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優しくて、 頭が良くて、料理上手で、美人でスタイルも良くて、運動神経抜群で……とにかく!素敵な人じゃないと兄ちゃんは認めないからな!①

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ふたりのなれそめのお話です。


『あーー、理央可愛いから心配。変な女に騙されるなよ? 理央にぴったりなのは、優しくて、 頭が良くて、料理上手で、美人でスタイルも良くて、運動神経抜群で……あとは……うーんと……とにかく!素敵な人じゃないと兄ちゃんは認めないからな!』
 理央の頭の中に、大好きな兄が何度も言い聞かせるように理央に言っていた言葉が思い出された。
「優しくて、頭が良くて、料理上手で、美人でスタイルも良くて、運動神経抜群で……?」
 理央は思わず兄のその言葉を反芻した。


 うすもも色の桜の花びらが舞い散る四月上旬。晴れて希望の大学に入学した理央の手には、キャンパスにごった返す人々から無理矢理渡されたサークル勧誘のチラシ。
 美容師の兄によって美しい桜が映える青空と同じような色にカラーリングされた髪型と少し大きめの瞳は遊び慣れているように見えるみたいで勧誘を断りながらキャンパスを歩くのは大変だった。
『理央は真面目だからこれくらいやんないと舐められるよ』
 なんて言って理央の髪をカラーリングした美容師の兄だけど、芸能人のヘアメイクを担当している兄の感覚は少し 普通の感覚とずれているらしい。さすがに理央ほど鮮やかなカラーリングの人は居なくて、慌てて被ったバケットハット。 髪色は隠れたものの、オシャレ度は増してしまい注目の的となってしまっていることに変わりはないと理央は気付いていなかった。
 勧誘の先輩から逃げるように人気のないところに漸く辿り着き、手の中のチラシに目を通す。 
「テニス……テニス……部活でやるほどじゃなくて、 ちょっと趣味程度にやれるとこでいいかな。アルバイトもしたいし」
 そう思ってチラシを一枚ずつ見ていくと、すごくセンスの良い格好いいチラシを理央は見つけた。
「えーと、テニスサークルブルーフィールド。練習は平日二回と土曜日の週三回。ゴールデンウィークや夏休みに合宿あり。年に二回大会参加。うん。ここなら何かほどほどにテニス楽しめそうで良さそうだな。チラシもシンプルでオシャレでわかりやすいし」
 チラシに書いてある新歓の集合場所と時間を確認してから理央はポケットにチラシを捩じ込んだ。
  回りの友達は彼女を作ってキャンパスライフと息を巻いているが、理央はまだ恋人がいる自分というものがピンと来なかった。一緒にテニスを楽しめるいい友達が沢山出来たら嬉しいな。そんな気持ちでブルーフィールドの新歓に理央は向かった。

 ざわざわして、がちゃがちゃして、 なんか臭い。
 それが初めてやってきた居酒屋、および新歓、所謂新入生歓迎会に対して理央が持った印象だった。人目を惹いてしまう容姿のせいで沢山の人に話しかけられた。ただ理央の太ももに手を置いて話す女の子も、下世話なことまで聞いてくる男とも仲良くしたいとは思えない。
「ねぇ。二人で抜け出さない?」
 そう言ってきた女の子を断ったら、その場にいづらい空気になってしまった。
『優しくて、 頭が良くて、料理上手で、美人でスタイルも良くて、運動神経抜群で……あとは……うーんと……とにかく!素敵な人じゃないと兄ちゃんは認めないからな!』
 兄の言葉が理央の頭を過った。
 頭がいいとか運動神経とかはわかんなかったけど、少なくとも優しい人じゃなさそうだったから、断ったのは間違いじゃないよね。
 逃げるようにトイレに立って鏡に映った自分を見ながら兄の言葉を思い出して、自分の行動は合っていると頷いたが、如何せん顔に浮かぶ疲労は拭えない。
 ついこの前まで黒髪眼鏡だったのに、 東京の大学に出てきた途端兄によって施された派手な髪色、ピアスにカラコン。見慣れない自分は急に声を掛けられるようになった。
 これまで声を掛けられなかったのに、急になんだと言うのだ。そんなに髪色やオシャレであることって大事なの?  
 そんなとこだけみんな大事なの?
 溜め息を吐いてトイレから出ると狭い廊下の曲がり角でドンっと誰かとぶつかった。

「……っぷ……すいません」
 思わず謝って見上げると、視線の先には綺麗な男の人。
 今日はこの居酒屋はサークルで貸し切ったと言っていたから、このサークルの人なんだろう。
 理央は時が止まったようにぽかん、とぶつかった男を見上げた。いくらすごい人数であったからと言ってこの会場の何処かにこんな目立つ男がいたのに気付かなかったのが信じられない。
「……あ、こちらこそすいません」

 ちらり、と理央を一瞬だけ見て、そのまま行ってしまった。少し長めの髪を軽く後で結んでいて、普通だったらチャラく見えそうなのに、眼鏡の奥の瞳が理知的で、結んだ髪さえも彼の雰囲気に花を添えていた。
「ふぁ……やっぱ大学にはこんなカッコいい人いるんだ」
 芸能人と関わる仕事をしている兄に連れられて見学に行ったスタジオの芸能人くらいカッコよかった。

 男の背中を珍しいものを見るように見送ったのち、新歓の会場になっていた座敷に戻ったが、 座敷の様子を見て理央は一気に気分が氷点下まで冷え込んだ。
「うわ、ナニコレ」
 理央がトイレに立ってうだうだしている間に新歓はお開きになったのか、会場には誰も居なかった。
 だが、 目の前の惨状に理央は目を覆いたくなった。
 ぐちゃぐちゃに入り乱れた座蒲団。しかも、酷いものは酒や食べ物で汚れていた。もちろん座蒲団がそんな状況なら座敷の畳も沢山の食べ残しや飲み物を溢した跡があった。 お絞りや割り箸なんかも落ちていた。
「んーー、食器を下げるとかある程度は店員さんの仕事かもしれないけど、いくらなんでもコレは汚しすぎだよね」
 人の食べ溢しを拾ったりするのは嫌だったけれど、テーブルに置いてある比較的綺麗なお絞りを使って片付けた。
 テーブルの上もあんまり酷い有り様だったので、溢れた飲み物を拭いた。それから散らかった座蒲団を集めて汚れてるものを別にしておいた。
「何してるの?」
「いやもう、あんまりぐちゃぐちゃだったんで、せめて汚れてる座蒲団だけでも纏めておこうと……思って……」
 言いながら顔を上げると、そこにはさっき廊下でぶつかったあの綺麗な人だった。
「そうだね。いくらなんでも散らかしすぎだよね」
 そう言って、綺麗な人も散らかった座蒲団を集め始めて、畳の上に転がった割り箸なんかを拾い始めた。
 初めて会った超綺麗な人と二人で無言でせっせと広い座敷のゴミを拾ったり座蒲団を集めるというシュールな状況。
 この綺麗で冷めた雰囲気を持つ男がまさか理央を手伝って動き出すとは思えなかったので、内心理央は少々驚いていた。
 見た目で判断するのは違うと思っているのに、どうやら理央自身も無意識に外見で判断していたらしい。
 てきぱきと効率的に動く彼と共に片付けているとあっという間に綺麗になった。
「あとは店員さんにお任せしようか」
 ある程度現状回復したところで彼がそう言った。
「そうですね」
 粗方片付いたのを見て理央も彼の言葉に従った。
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