして着替えた。
話すのは初めてであろうイヴァンとサランだが、燕尾服に合わせるカフスやヘアスタイルについて天幕の外で盛り上がっている声が聞こえる。
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