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2章
会長室で2
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「うぁっ……ぁ」
キリヤの掌から発せられる強い熱が剥き出しになった傷に触れ、思わず声が出る。
傷を灼かれているようで、思わず逃げてしまうと、治癒魔法を使っている手とは逆の手で抱き込まれた。
「……っすまないが、治癒魔法は独学だから神経を麻痺させて治療する『パラリシス』が使えない……っ直に楽になるから、少しだけ我慢してくれ……っ」
治癒魔法を使いながらユノを抑えつけるキリヤの声は必死な色を帯びていた。
治癒院などで『治癒者』の資格を持つ者は深い傷に治癒魔法を使うとき『パラリシス』という神経を麻痺させる魔法を使う。神経を麻痺させる魔法は加減を誤ると永久に目覚めなくまってしまったり、記憶を失わせてしまうこともある。
そのため『パラリシス』の魔法を使うことは、『治癒学』の授業を受け、且つ『パラリシス』の試験に合格した者でなければ許されないことになっている。
「す……っすみませ……ぅあっ……痛っ」
申し訳ないと思いながらも、『パラリシス』を使わないでこんな深い傷を治療したことのないユノは、経験のない熱さと痛みで体が逃げてしまう。
「大丈夫だっ……塞がってきた……力、抜いて……」
指の先が白くなるくらいキリヤの机の端っこを掴んでいると、うん優しい声で耳元に囁かれた。
ユノを安心させようとして、出された優しい声はユノの耳奥で溶けてしまうような甘い声だった。
「もう少しだけ我慢して……傷はどんどん塞がってきている……そう。上手に力が抜けたな。いい子だ」
彼の言うとおり深い傷は塞がってきたのか、少しだけ痛みが緩み、彼の指示に従うと、頭をそっと撫でられた。
「あ………っぅぅ……」
じくじくと熱を持つ傷が少しずつ塞がっていく。痛みを超えると、今度は治っていく感覚が熱く疼くようで、思わず声が出てしまう。
「……痛みは和らいできたか?」
優しい低い声に訊ねられて、こくこく、と必死に頷く。
剥き出しの神経に触れられたような痛みが、少しずつ癒やされて、楽になっていく。それでいて、神経に触れてくるから熱く疼くような感覚があった。
「………っんん」
その熱い感覚がいっそ、快楽に近いような感覚に変わってくる。
(な……なにこれ……っ)
もちろんこれまでに治癒魔法を掛けられたことはある。
治ってくると、痛みが和らぎほっとする感覚はあったが、こんな痺れるような快楽を感じるのは初めてで、ユノはひどく動揺した。
体中にじわりと汗が滲むようだった。
「また力が入ってる。大丈夫だから。もう痛くならないから、力を抜いて」
力を抜くよう囁きかける声はひどく優しくて、思考が乱される。
混乱して、また机を強く握ったユノの白くなった指先をキリヤの大きな手がそっと包んだ。
「あっ……」
そして、背中の傷の治癒も最後に差し掛かったのか、キリヤの乱れた吐息がユノの首筋を撫でたのだ。
甘ったるい熱を纏った高い声を思わず漏らしてしまうと、キリヤの動きもぴたり、と止まった。
「ん……ぐっ……」
羞恥のあまり、唇をぐっと噛み締めて声を耐える。
「っ……唇に傷が付く……っ」
「ふぁぁ……っ」
そう言って彼はこっちを噛め、とユノの唇の中に指を差し込んだ。
彼の美しい指を噛むわけにいかず、噛みしめるのを何とか止めることはできた。
だか、彼の長い指があやすようにユノの舌を撫でたのだ。
「ん……っ……んっ………」
耳を覆いたくなるような声。それと、彼の指をユノの唾液が伝っているのもわかる。
舌はもちろん、背中の傷が治っていく感覚もどうしようもなく気持ちいい。
治癒魔法を受けてこんな感覚になるのは初めてで、ユノはどうしていいかわからなくなった。
「ぐ……っ」
思わず口の中の指に縋るようにちゅぅ、と吸い付くとキリヤの何かを耐えるような呻き声が聞こえた。
指に吸い付かれて気分を害したのかもしれない、と思ったがそれなら口から指を抜いてほしい。
「あと……少し……ほんとにあと少しだから……っ」
彼がそう言うと、ひと際背中の傷が熱く疼いた。
「う……ぁ……っ」
恐らく一分ほどの間だったが、ユノにはひどく長く感じられた。
ようやく、背中の傷から熱がゆっくりと引き始めた。
「お……終わった……っはぁ……よかった……綺麗に治った……」
「ふ……ぅ…………あっ……ん」
彼の声で終わったと思い、体中に籠もっているような熱い吐息をユノも漏らした瞬間。
彼の指先がユノの傷があったところをすぅっと辿ったのだ。
「わ……わるいっ。つい……っ」
治りたてで皮膚がまだ薄いところを撫でられたものだから、思わずまた声を上げてしまったユノに、慌てるようにキリヤは謝罪した。
「は……はい……ひょうぶ……えす」
それに対してユノは返答をしたが、キリヤの指がまだ口の中に入った状況だったので、モゴモゴとしたものになってしまった。
そのことに気が付いたキリヤは慌ててユノの唇から指を抜いた。
「大丈夫……です。こちらこそ、あの……色々とすみません……」
まだ呼吸は整っていなかったが、礼を言わなければと体を起こしキリヤを振り返ったところでユノは思わず固まった。
ユノを見つめている青い瞳はいつもの冷たいものとは全く違っていた。
冷たいイメージがある青なのに。
潤んでとろりと溶けたようなその青い瞳。
今まで見てきたいつでも冷静な彼とはイメージが違って、青い目を潤ませたままユノを見つめる。
それは、あの夜出会ったあの青い瞳とユノの脳内で静かに重なった。
治癒魔法で多くの魔力を使用したせいか、まだ少し吐息が乱れて方が上下しており、美しい額に浮かんだ汗が妙に色っぽくてユノは動揺したが、青い瞳から目を離すことができなかった。
青というのは、冷たく見えるが実際のところは何よりも熱い温度で燃える色なのだと思い出させるようなその瞳。
互いから目が離せず、じっと見つめ合ってしまう。
実際には短い時間だったかもしれないが、ひどく長く感じた。
やはり。
彼は昨夜の。
ユノの瞳に引き寄せられるように、彼の顔が近づいて来る。
そんな。
まさか。
「キリヤ? 会長室にいるの?」
コンコン、と木製の扉をノックする音と共に、シュリのやや高い声が聞こえて、二人は同時に弾かれたように離れ、扉を見た。
キリヤの掌から発せられる強い熱が剥き出しになった傷に触れ、思わず声が出る。
傷を灼かれているようで、思わず逃げてしまうと、治癒魔法を使っている手とは逆の手で抱き込まれた。
「……っすまないが、治癒魔法は独学だから神経を麻痺させて治療する『パラリシス』が使えない……っ直に楽になるから、少しだけ我慢してくれ……っ」
治癒魔法を使いながらユノを抑えつけるキリヤの声は必死な色を帯びていた。
治癒院などで『治癒者』の資格を持つ者は深い傷に治癒魔法を使うとき『パラリシス』という神経を麻痺させる魔法を使う。神経を麻痺させる魔法は加減を誤ると永久に目覚めなくまってしまったり、記憶を失わせてしまうこともある。
そのため『パラリシス』の魔法を使うことは、『治癒学』の授業を受け、且つ『パラリシス』の試験に合格した者でなければ許されないことになっている。
「す……っすみませ……ぅあっ……痛っ」
申し訳ないと思いながらも、『パラリシス』を使わないでこんな深い傷を治療したことのないユノは、経験のない熱さと痛みで体が逃げてしまう。
「大丈夫だっ……塞がってきた……力、抜いて……」
指の先が白くなるくらいキリヤの机の端っこを掴んでいると、うん優しい声で耳元に囁かれた。
ユノを安心させようとして、出された優しい声はユノの耳奥で溶けてしまうような甘い声だった。
「もう少しだけ我慢して……傷はどんどん塞がってきている……そう。上手に力が抜けたな。いい子だ」
彼の言うとおり深い傷は塞がってきたのか、少しだけ痛みが緩み、彼の指示に従うと、頭をそっと撫でられた。
「あ………っぅぅ……」
じくじくと熱を持つ傷が少しずつ塞がっていく。痛みを超えると、今度は治っていく感覚が熱く疼くようで、思わず声が出てしまう。
「……痛みは和らいできたか?」
優しい低い声に訊ねられて、こくこく、と必死に頷く。
剥き出しの神経に触れられたような痛みが、少しずつ癒やされて、楽になっていく。それでいて、神経に触れてくるから熱く疼くような感覚があった。
「………っんん」
その熱い感覚がいっそ、快楽に近いような感覚に変わってくる。
(な……なにこれ……っ)
もちろんこれまでに治癒魔法を掛けられたことはある。
治ってくると、痛みが和らぎほっとする感覚はあったが、こんな痺れるような快楽を感じるのは初めてで、ユノはひどく動揺した。
体中にじわりと汗が滲むようだった。
「また力が入ってる。大丈夫だから。もう痛くならないから、力を抜いて」
力を抜くよう囁きかける声はひどく優しくて、思考が乱される。
混乱して、また机を強く握ったユノの白くなった指先をキリヤの大きな手がそっと包んだ。
「あっ……」
そして、背中の傷の治癒も最後に差し掛かったのか、キリヤの乱れた吐息がユノの首筋を撫でたのだ。
甘ったるい熱を纏った高い声を思わず漏らしてしまうと、キリヤの動きもぴたり、と止まった。
「ん……ぐっ……」
羞恥のあまり、唇をぐっと噛み締めて声を耐える。
「っ……唇に傷が付く……っ」
「ふぁぁ……っ」
そう言って彼はこっちを噛め、とユノの唇の中に指を差し込んだ。
彼の美しい指を噛むわけにいかず、噛みしめるのを何とか止めることはできた。
だか、彼の長い指があやすようにユノの舌を撫でたのだ。
「ん……っ……んっ………」
耳を覆いたくなるような声。それと、彼の指をユノの唾液が伝っているのもわかる。
舌はもちろん、背中の傷が治っていく感覚もどうしようもなく気持ちいい。
治癒魔法を受けてこんな感覚になるのは初めてで、ユノはどうしていいかわからなくなった。
「ぐ……っ」
思わず口の中の指に縋るようにちゅぅ、と吸い付くとキリヤの何かを耐えるような呻き声が聞こえた。
指に吸い付かれて気分を害したのかもしれない、と思ったがそれなら口から指を抜いてほしい。
「あと……少し……ほんとにあと少しだから……っ」
彼がそう言うと、ひと際背中の傷が熱く疼いた。
「う……ぁ……っ」
恐らく一分ほどの間だったが、ユノにはひどく長く感じられた。
ようやく、背中の傷から熱がゆっくりと引き始めた。
「お……終わった……っはぁ……よかった……綺麗に治った……」
「ふ……ぅ…………あっ……ん」
彼の声で終わったと思い、体中に籠もっているような熱い吐息をユノも漏らした瞬間。
彼の指先がユノの傷があったところをすぅっと辿ったのだ。
「わ……わるいっ。つい……っ」
治りたてで皮膚がまだ薄いところを撫でられたものだから、思わずまた声を上げてしまったユノに、慌てるようにキリヤは謝罪した。
「は……はい……ひょうぶ……えす」
それに対してユノは返答をしたが、キリヤの指がまだ口の中に入った状況だったので、モゴモゴとしたものになってしまった。
そのことに気が付いたキリヤは慌ててユノの唇から指を抜いた。
「大丈夫……です。こちらこそ、あの……色々とすみません……」
まだ呼吸は整っていなかったが、礼を言わなければと体を起こしキリヤを振り返ったところでユノは思わず固まった。
ユノを見つめている青い瞳はいつもの冷たいものとは全く違っていた。
冷たいイメージがある青なのに。
潤んでとろりと溶けたようなその青い瞳。
今まで見てきたいつでも冷静な彼とはイメージが違って、青い目を潤ませたままユノを見つめる。
それは、あの夜出会ったあの青い瞳とユノの脳内で静かに重なった。
治癒魔法で多くの魔力を使用したせいか、まだ少し吐息が乱れて方が上下しており、美しい額に浮かんだ汗が妙に色っぽくてユノは動揺したが、青い瞳から目を離すことができなかった。
青というのは、冷たく見えるが実際のところは何よりも熱い温度で燃える色なのだと思い出させるようなその瞳。
互いから目が離せず、じっと見つめ合ってしまう。
実際には短い時間だったかもしれないが、ひどく長く感じた。
やはり。
彼は昨夜の。
ユノの瞳に引き寄せられるように、彼の顔が近づいて来る。
そんな。
まさか。
「キリヤ? 会長室にいるの?」
コンコン、と木製の扉をノックする音と共に、シュリのやや高い声が聞こえて、二人は同時に弾かれたように離れ、扉を見た。
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