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2章
会長室で3
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我に返ったようにキリヤはいつもの冷静な瞳を取り戻し、ユノのシャツをさっと手早く下ろすと、指を一振りした。
すると競技用のローブではなく、制服のローブが現れてユノの肩をふわりと覆った。
そして、机に乗り上げた状態であったユノの体を引き起こし、そっと床に立たせる。
ユノがしっかりと自分の足で立てたのを確認すると。
「あぁ。シュリか? どうした?」
落ち着いた声で返事をした。
「やっぱりここにいたんだね。開けるよ」
シュリは返答と同時に生徒会長室の扉を開けた。
「みんなキリヤにお祝いを言いたくて生徒会室で待ってるよ……って何でソイツと一緒なわけ?」
艷やかな長いブロンドを高めの位置で結ったシュリが現れた。
柳眉は顰めても、なお美しい。
「怪我をしているのではないかと思って確認をしていた」
淡々とした声でキリヤは言う。
「怪我? まぁ怪我していたら、棄権しなきゃいけないルールだから、コイツを失格にできるけどさぁ。怪我してあんなに速く飛べるわけないだろ。キリヤにしては珍しい判断ミスだね。疲れてるんじゃない? 新入生歓迎会の準備も生徒会の新学年を迎える準備も忙しかったのに、国王にも呼び出されて『光の魔法使い』の仕事もしていたじゃないか」
キリヤの返事にくすくすとシュリは笑う。
「まぁ……そんなところだ」
キリヤは怪我のことを言ってユノを失格にするつもりはないのか、ユノが怪我をしているとは言わなかった。
「ねぇ。いつまで図々しく此処にいんの? 怪我してないんなら早く帰りなよ」
今度はユノを振り返ったシュリはきつい瞳でユノを睨みつけて言った。
「……失礼します」
ユノは部屋から出ていこうとしたときだった。
「ちょっと待て。他のメンバーも生徒会室に集まっているようだから、明日からの仕事の割り振りについて話す。向こうに移動するぞ。少し話を聞くくらいの体力はあるな?」
キリヤはそう言って、会長室の扉の向こうにある生徒会室を指差した。
「はい」
ユノは怪我を治してもらったので話を聞くくらいなら大丈夫だが、キリヤこそユノを治すために多大な魔力を使用したのではないだろうか?
ユノの心配を他所に、キリヤは先程までの疲労を感じさせない様子で会長室から出るべく歩き始めた。
慌ててその後を追うためにユノも歩く。
シュリから刃のような視線が飛んできたが、特に何も言われることはなく会長室を出ると、生徒会室にはレースに出場したアンドレアとマコレだけでなくイヴァンやカルキも居た。
「さすがだったね、キリヤ。ユノもあんなに速いとは思わなかったよ。キリヤとユノのデッドヒートは学園始まって以来の熱戦だって先生方も話してらしたよ」
レースに出場したイヴァンがにこやかにキリヤとユノに話しかける。
「僕も参加すればよかったよ。下から見ていても圧巻だった。キリヤはハイクラスでも断トツに速いんだよ。王族だから国の代表選手になれないだけで、実力は国の代表にもなれるくらいだ。そのキリヤに食らいついていくとは、凄いねユノは」
イヴァンの傍らでアンドレアが炎のように燃え滾った視線を向けてきていたので、何か言われるかと身構えたが特に言葉を発することなく、ギリギリと睨みつけてくるだけであった。
「ありがとう、イヴァン」
「ずるい作戦勝ちだろ、どうせ」
イヴァンの優しい言葉に礼を言うと、キリヤに続いてシュリも会長室から出てくるのを見たシュリの腰巾着であるカルキが、鼻白んだように言った。
「箒もスタート時に持っていたものと違うようだったけど、それはルール違反じゃないのか?」
カルキと双子の兄弟でもありレースに参加していたマコレが続いた。
「その話はそこまでだ。明日以降の話があるから皆聞いてくれ」
騒がしい生徒会室に、よく通るキリヤの声が響いた。
皆がキリヤの方を向くと、キリヤは続けた。
「新入生歓迎会のフライングレースが終わったばかりだが、明日からは毎年恒例の魔女学院との交流会の準備を始めていこうと思う。アンドレアとカルキとマコレは交流会のプログラムと舞踏会の検討を、イヴァンとユノは招待客のリストを作り招待状の送付と出欠の確認、学園内の宿泊施設の割り振りを、僕とシュリは全体の総括と学園上層部への根回しを行う。早速だが招待客リストは来週中までに作るように動いてくれ。以上だ」
「ちょっと……! キリヤ! この平民に招待客リスト作らせるわけ? っていうか、こいつが生徒会役員なんて僕はまだ納得してないんだけど」
シュリが声を荒らげた。
「リストはイヴァンと二人で作る。イヴァンは魔女学校の上層部にも顔がきくし、招待客リストの確認は僕も学園長も行う。今日のレースで結果を出しているのに、生徒会を辞めさせたとなればそれなりの理由を求められるから今辞めさせることは難しい。とりあえずは生徒会役員全員の承認が得られずともユノ・マキノには生徒会役員として活動してもらう。以上だ」
「そんな……っ僕は絶対に認めないっ」
叫ぶシュリにキリヤは溜息を吐く。
「僕だって生徒会役員として、平民が活動することを完全に認めたわけではない」
キリヤの発言を聞いた途端、ユノの胸は刃に貫かれたように痛んだ。
たかが空を速く飛べたくらいで、キリヤに認めてもらえたんじゃないかと思っていた自分が恥ずかしかった。
「キリヤがそう考えてくれるならいいけど……」
シュリがそう言ったときだった。
「あの……シュリ……取り込み中のところ悪いんだけど、今夜の新入生の歓迎夕食会では、フライングレースに出たキリヤに代わって君が挨拶することになっているだろう? そろそろ行かないと。挨拶スピーチの文章は作っておいたけれど、一応事前に目を通しておきたいだろう?」
カルキがおずおずと声を掛ける。
「……わかった。キリヤの代理で失敗するわけにはいかないから、行く」
キリヤの言葉を聞いて少しは溜飲が下がったのか、カルキとマコレを従えてシュリは足音高く生徒会室から出て行った。
すると競技用のローブではなく、制服のローブが現れてユノの肩をふわりと覆った。
そして、机に乗り上げた状態であったユノの体を引き起こし、そっと床に立たせる。
ユノがしっかりと自分の足で立てたのを確認すると。
「あぁ。シュリか? どうした?」
落ち着いた声で返事をした。
「やっぱりここにいたんだね。開けるよ」
シュリは返答と同時に生徒会長室の扉を開けた。
「みんなキリヤにお祝いを言いたくて生徒会室で待ってるよ……って何でソイツと一緒なわけ?」
艷やかな長いブロンドを高めの位置で結ったシュリが現れた。
柳眉は顰めても、なお美しい。
「怪我をしているのではないかと思って確認をしていた」
淡々とした声でキリヤは言う。
「怪我? まぁ怪我していたら、棄権しなきゃいけないルールだから、コイツを失格にできるけどさぁ。怪我してあんなに速く飛べるわけないだろ。キリヤにしては珍しい判断ミスだね。疲れてるんじゃない? 新入生歓迎会の準備も生徒会の新学年を迎える準備も忙しかったのに、国王にも呼び出されて『光の魔法使い』の仕事もしていたじゃないか」
キリヤの返事にくすくすとシュリは笑う。
「まぁ……そんなところだ」
キリヤは怪我のことを言ってユノを失格にするつもりはないのか、ユノが怪我をしているとは言わなかった。
「ねぇ。いつまで図々しく此処にいんの? 怪我してないんなら早く帰りなよ」
今度はユノを振り返ったシュリはきつい瞳でユノを睨みつけて言った。
「……失礼します」
ユノは部屋から出ていこうとしたときだった。
「ちょっと待て。他のメンバーも生徒会室に集まっているようだから、明日からの仕事の割り振りについて話す。向こうに移動するぞ。少し話を聞くくらいの体力はあるな?」
キリヤはそう言って、会長室の扉の向こうにある生徒会室を指差した。
「はい」
ユノは怪我を治してもらったので話を聞くくらいなら大丈夫だが、キリヤこそユノを治すために多大な魔力を使用したのではないだろうか?
ユノの心配を他所に、キリヤは先程までの疲労を感じさせない様子で会長室から出るべく歩き始めた。
慌ててその後を追うためにユノも歩く。
シュリから刃のような視線が飛んできたが、特に何も言われることはなく会長室を出ると、生徒会室にはレースに出場したアンドレアとマコレだけでなくイヴァンやカルキも居た。
「さすがだったね、キリヤ。ユノもあんなに速いとは思わなかったよ。キリヤとユノのデッドヒートは学園始まって以来の熱戦だって先生方も話してらしたよ」
レースに出場したイヴァンがにこやかにキリヤとユノに話しかける。
「僕も参加すればよかったよ。下から見ていても圧巻だった。キリヤはハイクラスでも断トツに速いんだよ。王族だから国の代表選手になれないだけで、実力は国の代表にもなれるくらいだ。そのキリヤに食らいついていくとは、凄いねユノは」
イヴァンの傍らでアンドレアが炎のように燃え滾った視線を向けてきていたので、何か言われるかと身構えたが特に言葉を発することなく、ギリギリと睨みつけてくるだけであった。
「ありがとう、イヴァン」
「ずるい作戦勝ちだろ、どうせ」
イヴァンの優しい言葉に礼を言うと、キリヤに続いてシュリも会長室から出てくるのを見たシュリの腰巾着であるカルキが、鼻白んだように言った。
「箒もスタート時に持っていたものと違うようだったけど、それはルール違反じゃないのか?」
カルキと双子の兄弟でもありレースに参加していたマコレが続いた。
「その話はそこまでだ。明日以降の話があるから皆聞いてくれ」
騒がしい生徒会室に、よく通るキリヤの声が響いた。
皆がキリヤの方を向くと、キリヤは続けた。
「新入生歓迎会のフライングレースが終わったばかりだが、明日からは毎年恒例の魔女学院との交流会の準備を始めていこうと思う。アンドレアとカルキとマコレは交流会のプログラムと舞踏会の検討を、イヴァンとユノは招待客のリストを作り招待状の送付と出欠の確認、学園内の宿泊施設の割り振りを、僕とシュリは全体の総括と学園上層部への根回しを行う。早速だが招待客リストは来週中までに作るように動いてくれ。以上だ」
「ちょっと……! キリヤ! この平民に招待客リスト作らせるわけ? っていうか、こいつが生徒会役員なんて僕はまだ納得してないんだけど」
シュリが声を荒らげた。
「リストはイヴァンと二人で作る。イヴァンは魔女学校の上層部にも顔がきくし、招待客リストの確認は僕も学園長も行う。今日のレースで結果を出しているのに、生徒会を辞めさせたとなればそれなりの理由を求められるから今辞めさせることは難しい。とりあえずは生徒会役員全員の承認が得られずともユノ・マキノには生徒会役員として活動してもらう。以上だ」
「そんな……っ僕は絶対に認めないっ」
叫ぶシュリにキリヤは溜息を吐く。
「僕だって生徒会役員として、平民が活動することを完全に認めたわけではない」
キリヤの発言を聞いた途端、ユノの胸は刃に貫かれたように痛んだ。
たかが空を速く飛べたくらいで、キリヤに認めてもらえたんじゃないかと思っていた自分が恥ずかしかった。
「キリヤがそう考えてくれるならいいけど……」
シュリがそう言ったときだった。
「あの……シュリ……取り込み中のところ悪いんだけど、今夜の新入生の歓迎夕食会では、フライングレースに出たキリヤに代わって君が挨拶することになっているだろう? そろそろ行かないと。挨拶スピーチの文章は作っておいたけれど、一応事前に目を通しておきたいだろう?」
カルキがおずおずと声を掛ける。
「……わかった。キリヤの代理で失敗するわけにはいかないから、行く」
キリヤの言葉を聞いて少しは溜飲が下がったのか、カルキとマコレを従えてシュリは足音高く生徒会室から出て行った。
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