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13話
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相馬に抱かれたら、あれほど狂ってしまうかと思って恐ろしかったのに。
「おはよう」
抱かれた翌朝優しい腕の中で千晶は目を覚ますと、当たり前だが千晶は狂ってはいなかった。当たり前なのだが、千晶にはそれがわからなかったのだ。
「お……はようございます……」
いっぱい啼かされて掠れた声で千晶が応えると、頬やまぶたや額に雨みたいにくちびるが降ってくる。
「昨日すっごい可愛かった……千晶。愛してる……」
そう言って相馬が千晶のくちびるをそっと塞ぐと、千晶は狂ってしまう代わりに、苦しいくらいの愛情ではち切れそうだった。
「俺も……好きです……」
柔らかく舌を絡めてから、くちびるを離した相馬と額をぶつけながら千晶が言うと、相馬は嬉しそうに笑った。
「千晶のお母さんは千晶を産んでくれたけど、千晶はお母さんと違う人間だよ。歩む道も愛する相手も違うのに、同じになるわけがないんだよ」
いつものように優しく頭をかきまぜられた。
「はい」
千晶が応えると相馬は満足そうに笑って
「先にシャワー浴びておいで」
とシャワールームを案内してくれた。
*****
シャワーを浴びて、相馬が出してくれた部屋着を借りてリビングに戻るとキッチンからいい匂いがしていた。
「もうすぐ、朝ごはんできるから座って」
対面式のカウンターキッチンから顔を覗かせたのは……
「マリちゃん……」
僅かな時間で朝ごはんの準備と完全にマリなっている相馬に驚いて思わず手に持っていたバスタオルを千晶は落とした。
「おはよ、ちーくん」
そう言ってキッチンからエプロンを身に付けたマリがスリッパをパタパタさせながら出てきて千晶の頬にキスをした。
「アタシはまだおはようのチューしてないなぁって思って……あ、もしかしてほっぺじゃ不満だった?」
「んんっー……」
マリの腕にぎゅっと抱き締められてくちびるを塞がれた。
驚きで少し空いたくちびるの隙間から容赦なくマリの舌がするりと挿れられて、千晶が感じるとばれてしまっている舌の付け根や上顎を味わうように舐められて、千晶は脚の力が抜けてしまいマリにしがみついた。
「ほんと、朝からかぁわいい。ちーくん。アタシのものだと思うと感激しちゃう」
そう言ってマリは軽々と千晶を抱き上げ、ダイニングテーブルとセットのチェアに座らせた。
「マリちゃん昨日も思ったけど……すげぇ力持ちだよね……」
マリは千晶の言葉を笑いながら聞き流して、スープやパンやスクランブルエッグの乗った皿を並べていく。
「おいし……」
二人でいただきますをして、マリの作ってくれたパンプキンスープをひと口飲んだ千晶が思わず言うと
「ちーくんのクチに合ったなら嬉しい。胃袋もつかめちゃうかな」
うっとり恋する乙女の表情を浮かべたマリは朝の光の中、みとれてしまうくらい綺麗だった。
「……相馬さんメイク上手すぎじゃないですか……」
「相馬さんじゃなく真利ね。アタシ呼ぶときはマリちゃんでいいけど、相馬さん呼ぶときは真利さんって呼んで欲しいな」
「ややこしい……」
ぷいっとそっぽを向いて言ったものの、耳はほんのり赤くなってるのを見て
「二人が同一人物って知ってめちゃめちゃ安心したくせに」
ほんと、ちーくんってアタシ達のこと好きよね、とマリはスクランブルエッグを口に運んだ千晶の頬をつついて笑う。
「……なんで教えてくれなかったんですか?」
千晶がぼそりと尋ねるとマリは笑うのをやめて、優しい視線で千晶を見た。
「千晶が『マリちゃん』だったら理性を保って穏やかに生きていけるって思ってたことも悔しかったし、『相馬さん』はいつか千晶を捨てるって思ってたこともどうやって信じてもらえばいいのかずっと考えてた。ゆっくり何年も時間をかけて信じてもらえるまで待つのがいいのかとも思ったよ。でも」
「ぁ……」
テーブル越しに千晶の顎下を相馬はくすぐる。千晶はまるで彼の飼い猫にでもなったかのように身を震わせた。その様子を見て妖艶に笑う。
「わかったの。怖がりなちーくんには少し強引に何もかも教えてあげなきゃアタシのものにはならないって」
「い……今どっち……」
「さぁ? 俺もわかんないや。だってどっちも、俺だもん。二人分で千晶のこと愛してあげるから……」
そう言ってマリはチェアから立ち上がると千晶を抱き上げた。
「マ……マリちゃん、朝ごはん途中なんだけど……」
「後で温め直すから……何かベッド行きたくなっちゃった。いいよね?」
少し低めの声で色っぽく言われると、昨夜マリに奥深くまで貫かれたことを思い出してしまう。腹の奥がぽわっと熱くなって、温まった蜜がとろりと蕩けだすように愛液が溢れるのを感じて千晶はマリにぎゅっとしがみついた。
「それでちーくんには相馬さんとアタシとどっちが本命なのか、ちゃんと選んでもらわなきゃね」
そう言って妖艶な瞳で相馬は笑う。
「こんな三角関係だって聞いてない……」
二人に迫られてるみたいで心臓が持ちそうにないと頭を抱えた千晶を相馬とマリが楽しそうに笑って、ベッドルームのドアがにぎやかに閉じた。
end
短い連載でしたが、お付き合いありがとうございました。
色々練るのに時間かかったので、私は短い時間だった気はしないのですが、文の量で言ったらかなり少ないですよね……😂
マリと相馬同一人物ってどういうことだよ~😂😂😂って突っ込みが聞こえそうです……コナン見てたら変装に対する感覚がおかしくなったみたいです😂😂😂(変装じゃなくて女装だけど💦)
最後に改めて結末を知った上で表紙を見ていただきたいです。
表紙を書いて下さったいろさんに、マリと真利は同一人物なんだけどそれがわからないように二人とも表紙に描いてほしいと今から思い返すととんでもないお願いをしました😂
同一人物だとわからないように描いて欲しいのだけど、同一人物だから結末知ったとき別人じゃん!とはならないようにしてくれて、何度もイラストを見るうちに自分が如何に無理難題を言っていたか…と改めて気づきました。そしてそれに応えてくれるその画力😭泣くしかない……
変なことばかり言ってる私に付き合って忙しいにもかかわらず最高の表紙を描いて下さりホントいろさんには感謝しかありません。一緒にマリについて考えてくれてありがとう😭
おまけのSSは表紙を見て3人で……期待された方いるかな?と思い3人で……のIFストーリーです。相馬とマリは双子の設定ですので頭空っぽにして私史上初めての3人プレイお楽しみ下さい🙇(また感想言いづらいおまけにしてしまった……)
「おはよう」
抱かれた翌朝優しい腕の中で千晶は目を覚ますと、当たり前だが千晶は狂ってはいなかった。当たり前なのだが、千晶にはそれがわからなかったのだ。
「お……はようございます……」
いっぱい啼かされて掠れた声で千晶が応えると、頬やまぶたや額に雨みたいにくちびるが降ってくる。
「昨日すっごい可愛かった……千晶。愛してる……」
そう言って相馬が千晶のくちびるをそっと塞ぐと、千晶は狂ってしまう代わりに、苦しいくらいの愛情ではち切れそうだった。
「俺も……好きです……」
柔らかく舌を絡めてから、くちびるを離した相馬と額をぶつけながら千晶が言うと、相馬は嬉しそうに笑った。
「千晶のお母さんは千晶を産んでくれたけど、千晶はお母さんと違う人間だよ。歩む道も愛する相手も違うのに、同じになるわけがないんだよ」
いつものように優しく頭をかきまぜられた。
「はい」
千晶が応えると相馬は満足そうに笑って
「先にシャワー浴びておいで」
とシャワールームを案内してくれた。
*****
シャワーを浴びて、相馬が出してくれた部屋着を借りてリビングに戻るとキッチンからいい匂いがしていた。
「もうすぐ、朝ごはんできるから座って」
対面式のカウンターキッチンから顔を覗かせたのは……
「マリちゃん……」
僅かな時間で朝ごはんの準備と完全にマリなっている相馬に驚いて思わず手に持っていたバスタオルを千晶は落とした。
「おはよ、ちーくん」
そう言ってキッチンからエプロンを身に付けたマリがスリッパをパタパタさせながら出てきて千晶の頬にキスをした。
「アタシはまだおはようのチューしてないなぁって思って……あ、もしかしてほっぺじゃ不満だった?」
「んんっー……」
マリの腕にぎゅっと抱き締められてくちびるを塞がれた。
驚きで少し空いたくちびるの隙間から容赦なくマリの舌がするりと挿れられて、千晶が感じるとばれてしまっている舌の付け根や上顎を味わうように舐められて、千晶は脚の力が抜けてしまいマリにしがみついた。
「ほんと、朝からかぁわいい。ちーくん。アタシのものだと思うと感激しちゃう」
そう言ってマリは軽々と千晶を抱き上げ、ダイニングテーブルとセットのチェアに座らせた。
「マリちゃん昨日も思ったけど……すげぇ力持ちだよね……」
マリは千晶の言葉を笑いながら聞き流して、スープやパンやスクランブルエッグの乗った皿を並べていく。
「おいし……」
二人でいただきますをして、マリの作ってくれたパンプキンスープをひと口飲んだ千晶が思わず言うと
「ちーくんのクチに合ったなら嬉しい。胃袋もつかめちゃうかな」
うっとり恋する乙女の表情を浮かべたマリは朝の光の中、みとれてしまうくらい綺麗だった。
「……相馬さんメイク上手すぎじゃないですか……」
「相馬さんじゃなく真利ね。アタシ呼ぶときはマリちゃんでいいけど、相馬さん呼ぶときは真利さんって呼んで欲しいな」
「ややこしい……」
ぷいっとそっぽを向いて言ったものの、耳はほんのり赤くなってるのを見て
「二人が同一人物って知ってめちゃめちゃ安心したくせに」
ほんと、ちーくんってアタシ達のこと好きよね、とマリはスクランブルエッグを口に運んだ千晶の頬をつついて笑う。
「……なんで教えてくれなかったんですか?」
千晶がぼそりと尋ねるとマリは笑うのをやめて、優しい視線で千晶を見た。
「千晶が『マリちゃん』だったら理性を保って穏やかに生きていけるって思ってたことも悔しかったし、『相馬さん』はいつか千晶を捨てるって思ってたこともどうやって信じてもらえばいいのかずっと考えてた。ゆっくり何年も時間をかけて信じてもらえるまで待つのがいいのかとも思ったよ。でも」
「ぁ……」
テーブル越しに千晶の顎下を相馬はくすぐる。千晶はまるで彼の飼い猫にでもなったかのように身を震わせた。その様子を見て妖艶に笑う。
「わかったの。怖がりなちーくんには少し強引に何もかも教えてあげなきゃアタシのものにはならないって」
「い……今どっち……」
「さぁ? 俺もわかんないや。だってどっちも、俺だもん。二人分で千晶のこと愛してあげるから……」
そう言ってマリはチェアから立ち上がると千晶を抱き上げた。
「マ……マリちゃん、朝ごはん途中なんだけど……」
「後で温め直すから……何かベッド行きたくなっちゃった。いいよね?」
少し低めの声で色っぽく言われると、昨夜マリに奥深くまで貫かれたことを思い出してしまう。腹の奥がぽわっと熱くなって、温まった蜜がとろりと蕩けだすように愛液が溢れるのを感じて千晶はマリにぎゅっとしがみついた。
「それでちーくんには相馬さんとアタシとどっちが本命なのか、ちゃんと選んでもらわなきゃね」
そう言って妖艶な瞳で相馬は笑う。
「こんな三角関係だって聞いてない……」
二人に迫られてるみたいで心臓が持ちそうにないと頭を抱えた千晶を相馬とマリが楽しそうに笑って、ベッドルームのドアがにぎやかに閉じた。
end
短い連載でしたが、お付き合いありがとうございました。
色々練るのに時間かかったので、私は短い時間だった気はしないのですが、文の量で言ったらかなり少ないですよね……😂
マリと相馬同一人物ってどういうことだよ~😂😂😂って突っ込みが聞こえそうです……コナン見てたら変装に対する感覚がおかしくなったみたいです😂😂😂(変装じゃなくて女装だけど💦)
最後に改めて結末を知った上で表紙を見ていただきたいです。
表紙を書いて下さったいろさんに、マリと真利は同一人物なんだけどそれがわからないように二人とも表紙に描いてほしいと今から思い返すととんでもないお願いをしました😂
同一人物だとわからないように描いて欲しいのだけど、同一人物だから結末知ったとき別人じゃん!とはならないようにしてくれて、何度もイラストを見るうちに自分が如何に無理難題を言っていたか…と改めて気づきました。そしてそれに応えてくれるその画力😭泣くしかない……
変なことばかり言ってる私に付き合って忙しいにもかかわらず最高の表紙を描いて下さりホントいろさんには感謝しかありません。一緒にマリについて考えてくれてありがとう😭
おまけのSSは表紙を見て3人で……期待された方いるかな?と思い3人で……のIFストーリーです。相馬とマリは双子の設定ですので頭空っぽにして私史上初めての3人プレイお楽しみ下さい🙇(また感想言いづらいおまけにしてしまった……)
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