百万回転生した勇者

柚木

文字の大きさ
上 下
28 / 57
魔族信仰 ハバリトス

正に廃墟って感じだな

しおりを挟む
「道案内の必要ってないよな」

 クルトへの道のりは大して辛いものではなかった。
 イクシル邸の収容所へ戻り、そこからクルトへ続く道を進むだけだった。

「いえいえ、お兄さんだけであの小屋まで戻れましたか?」

「そりゃそうだけどな」

 一人だったら確かに迷っていたかもしれない。
 そう考えると確かにありがたいのか。

「それにしてもノノさんはよくクルトの事知ってましたね」

「教会では有名です。魔族の滅ぼした町として」

「そうなんですか? 私は聞いたこと無かったですけど」

「ウィルさんが話してないんだろ。血生臭い話だし孫娘に進んで聞かせる奴はいないだろ」

 聖教にはそんな情報も入っているんだな。
 ウィルさんは隠してるみたいなことを言っていたけど、教会には筒抜けってことか。
 そうなるとメイサ辺りには伝わっているのかもな。
 まさか遭遇するなんてこともないだろうけど。

 収容所を抜けるとまたしても小屋の中だった。
 アグリールの道も考えると元々この小屋自体が、収容所から脱走しないかの監視小屋だったのかもしれない。
 小屋を抜けるとここも森の中に繋がっていた。
 この辺も方向をわからなくさせるための処置なのかもしれない。

「また森ですね」

「キックスはもともと森に囲まれてますからね。そう言った観点からも地下の施設を作ったんじゃないですか?」

 その辺りにヴェルモンドが目を付けたのか。
 森を通れば何かを運ぶのも人目を気にしないで済むってわけだ。

「こっちですね」

「ノノさんって凄いですね。こんな所私なら迷子になってしまいます」

「凄くないですよ。知っていれば誰でもわかることです。運搬に使われているなら誰が見てもわかる印はどこかにあります」

 ノノの叩いた木には確かにわかりやすく傷がつけられていた。
 運搬をするのが必ずしも慣れている人だけじゃないってことか。
 身寄りが無かったり逃亡犯だったりそんな連中を使うなら目印は必要ってことか。

「それでは行きましょうか」

 目印を見落とさないように周囲を探索しながら進む。
 流石はノノと言ったところで、目印の大半はノノが発見した。

「そろそろクルトが近いです。静かにしてくださいね」

 森を進むこと二日、目印を探しているとノノからそう言われた。
 確かに遠くから人の気配がする。
 その場所から少し離れ休憩をしながら今後の方針を話し合うことにした。

「この地図はアグリールで拝借したクルトの地図です」

「いつの間に盗ってきたんだよ」

「一度無くなっている町ですので念のためですよ」

 ノノの出した地図はそれなりに精巧なものだった。
 大型の建物は全て記載され、居住区や畑なんかもしっかりと記載されていた。

「居住区が何ヵ所かあります。このどこかにハバリトスの幹部がいると思います」

「これだけの数だとタクト様でも難しいですよね?」

「数はどうってことないけどな。こうも広い範囲だと流石に誰かは逃げるだろうな」

 その逃げるのが幹部ならそのまま地下にもぐってしまう可能性も否めない。
 そうなってしまえば手がかりを失ってしまう。

「なので私はここに身をひそめることを提案します」

 そう言ってノノが指さしたのは居住区から離れた何も書かれていない個所だった。

「ここには何があるんだ?」

「おそらく廃墟がここにあると思います。ハバリトスはこの町に身を隠していますから無駄に居住区を広げ外にバレないように生活していると思います。そんな人達が廃墟なんかを片づけるとは思いません」

「ノノさん凄いです。誰もいない廃墟に身を隠して様子を覗うってことですね」

「正解。そのまま誰にもバレないように姿を隠して準備を整えるんです」

「じゃあその作戦で行こう」

 そのまま森を迂回し、廃墟が立ち並ぶ区域に移動する。

「正に廃墟って感じだな」

 石で作られた家屋は触れると崩れるほどにボロボロで、少なくない数の建物が原型を留めていない。
 天井の無い家、崩れないのが不思議な半分だけの家、一階部分が柱のみになってしまった家。
 しっかりと建物として機能しているのは極わずかだ。

「あの建物ならいくらかマシじゃないですか?」

「そうだな。あれも崩れてるけど他のに比べればマシだな」

 他の家に比べ一階部分は無事な建物に身を隠すことが決定した。

「お兄さん先に入ってください。どんな危険があるかわからないので」

 ノノの言葉に違和感があった。
 別に普通の事でいつも俺が言い出していることで何も違和感はないはずなのに。

 不思議に思いながらドアを開け廃屋に一歩踏み出すとそこに床はなかった。
 本来床があるべきはずの場所に床はなく、どこまで続くかわからない穴だけが口を開け俺を待っていた。

「ここはダメだ。他の所に――」

「ほらフランちゃんも行って」

 辛うじて穴に落ちなかった俺が振り向くと、ノノは無感情にフランを突き落とす。
 突然背中を押されたフランは何の抵抗もなく俺の脇を抜け穴に落ちて行った。

「ほら、早くしないとフランちゃんが死んじゃいますよ。勇者様」

 殺意の宿る顔が笑顔に歪む。
 俺はフランの元に向かうために穴に向かって下りていく。

 フランの手を掴み、急いで上がらないといけない。
 それなのに穴の上からは建物らしき瓦礫が一斉に降り注ぐ。
 フランに怪我が無いようにかばいながら俺の体は地面にたたきつけられる。

 これくらいならまだ平気だ。
 多少の痛みはあるが、それでもまだ平気だ。
 しかし、急激な眠気に襲われる。
 これは、ダメだ……、眠気が、魔法――。
 俺の意識はすぐに眠りの魔法に飲み込まれた。



 俺が目を覚ますと鎖につながれた状態で牢に閉じ込められていた。
 埃臭い布切れを一枚だけ着ているだけで、装備は全部外されているらしい。
 このくらいの拘束ならすぐに壊せるな。
 ここはどこだ?

「タクト・キサラギ目が覚めたみたいだね」

 牢の前に座っていたのはノノだった。
 しかし目の前のノノは笑顔ではなく、面倒くさそうな仏頂面だ。

「これはどういうことだよ」

「お察しの通りだよ。私に騙されてあんたはここで囚われている。要は邪魔だから大人しくしててねってこと」

「俺がこのくらいの牢を抜けられないと思ってるのか?」

「うん。フランちゃんは私の手の中だから。もしあんたが逃げたらフランちゃんは死ぬよ。実験に使われるか慰み者になるかはわからないけど」

 俺を閉じ込めるために物理的ではなく精神的に動きを封じてきたのか。

「わかった。大人しくしてればいいんだな」

「そうしていれば私以外にフランちゃんは触れない。つまり死なないし汚されない」

 どうすればいい?
 フランを助けてここから逃げるにはどうしたらいいんだ?

「それじゃあ、せいぜい頑張って」

 ノノは欠伸をしながら俺の前から姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...