32 / 123
3章
図書館3
しおりを挟む
キリヤはユノが頷いたのを見ると、落ち着いたようで羽根ペンを取りスラスラとユノのノートを写していった。
ユノもその様子を見て自分の課題に取り組んだ。
図書館のあちらこちらに人はいるのだが、ユノが見つけた穴場スポットだけあって、ここだけ切り離されでもしたかのようにとても静かである。
あまり借りる人がいない『妖精の言語』についての本が並ぶ書架の影に隠れているここは、さながら個室のようであった。
裏庭からは差し込む光も穏やかなもので、時折キリヤから他の薬草も写して構わないかと問う声以外は話すこともなく、各々のやることに打ち込んだ。
時を経つのも忘れてユノが課題に打ち込んでいると、不意にそっと肩を叩かれた。
「そろそろ僕は生徒会室に行くが、ユノはどうする?」
キリヤの声にユノは、はっと顔を上げた。
どのくらい時間が経っていたのだろうか。
慌ててポケットの懐中時計を取り出すと、半時ほど過ぎたところであった。
「あ……俺もイヴァンと交流会の招待状作りの作業を約束しているんでした」
「今日は……水曜か。なら大丈夫だな。一緒に行こう」
キリヤは言うと、羽根ペンやらノートやらを華麗にローブの内ポケットに納めた。
ハイクラスのローブは、ユノのように収納バッグを持たずともすっきりと物を収納できる高価なものだ。
ユノのようにバッグを持ち歩かなくてもよくて、とてもスマートだ。
ユノも隣でバタバタとノートや教科書をバッグに納めていった。
「そういえば、ここでオーディオブックで音楽を聴くこともできると言っていたな。音漏れ防止の魔法を掛ければ聴いても構わないなら、君の好きなユリィの曲でも聴きながら作業すればよかった」
先に片付けが済んだキリヤはふと裏庭が見える大きな窓に視線を遣りながら言った。
「……っお……音楽流せば良かったですね」
キリヤの言葉にユノはびくり、と体を震わせた。
ユノがそんな話をした人は一人しかいない。
窓に視線を遣ったままのキリヤはユノの異変に気付かないようだった。
「また治癒学の授業でわからないことがあったら、教えてくれるか? そのときには音楽を流しながらやろう」
返事をしなくては、と思ってキリヤを見上げると、窓を見ていたはずのキリヤは、いつの間にかユノを見ていて青い瞳と視線がばちりとあった。
青い色がとろりと溶けてしまいそうなその視線。
それを何と表現していいのか分からず、ただただ胸が強く打った。
苦しさに思わず胸のあたりのローブをぎゅっと掴む。
「ユノ? だめ、なのか……?」
するとキリヤは溶けそうだった青い瞳を、不安気に揺らした。
その変化さえもあんまり美しくて、じっと見てはいけない、と心のどこかが言っているのに、目を離すことができない、
「だめ……じゃない……です」
何とか返答した声は喉に引っかかってみっともなく掠れた。
「そうか、よかった」
そのときだった。
キリヤがふわりと嬉しそうに笑ったのだった。
「……っ」
ユノは息を呑んだ。
ドキドキと心臓が強く脈打って口から出そうだった。
血が頬に昇って自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
サラン以外に教えたことのない場所を躊躇わず彼には教えたくなってしまったのは何故なのか。
「ユノ……?」
不思議に思ったのか、キリヤの指先がユノの頬に伸びた。
彼の、指が、触れる。
そして、彼の指がユノの頬に触れたとき、思わずぎゅっと目を閉じて体をびくり、と揺らしてしまった。
「あ……っすまない……っ」
ユノの反応に驚いたのか、キリヤは指をすぐにユノの頬から離した。
「せ……生徒会室っ……に、あの……その……」
「そ……そうだな。そろそろ行かないと遅くなる」
上手く言葉が紡げなくなってしまったユノの言葉に、キリヤも動揺した声を乗せて図書館の奥まった二人だけのスペースから出た。
ユノもその様子を見て自分の課題に取り組んだ。
図書館のあちらこちらに人はいるのだが、ユノが見つけた穴場スポットだけあって、ここだけ切り離されでもしたかのようにとても静かである。
あまり借りる人がいない『妖精の言語』についての本が並ぶ書架の影に隠れているここは、さながら個室のようであった。
裏庭からは差し込む光も穏やかなもので、時折キリヤから他の薬草も写して構わないかと問う声以外は話すこともなく、各々のやることに打ち込んだ。
時を経つのも忘れてユノが課題に打ち込んでいると、不意にそっと肩を叩かれた。
「そろそろ僕は生徒会室に行くが、ユノはどうする?」
キリヤの声にユノは、はっと顔を上げた。
どのくらい時間が経っていたのだろうか。
慌ててポケットの懐中時計を取り出すと、半時ほど過ぎたところであった。
「あ……俺もイヴァンと交流会の招待状作りの作業を約束しているんでした」
「今日は……水曜か。なら大丈夫だな。一緒に行こう」
キリヤは言うと、羽根ペンやらノートやらを華麗にローブの内ポケットに納めた。
ハイクラスのローブは、ユノのように収納バッグを持たずともすっきりと物を収納できる高価なものだ。
ユノのようにバッグを持ち歩かなくてもよくて、とてもスマートだ。
ユノも隣でバタバタとノートや教科書をバッグに納めていった。
「そういえば、ここでオーディオブックで音楽を聴くこともできると言っていたな。音漏れ防止の魔法を掛ければ聴いても構わないなら、君の好きなユリィの曲でも聴きながら作業すればよかった」
先に片付けが済んだキリヤはふと裏庭が見える大きな窓に視線を遣りながら言った。
「……っお……音楽流せば良かったですね」
キリヤの言葉にユノはびくり、と体を震わせた。
ユノがそんな話をした人は一人しかいない。
窓に視線を遣ったままのキリヤはユノの異変に気付かないようだった。
「また治癒学の授業でわからないことがあったら、教えてくれるか? そのときには音楽を流しながらやろう」
返事をしなくては、と思ってキリヤを見上げると、窓を見ていたはずのキリヤは、いつの間にかユノを見ていて青い瞳と視線がばちりとあった。
青い色がとろりと溶けてしまいそうなその視線。
それを何と表現していいのか分からず、ただただ胸が強く打った。
苦しさに思わず胸のあたりのローブをぎゅっと掴む。
「ユノ? だめ、なのか……?」
するとキリヤは溶けそうだった青い瞳を、不安気に揺らした。
その変化さえもあんまり美しくて、じっと見てはいけない、と心のどこかが言っているのに、目を離すことができない、
「だめ……じゃない……です」
何とか返答した声は喉に引っかかってみっともなく掠れた。
「そうか、よかった」
そのときだった。
キリヤがふわりと嬉しそうに笑ったのだった。
「……っ」
ユノは息を呑んだ。
ドキドキと心臓が強く脈打って口から出そうだった。
血が頬に昇って自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
サラン以外に教えたことのない場所を躊躇わず彼には教えたくなってしまったのは何故なのか。
「ユノ……?」
不思議に思ったのか、キリヤの指先がユノの頬に伸びた。
彼の、指が、触れる。
そして、彼の指がユノの頬に触れたとき、思わずぎゅっと目を閉じて体をびくり、と揺らしてしまった。
「あ……っすまない……っ」
ユノの反応に驚いたのか、キリヤは指をすぐにユノの頬から離した。
「せ……生徒会室っ……に、あの……その……」
「そ……そうだな。そろそろ行かないと遅くなる」
上手く言葉が紡げなくなってしまったユノの言葉に、キリヤも動揺した声を乗せて図書館の奥まった二人だけのスペースから出た。
233
お気に入りに追加
4,289
あなたにおすすめの小説
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる