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俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる〜B面〜

B面9

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 俺は子供じゃないので、てんとう虫公園から帰るのに一人でも迷うことはない。スマホで位置を確認して、自宅のアパートに向かった。スマホには沢山の着信があったけれど、一時間くらい前からはそれも静かになった。
 今頃二人はうまくいったかな。
 考えるだけで傷口から血が溢れ出ていくみたいに痛くて苦しい。
 優しく俺に触れてくれていた手で真琴に触るのかな。
 もしかしたら大好きな真琴だから俺にしたみたく優しくする余裕なんてないかもしれない。
 
 とっぷりと日が暮れてしまうと、さらに冷え込む秋の空気中とぼとぼと重い足を引きずるようにして歩いた。
「さむ…………」
 冷えた体を両腕で抱きしめる。
 ようやく辿り着いた俺と母さんが二人で暮らす2DKのアパート。
 階段で3階まで上がって、俺は鍵を取り出そうとポケットの中に手を入れたところだった。
 アパートの薄暗い廊下にキラキラ光るものを見つけた。
 俺の家の前で体育座りみたいに座って膝に顔を埋めているその人影。
 顔は伏せているけれど、キラキラの髪は間違えようがない。
 コータのものだ。
 カチャン……
 思わず手に取った家の鍵を取り落としてしまい、コンクリートの廊下に金属の鍵が響くと、その音に弾かれたようにコータは顔を上げた。
「なっちゃん!」
 落とした鍵もそのままにその場から逃げ出そうとしたが、今度は素早く反応したコータにあっという間に捕まってしまった。
 二階の踊り場に着く前に、大きな手に手首を捕まれた。
「行かないで……っ」
 コータの声があまりに悲しそうだったので、俺は思わず足を止めて振り返った。
「お願い……っあんなひと言だけで別れるなんて、嫌だよ……っ……俺がダメだったとこ、教えてくれたら一生懸命直すから……っ頑張るから……別れたくない……っなっちゃんのこと、俺すげぇ好きなんだもん」
 コータの綺麗な紅茶色の瞳は真っ赤で、目の縁もうっすらと赤かった。
「……っ」
「……って、こうやって強引なとこがだめだった? 何にもわかんないなっちゃんにつけ込んで、なし崩しに抱いて付き合わせた俺なんてもう嫌い?」
 コータが言っていることが信じられなかったけど、真っ赤に濡れた瞳に射抜かれて嘘なんか吐けなかった。
「……コータのこと嫌いじゃない……っ」
 紅茶色の瞳がこれ以上ないくらい見開かれたところで、階下の扉を開閉するような音が聞こえて二人でぎくり、と固まった。
「……なっちゃんの家の近くで騒いでごめん……なっちゃんがいいって言ってくれるまで絶対指一本触れないから、なっちゃんの部屋で話させて……」
 声を潜めて話すコータ。
 俺の手首を掴む指先が小さく震えていて、俺は混乱したまま小さく頷いた。

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