百万回転生した勇者

柚木

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首都ヨルセウス

魔王様、例の物見つけました

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 グロリアの攻撃は熾烈を極めた。
 ニ十本の腕を使い、無限に湧き続ける武器を使い捨ての様に使い続ける。
 斧で、剣で、杖で、弓で、ハンマーで、メイスでただただ俺に向かってそれらの武器を振り下ろす。
 弾いても壊しても湧き続ける武器も厄介なのに、足の代わりをしている蛇の群れまでも攻撃に加わる。
 息つく暇もない連撃に悲鳴を上げたのは俺ではなく、地面代わりのサンダーバードだ。
 すでに限界らしく、持ちこたえてはいるが高度はどんどん下がっている。

「大分下がってきたな。このまま町に降り立つのも悪くない」

 このままこいつらが町に降り立ったら、この王都はひとたまりもないだろう。
 少なくとも、俺とグロリアの戦いに巻き込まれて生きている人間は存在しない。
 グロリアよりも先にサンダーバードをどうにかしないといけないか。

「【ウィ――」

 グロリアは俺が魔法を使うことを極端に嫌っている。
 俺が口を開くと真黒な瞳が俺を睨み、攻撃はより激化する。
 どうやらこのまま俺の体力を削り取るのが目的らしい。
 距離も取れず、防戦一方の現状を何とか打破したい。
 あんまり使ったことは無いし、使えるかわからないけど【誘導尋問】インダクションを試してみるしかないか。
 ある程度の意識の集中が必要だし、こんな状況になる前に使っておけばよかった……。

 【誘導尋問】インダクションは移動物の行動範囲を限定するだけのスキル。
 それも進行方向に意識を集中させなければならず、見張りなどをかいくぐるための隠密用のスキルだ。
 決して今使うようなスキルじゃない。
 それでもやらないと最悪の事態に陥るのは確かだ。

 どこか人のいない場所はどこか無いか?
 王都の北側に広大な森が目に入り、そこに狙いを定め俺は【誘導尋問】インダクションを発動する。
 あそこの森なら人はいないはずだ。
 意識を森に向けながら、グロリアの連撃を耐え続ける。

「ぐっ……」

 見切れていない数発の攻撃を受け流すことができず、真正面から受けてしまう。
 ありえない程の怪力に剣を握る手が痺れる。
 久しぶりの感触に舌打ちしながら、武器を持つ手を入れ替える。
 より不利な状況に追い込まれながらも、サンダーバードは森に向かって進んで行く。

「なぜ、サンダーバードはあの森に向かって行く?」

 これで一安心と思っていたが、魔王は目ざとくも異変に気がついたらしい。
 言葉も発せぬ現状では悟らせないように蛇行させながら移動させる。
 ここで切り札の一つを切ってもいいけど、ここでは失敗する可能性の方が大きい。
 あの森に行くまでの辛抱だ。

「気のせいではない無いわけか。勇者が何かしているらしいな」

 あっさりと俺の作戦がバレてしまう。
 バレているなら隠す必要はない。
 俺はサンダーバードを森へ移動させることに集中する。

「なるほど、誘導系か。それならグロリアよ更に加速せよ【アーリー】」

 その集中を乱す様に打ち込まれるグロリアの攻撃。
 その攻撃は徐々に俺の体を掠めるようになってくる。
 焼けるような痛みも、上昇する体温も、それを冷やす汗も、荒くなる呼吸も、怠くなる体も全部が懐かしく感じる。
 最近感じることが無くなってきていた体の異変、徐々に逃げ場が無くなるこの感覚を久しぶりに思い出す。
 もう少しで王都の上空からサンダーバードが出て行く。
 そこまで我慢すればいい。

「くっ……」

 防具の無い部分を武器が掠め、蛇が皮膚を噛む。
 毒は効かないが、やはり噛まれると痛い。

「段々押されてきているみたいだな。もう死ぬのは時間の問題だが、よくやったよお前は」

「これで、終わりじゃ、ないさ」

 俺はグロリアの攻撃を全てその身に受ける覚悟をし、サンダーバードの体に剣を突き刺す。
 力任せの一突きにサンダーバードの背には大きな穴が開く。
 声にならない悲鳴を上げるサンダーバードは、痛みから暴れ、背に乗る俺達の体勢は崩れる。

「【アイス】」

 氷の魔法はサンダーバードの体を凍らせる。
 動かなくなるが、落ち続けるこいつも【誘導尋問】インダクションの効果は受け続ける。

「ふざけた真似を! やれ、グロリア!」

「――――!!」

 魔法で足が凍っている魔王とグロリアは、当然の様に凍った個所を切り取り再生する。
 再生を終えたグロリアは奇声と共に突進する。

「落下するまで楽しもうか【アーリー】」

 自分に加速の魔法をかけ、再びグロリアとぶつかる。
 さっきとは違い、こちらも加速の魔法を使い速度は付いて行ける。
 蛇も武器も受け流し時に奪いながら落下まで時間を稼ぐ。

「魔王様、例の物見つけました」

「そうか、ではそろそろ撤退だな」

 ようやくグロリアに集中できると思っていた時、一体のドラゴンの魔族が、落下中のサンダーバードに飛び乗ってきた。

 例の物って一体なんだ?
 言われればこいつらはどこか本気ではなかった。
 こちらを確実に殺すことよりも、時間を稼いでいた気がする。

「何を、企んでやがるんだ?」

「お前に教える必要があるか?」

 魔王はこちらを見てにやりと笑う。
 全て自分の手の平の上だとこちらを嘲笑う。

「グロリア、全て食え。そしてそいつを殺せ。そこの勇者さえ殺せば、我に勝てる者はこの世界に居なくなる」

 グロリアの蛇は、サンダーバードの背に残っている魔石を一斉に捕食し始める。
 そして更なる変化を始める。
 より巨大に、より異質な姿に変わる。
 二十ある腕に剣や斧が生え、蛇の足にはドラゴンが混ざる。
 肉体もより強靭に厚さが増し、唯一人を保っていた頭部もついに人ではなくなる。
 口が裂け、その口の中には剣の様な牙が乱雑に並び、目が全方位を見るために数を六に増やす。
 人としての面影が完全に無くなった元勇者は、国が震えるほどの雄たけびと共に殴りかかってくる。
 一撃でサンダーバードの体に穴を開ける。

「魔王様、連れてまいりました」

「確かにあの時の娘だ。それでは帰るか」

「はい、背にお乗りください」

 見えたのはヴァルグロがドラゴンの背中に乗った所、そしてヴァルグロの腕に抱かれるエルトア。
 その時に俺の中で全てが繋がった。
 森に向かう魔王の背を見つめながら、サンダーバードはグロリアの攻撃で地面に叩き落された。
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