孤狼のSubは王に愛され跪く

ゆなな

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番外編SS

レオンの出産レポート2

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 促されて分娩室に入ると、無機質な分娩台に磔にされたようなシンが目に入った。
 人の気配にとりわけ敏感なシンだが、今はレオンが室内に入ってきたことにも気が付かないらしい。沢山の汗が彼の額伝っていて、拷問にでもあっているような苦し気な表情。
 声を掛けるか掛けまいか迷った次の瞬間。
 シンの美しい形の眉がさらにきつく寄せられた。
「うぁぁ……」
 苦悶に満ちた表情で苦しみだしたシンの様子にレオンは息を呑んだ。
「陣痛の間隔がすごく短くなってきたからもうすぐだと思う」
 分娩室内にレオンを案内した看護師が告げた。
 その場にいた他のスタッフもレオンが誰なのか聞かずとも察したようで、シンの枕元の辺りの場所をそっと空けた。
「……くっ……う……」
 艷やかな黒髪は汗で湿っていて、肌は紅潮していた。
 つ……と汗の雫が額から頬に掛けて流れ落ちたそのとき。
「……レ……レオン……っ」
 瞳は焦点が定まっておらず、直ぐ側にレオンが立っていることにも気付いていないだろうシンの唇から、レオンの名前が漏れた。
「シンくーん、聞こえる? レオンさん来てくれたからねー」
 看護師のうちの一人がシンに呼びかけると、彼は驚きで大きく目を見開いた。
「は……っ? え……? ぅぁ……く……ぅ……な、ん……でぇぇ……うぁ」
 痛みに悶えながらレオンの姿を探すシンの視界に入りやすいところに移動すると、彼の驚いたような瞳と視線が合った。
「呼んだだろ、俺のこと」
 そう言って分娩台の手すりを指先が白むほどにきつく掴んでいた手をレオンはそっと取った。
 海の陽に焼けたレオンの手を、シンはぎゅっと握り返して額に当てた。ひどく熱い額に張り付く前髪をそっとどけてやる。そのまま少しの間、苦痛の唸り声を上げていたが、痛みの波がわずかに引いた瞬間があったのだろう。潤んだ瞳がレオンを見た。
「レオン……っ」
 痛みと痛みの狭間に喘ぐようにシンが言う。こんなところに来るような、そんな柄じゃないと驚いた目が訴えている。
「だから、お前が俺のこと呼んだんだろうが」
 痛みの間でさえもひどく苦しそうなシンの背を擦りながら、レオンは言う。
「お前が呼んだとき、すぐに行ってやれないときがあった。だから、これからはお前が俺のことを呼んだらすぐにお前のところに行くって決めてんだよ」
 一瞬時が止まったかのようにシンはレオンを見つめた。
「……っ……うあぁっあ」
 次の瞬間に酷い痛みが襲ってきたようで俄かに周辺も騒がしくなる。
 喧騒の中に狂おしい苦悶に満ちた声が混じる。
 手を握られることまで痛みに感じるらしく、レオンの手を離し、自身の指先が白むほどベッドサイドの手すりを再び握りしめるシン。
 何もできることはなく、己が無力であることを思い知らされる。
 苦しむシンを見てただただ何もできず佇む。
 実際には数十秒のことだったが、永遠にも思える時間だった。
 痛みで張り詰めた体が少し緩んできた。
「シンくんにお水飲ませてあげてください」
 そばにいたスタッフからストロー付きのボトルを手渡された。
 ストローをそっと唇に近づけるとシンは弱々しく水を啜った。
 水を飲み、ふと息を漏らしたところで、またすぐにシンの眉が苦しげに寄せられる。陣痛の波が襲ってきたようだ。
 それをもう何度か繰り返すと、痛みと痛みの間隔は殆どなくなってきたのか、ずっとシンは呻いている。
 タオルで汗を拭ってやると、もうだめ……、と言うように力無くシンが首を振った。
「大丈夫、シンくん! もう少しだよ!」
「……っも……むりぃ……っうあああああ」
 無理と言いながらも精一杯いきんだのだろう。ひと際大きな絶叫が響いたとき。
 シンの声を掻き消すほど大きな産声が上がった。
「はぁ……っはぁ……ぶじにう……うまれた……?」
 苦しい呼吸の中、シンは訊ねた。
「安心してー! 元気な女の子生まれたよ」
 赤子を取り上げた助産師のその言葉を聞いた瞬間。
 シンはそれはそれは安堵に満ちた表情を浮かべた。
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