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第2章 神子

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 海岸線を歩いていると、鯵の開きやスルメイカを干してある場所を見つけた。

 ものめずらしさに近づいて行くと、漁師らしき男たちが、こちらに気づいた。

「神子様だ」

「新しい神子様だ」

 人々は作業をする手を止め、その場にひざまずいて手を合わせる。

 雪千代は困惑して、立浪を振り向いた。

「神子様は船乗りの守り神でもあります。しばらくの間、島には神子様がいませんでした。新しい神子様がいらして、安心しているのでしょう」

 崇められる居心地の悪さに、雪千代は踵を返して来た道を戻ることにした。

「前の神子様は、どうなされたのですか?」

「事故でお隠れになりました」

「事故?」

「崖から落ちたのです、足を滑らせて……」

「崖から落ちるとは、気の毒に」

「それから一月ひとつきほど、島には神子様が不在でした。その間、季節外れの嵐がきたり、かつてないほど海がしけたり、不漁がつづいて、漁民の中には神子様がいないから海神が荒ぶり災いが起きるのだと言い出す者もいて、急いで新しい神子様を連れて参るべく、本土に渡った次第でございます」

「そこで買われたのが、鶴と私ということか」

「神が巡り合わせてくれたのですよ」

「どんな言い方をしても同じだ。私らは継母に騙されて売られ、社に買われた。神職らの慰み者として」

「神子様は神の依代。神子様と神職の交合は、神を敬い、お祀りする手法のひとつでございます」

 白々しい建前論を述べる立浪を、雪千代は冷めた目で一瞥した。
    
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