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最終章 旅立ち

最終回

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「きみたちは、ヒト以外の哺乳類の細胞に、ヒトのDNAを組み込むことで生まれた。そうすることで、クローン技術のヒトへの応用を禁止する国際法をすり抜けて作り出された人造人間ヒューマノイドだ」

 僕たちがどうやって生まれたのか、五年生のとき、理科の授業の中で先生が話してくれたことがあった。

 クローン技術のヒトへの応用を禁止する国際法とやらがあるのは知らなかったが、そんなことは、もう、今さら、なんの意味も持たなかった。

「きみたちは法的にヒトとは位置づけられていない。この事実をもって、人間は自分たちときみたちとの間に線を引くことできる。だからこそ、人々は奉仕者を搾取しながら、やましくない心で眠りにつくことができるんだ。肉を食べながら、そのために屠られた家畜の生涯について思い巡らせたりはしないように」

「そんな存在に生まれたくて生まれてきたんじゃない」

 僕は藁にもすがる思いでコーディネーターの腕をつかむ。

「タケルが長くもたないかも知れないなら、なおのこと会いたいんです。タケルのそばにいられないなら、これ以上、生きていたくありません。もう会えないなら、僕を安楽死にしてください」

 僕は泣いた。
 幼い子供のように両腕で顔を覆い、なりふりかまわず涕泣した。

「スグル君」

 頭の近くでコーディネーターの声がした。

「死にたいと思うほど、彼に会いたいの?」

「はい」

「あそこでの奉仕はすごく辛い。生き地獄になるかも知れない」

「はい」

「後悔しない?」

「はい」 

「本当に?」

「本当に。後悔しません」

 僕は手で涙を拭い、コーディネーターを見つめた。

「タケルに会えるなら、死んでもいい」

「わかった」

 彼はうなずくと、部屋を出ていった。

 翌朝、食事を済ませると、僕は荷物を詰めたカバン──ホームを旅立つ時、校長先生が持たせてくれたカバンを持って、コーディネーターの運転する車に乗り込んだ。

 春の日差しを浴びて鈍く輝く銀色のセダンは、目的地へと向かって走って行った。

  ~おわり~
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