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3章

シュリのいない生徒会室1

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『秘密の友達』なら生徒会室にも一緒に行かない方がいいのではないかとユノは思い、生徒会室の扉を開ける前に提案したが、キリヤは水曜は大丈夫だ、と言って扉を開けてしまった。
「あれ? いつの間に二人仲良くなったの?」
二人で生徒会室の扉を開けると、作業をしていたらしいイヴァンが案の定首を傾げた。
首が揺れるのに合わせて紫色の髪がさらりと揺れた。
「キリヤ様、お疲れ様です……え……っ」
アンドレアはとりあえず反射的にキリヤに挨拶をしたが、驚いたように赤い瞳は零れ落ちそうだった。
イヴァンが訝しがり、アンドレアが驚くのも無理はない。
生徒会室でキリヤはユノにいつも素っ気なかった。
二人はそんな姿しか見てこなかったはずだ。
どう答えたものかとユノは動揺してしまったが、キリヤは平然と答えた。
「別に仲が悪いわけではない」
ユノはキリヤに同調するように頷いた。
「ふーん、そういうこと……あ、今日水曜日か。水曜日はシュリは実家の祈祷会に参加しないといけないから生徒会室に来ないもんね」
イヴァンは悟ったようにニヤリと笑って言うと、キリヤにいたずらっぽい視線を飛ばす。
「あいつはうるさいからな。見られないに越したことはない」
キリヤはそう言ってため息を吐いた。
「ヤキモチ妬きのパートナーを持つと大変だね」
イヴァンはおもしろそうに笑った。
だが、『パートナー』という言葉にユノの胸はツキリと痛んだ。
キリヤとシュリが二人並んだ時の美しすぎる情景は、瞼の裏に焼き付いているほどだ。
二人はお似合いそのものだった。
胸が痛む理由がわからなくて、ユノはイヴァンの隣の椅子を引き、作業に必要なものをテーブルに並べた。
別のことを考えたかったのだ。
「遅くなっちゃってごめんね」
ユノが言うとイヴァンは紫の髪を優しく横に揺らした。
「大丈夫。昨日ユノがぐちゃぐちゃだった招待客のリストを、所属ごとの名前順に直してくれただろう? 既に離職されている方をリストから外す作業をするのにちょうどよかったよ」
「あのリスト、一日で整理したのか?」
ユノに言ったはずのイヴァンの言葉に返事をしたのは、キリヤであった。
並んで座ったイヴァンとユノの向かい側にキリヤは腰掛けた。
「そうそう。ユノにかかれば、あのぐちゃぐちゃのリスト直すのもあっという間だったよ」
「確かに早かったな……」
イヴァンだけでなく、アンドレアも思わずと言ったように呟いて、頷いた。
「何でお前らが得意気なんだ。僕はユノに聞いたんだが」
キリヤは眉を顰める。
「……っ申し訳ありません」
アンドレアはキリヤに言われ、謝罪したが、イヴァンは軽く肩を竦めただけだった。
「キリヤこそ書類の処理ならいつも会長室でやるのに、今日はここでやるの?」
目の前のテーブルに書類と羽根ペンを出したキリヤに、イヴァンは飄々と言う
「……どっちでやったっていいだろう? それとも僕がここにいたらまずいことでも?」
「まずくない、です! それにすぐにリストを整理できたのは俺の力というよりこれのお陰だからっ」
キリヤから流れる空気が悪くなった気がして、ユノは慌てて話題を変えるべく声を張った。
「それは?」
ユノが取り出したのはキリヤがあまり見たことのない羽根ペンだった。
それを見るとイヴァンが得意気に口を開いた。
「このペンすごいんだよね。ユノは魔法アイテムを作るのも得意なんだって。これは名前の文字の最初にペンで触れるだけで、文字を名前順に並び替えることができるんだ。僕も作ってもらっちゃった」
イヴァンが説明しながら、自分のペンも見せる。
黙ってはいたが、アンドレアの手にも同じペンがある。
キリヤは二人に視線を向けながら頷いた。
「凄いな。王宮に出入りする文具屋もそんな商品は持ってなかったかと思うが」
「ペン軸におしゃべり鳥の羽根を使うんです。ただ個人的に使う分には羽根が抜けかえる時期にちょっと拾っておけばいいですけど、製品化となると、羽根が大量に必要になりますよね。おしゃべり鳥はあまり羽根が抜け替わることのない鳥だからこのレシピは内緒でお願いします」
ユノが説明しながら適当にメモしたいくつかの単語の先にペンで触れると、文字はみるみる間に浮き上がり、空中で踊る様に移動した後順に紙の上に落ちて行った。
落ちて行った文字を見るとランダムに書いた単語が順に並んだ。
「なるほど。おしゃべり鳥は頭文字の音ごとに言葉を覚えるというから、その性質を利用したのか。便利なものだな」
「キリヤの分も作りましょうか?」
「いいのか?」
ユノの申し出にキリヤが間髪入れずに答えた。
「へぇ、そんな嬉しそうな顔できるんだ。キリヤ。そう言えばユノが作ったお菓子も美味しそうに食べていたもんね」
「おいっ! イヴァン!」
キリヤの反応を見てイヴァンは笑った
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