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第4章 ホーム
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ナナミも、僕たちと同じホームの同級生だった。
タケルと僕は十三歳のときにセンターに移送されたが、マリエとナナミは十六歳で卒業するまでホームにいたと教えてくれた。
「スグルたちがいなくなってから、クラスの雰囲気はずいぶん変わったわ。だれかが……たぶんサヤカたちが言い出したんだと思うけど、スグルとタケルは外で『性奉仕』をしているって。そういう噂が流れてね」
「世の中には十三のガキとやりたがる変態がいるからな」
あえて僕は軽口を叩いてみせた。
僕がホームにいた頃は、こんなふうにあけすけに性奉仕のことを話すなんて、想像もできなかった。
当時の僕たちは、セックスについてヒソヒソ話をしたり冗談を言うことはあったが、性奉仕について言及することはほとんどなかった。
性奉仕という言葉を、その意味を知りながら、口に出すのは憚られた。
口にしてはいけない暗黙のルールのようなものがあった。
「それまでは、みんな、性奉仕のことは知ってても、楽観的に自分は大丈夫なんじゃないかと思ったり、まだ先のことだと思ってまじめに考えようとはしなかったり」
マリエは僕を見ずに、正面に顔を向けたまま続けた。
「それが、自分たちのクラスから若齢事例が出たことで、なんだか、すごくピリピリしちゃってね。性に関することは、冗談でもタブーになって……」
意図せず沈黙が落ちた。
僕は話題を捜して、ずっと心に引っかかっている気がかりを、マリエに尋ねてみることにした。
「介護の奉仕は、定年退職のような制度はあるの?」
できるだけ、さりげない口調で言った。
「定年はないけど……若者が多いわね。でも中には四十代の者もいるし、障害者福祉施設で奉仕していた時、一人だけ五十代の者がいたわ。パワフルな人で、利用者さんに寄り添うのがとても上手だった」
マリエは一度うつむき、なにやら考えていたが、思い切ったように顔をあげた。
「あのね、スグル、わたし聞いたことがあるの」
「なに?」
「介護の奉仕は、ある程度の年齢になったら、リタイアするのが許されるみたいなの。それが何歳なのかは決まってなくて、人それぞれだけど、リタイアが認められたら、ほかの人々みたいに好きな仕事をしてお給料をもらって暮らせるとか」
僕は無意識のうちに、食い入るようにマリエを見ていたようだ。
タケルと僕は十三歳のときにセンターに移送されたが、マリエとナナミは十六歳で卒業するまでホームにいたと教えてくれた。
「スグルたちがいなくなってから、クラスの雰囲気はずいぶん変わったわ。だれかが……たぶんサヤカたちが言い出したんだと思うけど、スグルとタケルは外で『性奉仕』をしているって。そういう噂が流れてね」
「世の中には十三のガキとやりたがる変態がいるからな」
あえて僕は軽口を叩いてみせた。
僕がホームにいた頃は、こんなふうにあけすけに性奉仕のことを話すなんて、想像もできなかった。
当時の僕たちは、セックスについてヒソヒソ話をしたり冗談を言うことはあったが、性奉仕について言及することはほとんどなかった。
性奉仕という言葉を、その意味を知りながら、口に出すのは憚られた。
口にしてはいけない暗黙のルールのようなものがあった。
「それまでは、みんな、性奉仕のことは知ってても、楽観的に自分は大丈夫なんじゃないかと思ったり、まだ先のことだと思ってまじめに考えようとはしなかったり」
マリエは僕を見ずに、正面に顔を向けたまま続けた。
「それが、自分たちのクラスから若齢事例が出たことで、なんだか、すごくピリピリしちゃってね。性に関することは、冗談でもタブーになって……」
意図せず沈黙が落ちた。
僕は話題を捜して、ずっと心に引っかかっている気がかりを、マリエに尋ねてみることにした。
「介護の奉仕は、定年退職のような制度はあるの?」
できるだけ、さりげない口調で言った。
「定年はないけど……若者が多いわね。でも中には四十代の者もいるし、障害者福祉施設で奉仕していた時、一人だけ五十代の者がいたわ。パワフルな人で、利用者さんに寄り添うのがとても上手だった」
マリエは一度うつむき、なにやら考えていたが、思い切ったように顔をあげた。
「あのね、スグル、わたし聞いたことがあるの」
「なに?」
「介護の奉仕は、ある程度の年齢になったら、リタイアするのが許されるみたいなの。それが何歳なのかは決まってなくて、人それぞれだけど、リタイアが認められたら、ほかの人々みたいに好きな仕事をしてお給料をもらって暮らせるとか」
僕は無意識のうちに、食い入るようにマリエを見ていたようだ。
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