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魔族の潜む街
これは魔族信仰ハバリトスの印です。
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メイサ達が今回の事件の後始末をしている間、俺達はエストワ邸に侵入していた。
「中は壊れてますけど綺麗で安心しました。派手な魔法もありましたしもっとこう悲惨な物かと思ってました」
邸宅の中に入るとフランがそう言った。
今回はここに居たのは俺とエストワとヴェルモンドだけだったため酷いことにはなっていない。
結局激しい出血をしたのもエストワだけだったしクルトの悲劇みたいな惨状にはなっていない。
「それでなんでこんなところに来たんですか?」
「何かしら痕跡を探したいんだよ。他の魔族に関することでも、実験していた資料とかそういうのが発見出来たら今後の方針にもなるしな」
できれば実験の資料とかは見たくないが、あればそれがどこに運ばれるはずだったかがわかるはずだ。
広い屋敷だし本来なら分かれて捜索したいところだが、何が起るかわからないため効率が悪くても一緒に行動する。
一番怪しいのはヴェルモンドと戦った奥の部屋だ。
「一体何を打てばこんな穴が開くんでしょうか……」
天井から地下にかけて貫通した大穴を見てフランは驚く。
魔法を使える身としてどれほどの魔力を使うのか気にしているのだろう。
フランとは逆に魔法に疎いノノは俺ならやりかねないと大して気に留めてもいないらしい。
「【レイ】っていう光の魔法だ、フランもすぐにこのくらいなら使えるようになるよ」
「覚えておきますけど、私に使えるのかな……」
「今のレベルであの段階なんだし問題ないだろ」
椅子やベッドの一部は戦闘で半分ほど溶けてしまっているが、近くにある机や棚は少し焦げている程度なのでその辺りを探してみる。
「お兄さん、少しいいですか? このマークが何かわかりますか?」
ノノが持ってきたのは綺麗な地図だった。
この国の地図らしいが、四か所に×印が書かれている。
「普通に考えれば占領した町の目印だよな」
「やっぱりそうですよね。この印がある場所はアグリールです、そしてここが昔滅んだクルト、それと隣国との防衛線の町トルレリーク、そしてこの中央にあるのは王都ヨルセウスです」
「ってことは占拠した町でじゃなく、これから狙う町の目印ってことか」
メイサ達の対応を見ると王都は無事。
つまりこの地図に書かれている印が、これから狙う地点だと考えれば順当だろう。
だがもしもこの印の意味が占領した場所だと考えればこれは最悪だ。
すでにこの国の中枢に魔族がはびこっている可能性がある。
「メイサの誘いを断ったのは失敗だったな」
「ごめんなさい、私があそこまで言わなければやっぱり入ると言えたんですけど……」
あのまま受けていれば王都の内部に侵入で来ていたが、それはあくまで結果論でしかない。
あそこで断るのは俺の目的からすると間違ってはいない。
「ノノの見立てだともう一度俺が頭を下げれば入れそうか?」
もしそれで大丈夫なら頭を下げて内部に潜り込みたい。
「無理ですね。あのタイプは変に下手に出ると無茶な要求をしてきます。その結果中に入れても自由に動けない可能性があります」
「それなら仕方ないな。別の方法で忍び込むしかないか」
「深刻な顔をしてますけどどうかしましたか?」
会話に入らずに探していてくれていたフランに事情を説明する。
「それなら先にクルトに向かいませんか?」
「何かあるのか?」
「この束だけ汚れが無かったので見てみたらクルトの名前が出てくるんです」
フランから渡された紙の上部には大きな紋章にクルトの名前、それと複数のアイドウロンの種族名が書かれていた。
アイドウロンの隣にあるのは数だな。
「これは注文書みたいだな。それでこの紋章はなんの印だ? この町の紋章か?」
「私も知りません。聖教の紋章にも見えますけど」
「フランちゃんこれは全然違います。これは魔族信仰ハバリトスの印です。神の地位を突き落とす意味を込めて聖教モラトリアの紋章を逆転させているんです。だから意味が全然違います」
「ごめん宗教には疎くて」
珍しくノノは怒りを見せた。
フランの感じから敬虔な信者というのは珍しいらしい。
孤児だったらしいから教会で育てられていたのかもしれないな。
「お兄さん、私もクルトに向かうのは賛成です。ハバリトスは確実に潰さないといけませんから」
「わかった。そこまで言うなら次の目的地はクルトだ」
ノノの目は殺意に満ちていた。
その意味を深く考えることなく、俺達は捜索もそこそこにエストワを後にした。
騒がしい場所を避けながら町の中をすすみながら気になっていたことをノノに質問することにした。
「魔族信仰ってのは結局なんなんだ?」
「簡単に言えば魔族の異常な強さを神の御使いだと信じている人達のことです」
よくある邪教ってことか。
神が人間に罰を与えるための存在だと信じて、魔王を神として崇めるってことか。
どこの世界にも規模はバラバラだが存在はしていた。
でもその存在が早い段階で知れてよかった。
魔王を信仰している宗教だけに、上層部は魔族が仕切っていたり魔族とつながりを持っている連中も多い。
そこで何体か魔族の情報を得られれば良し、ダメでもハバリトスの本拠地を狙える。
「ノノさんはモラトリアの信者なんだね」
「えっ、うん。孤児の私を拾ってくれたのが教会の孤児院だから」
「それにしてもさっきの迫力には驚いた。ノノもあんな顔するんだな」
いつもは笑顔のノノなのにハバリトスの話をした時には鬼神の様な形相をしていた。
「そんなに怖い顔してました?」
「ああ、正に鬼の――、って痛い痛いから」
「タクト様って本当にデリカシーがありませんね。こんな可愛い女の子に何を言うんですか」
失言だったらしくフランからわき腹を思いっきりつねられてしまう。
「悪かったよ。できればハバリトスの事をもう少し教えてくれないか?」
俺が知っている限りだと魔王の名前はヴァルグロだ。
どの世界でも魔王の名前は変わらない。
邪教の名前がヴァルグロじゃないならハバリトスというのは別の魔族ということになる。
それも宗教の名前になるほどに強力な魔族だ。
「ハバリトスの目的は一言で言うなら全生物の魔族化です」
†
ノノからハバリトスの目的を聞いてみると、荒唐無稽と言っていいほどの理想論だった。
邪教ハバリトスが作られたのは数千年前、聖教モラトリアが作られた時期とほぼ同じらしい。
その時代の魔族は一体のみでその名前がハバリトスだった。
ハバリトスは大人しい存在だったらしく、慎ましく質素な生き方をしていたらしい。
それをしった当時の人々はその生き方を真似し、その教えを教典にしていたのだという。
宗教としてのハバリトスはモラトリアの派閥の一つとして成長していく。
数百年の時を経てなおも実在しているハバリトスの姿を見て当時の人々はハバリトスを神として崇め始める。
強大な力、永遠の命人類を超越した存在に思いを募らせる人々は魔族への変異を進化だと思い込む。
その頃になると初期の慎ましく質素という思想は消え失せ、魔族への憧れだけが表面化してくる。
そして現在から数百年前、ハバリトスは人間のモンスター化に成功する。
何万何億という死体を積み重ねた末の魔族は邪教ハバリトスの希望となった。
その事実を知った聖教はハバリトスとの戦争に踏み切った。
結果は聖教の勝利。
多数の犠牲を出しながら魔族ハバリトスの討伐に成功した。
その負けを機にハバリトスは地下深くに場所を移したのだという。
「――そんなわけで今いるハバリトスは最初の教えから大きく外れ全生物を魔族にするために暗躍しているんです」
「そうなんだ……」
長い説明は終わったらしい。
実はすでに町中を抜け、昨日寝ていた場所に戻ってきている。
更にいえばテントの片づけも終了し今すぐにでも出発できる。
まさかハバリトスの成り立ちから説明するとは思っていなかった。
最後の事件だけを教えてくれればそれでよかったのに……。
「二人ともちゃんと聞いてましたか? 特にお兄さんはこれから戦う相手の事なんですよ?」
「聞いてたから平気だ」
一緒に聞いていたフランはうつらうつらと頭がカクカクしているけど。
「それじゃあ行きましょうか。クルトへの道は私が案内しますから」
寝ているフランを起こし俺達はアグリールを後にした。
「中は壊れてますけど綺麗で安心しました。派手な魔法もありましたしもっとこう悲惨な物かと思ってました」
邸宅の中に入るとフランがそう言った。
今回はここに居たのは俺とエストワとヴェルモンドだけだったため酷いことにはなっていない。
結局激しい出血をしたのもエストワだけだったしクルトの悲劇みたいな惨状にはなっていない。
「それでなんでこんなところに来たんですか?」
「何かしら痕跡を探したいんだよ。他の魔族に関することでも、実験していた資料とかそういうのが発見出来たら今後の方針にもなるしな」
できれば実験の資料とかは見たくないが、あればそれがどこに運ばれるはずだったかがわかるはずだ。
広い屋敷だし本来なら分かれて捜索したいところだが、何が起るかわからないため効率が悪くても一緒に行動する。
一番怪しいのはヴェルモンドと戦った奥の部屋だ。
「一体何を打てばこんな穴が開くんでしょうか……」
天井から地下にかけて貫通した大穴を見てフランは驚く。
魔法を使える身としてどれほどの魔力を使うのか気にしているのだろう。
フランとは逆に魔法に疎いノノは俺ならやりかねないと大して気に留めてもいないらしい。
「【レイ】っていう光の魔法だ、フランもすぐにこのくらいなら使えるようになるよ」
「覚えておきますけど、私に使えるのかな……」
「今のレベルであの段階なんだし問題ないだろ」
椅子やベッドの一部は戦闘で半分ほど溶けてしまっているが、近くにある机や棚は少し焦げている程度なのでその辺りを探してみる。
「お兄さん、少しいいですか? このマークが何かわかりますか?」
ノノが持ってきたのは綺麗な地図だった。
この国の地図らしいが、四か所に×印が書かれている。
「普通に考えれば占領した町の目印だよな」
「やっぱりそうですよね。この印がある場所はアグリールです、そしてここが昔滅んだクルト、それと隣国との防衛線の町トルレリーク、そしてこの中央にあるのは王都ヨルセウスです」
「ってことは占拠した町でじゃなく、これから狙う町の目印ってことか」
メイサ達の対応を見ると王都は無事。
つまりこの地図に書かれている印が、これから狙う地点だと考えれば順当だろう。
だがもしもこの印の意味が占領した場所だと考えればこれは最悪だ。
すでにこの国の中枢に魔族がはびこっている可能性がある。
「メイサの誘いを断ったのは失敗だったな」
「ごめんなさい、私があそこまで言わなければやっぱり入ると言えたんですけど……」
あのまま受けていれば王都の内部に侵入で来ていたが、それはあくまで結果論でしかない。
あそこで断るのは俺の目的からすると間違ってはいない。
「ノノの見立てだともう一度俺が頭を下げれば入れそうか?」
もしそれで大丈夫なら頭を下げて内部に潜り込みたい。
「無理ですね。あのタイプは変に下手に出ると無茶な要求をしてきます。その結果中に入れても自由に動けない可能性があります」
「それなら仕方ないな。別の方法で忍び込むしかないか」
「深刻な顔をしてますけどどうかしましたか?」
会話に入らずに探していてくれていたフランに事情を説明する。
「それなら先にクルトに向かいませんか?」
「何かあるのか?」
「この束だけ汚れが無かったので見てみたらクルトの名前が出てくるんです」
フランから渡された紙の上部には大きな紋章にクルトの名前、それと複数のアイドウロンの種族名が書かれていた。
アイドウロンの隣にあるのは数だな。
「これは注文書みたいだな。それでこの紋章はなんの印だ? この町の紋章か?」
「私も知りません。聖教の紋章にも見えますけど」
「フランちゃんこれは全然違います。これは魔族信仰ハバリトスの印です。神の地位を突き落とす意味を込めて聖教モラトリアの紋章を逆転させているんです。だから意味が全然違います」
「ごめん宗教には疎くて」
珍しくノノは怒りを見せた。
フランの感じから敬虔な信者というのは珍しいらしい。
孤児だったらしいから教会で育てられていたのかもしれないな。
「お兄さん、私もクルトに向かうのは賛成です。ハバリトスは確実に潰さないといけませんから」
「わかった。そこまで言うなら次の目的地はクルトだ」
ノノの目は殺意に満ちていた。
その意味を深く考えることなく、俺達は捜索もそこそこにエストワを後にした。
騒がしい場所を避けながら町の中をすすみながら気になっていたことをノノに質問することにした。
「魔族信仰ってのは結局なんなんだ?」
「簡単に言えば魔族の異常な強さを神の御使いだと信じている人達のことです」
よくある邪教ってことか。
神が人間に罰を与えるための存在だと信じて、魔王を神として崇めるってことか。
どこの世界にも規模はバラバラだが存在はしていた。
でもその存在が早い段階で知れてよかった。
魔王を信仰している宗教だけに、上層部は魔族が仕切っていたり魔族とつながりを持っている連中も多い。
そこで何体か魔族の情報を得られれば良し、ダメでもハバリトスの本拠地を狙える。
「ノノさんはモラトリアの信者なんだね」
「えっ、うん。孤児の私を拾ってくれたのが教会の孤児院だから」
「それにしてもさっきの迫力には驚いた。ノノもあんな顔するんだな」
いつもは笑顔のノノなのにハバリトスの話をした時には鬼神の様な形相をしていた。
「そんなに怖い顔してました?」
「ああ、正に鬼の――、って痛い痛いから」
「タクト様って本当にデリカシーがありませんね。こんな可愛い女の子に何を言うんですか」
失言だったらしくフランからわき腹を思いっきりつねられてしまう。
「悪かったよ。できればハバリトスの事をもう少し教えてくれないか?」
俺が知っている限りだと魔王の名前はヴァルグロだ。
どの世界でも魔王の名前は変わらない。
邪教の名前がヴァルグロじゃないならハバリトスというのは別の魔族ということになる。
それも宗教の名前になるほどに強力な魔族だ。
「ハバリトスの目的は一言で言うなら全生物の魔族化です」
†
ノノからハバリトスの目的を聞いてみると、荒唐無稽と言っていいほどの理想論だった。
邪教ハバリトスが作られたのは数千年前、聖教モラトリアが作られた時期とほぼ同じらしい。
その時代の魔族は一体のみでその名前がハバリトスだった。
ハバリトスは大人しい存在だったらしく、慎ましく質素な生き方をしていたらしい。
それをしった当時の人々はその生き方を真似し、その教えを教典にしていたのだという。
宗教としてのハバリトスはモラトリアの派閥の一つとして成長していく。
数百年の時を経てなおも実在しているハバリトスの姿を見て当時の人々はハバリトスを神として崇め始める。
強大な力、永遠の命人類を超越した存在に思いを募らせる人々は魔族への変異を進化だと思い込む。
その頃になると初期の慎ましく質素という思想は消え失せ、魔族への憧れだけが表面化してくる。
そして現在から数百年前、ハバリトスは人間のモンスター化に成功する。
何万何億という死体を積み重ねた末の魔族は邪教ハバリトスの希望となった。
その事実を知った聖教はハバリトスとの戦争に踏み切った。
結果は聖教の勝利。
多数の犠牲を出しながら魔族ハバリトスの討伐に成功した。
その負けを機にハバリトスは地下深くに場所を移したのだという。
「――そんなわけで今いるハバリトスは最初の教えから大きく外れ全生物を魔族にするために暗躍しているんです」
「そうなんだ……」
長い説明は終わったらしい。
実はすでに町中を抜け、昨日寝ていた場所に戻ってきている。
更にいえばテントの片づけも終了し今すぐにでも出発できる。
まさかハバリトスの成り立ちから説明するとは思っていなかった。
最後の事件だけを教えてくれればそれでよかったのに……。
「二人ともちゃんと聞いてましたか? 特にお兄さんはこれから戦う相手の事なんですよ?」
「聞いてたから平気だ」
一緒に聞いていたフランはうつらうつらと頭がカクカクしているけど。
「それじゃあ行きましょうか。クルトへの道は私が案内しますから」
寝ているフランを起こし俺達はアグリールを後にした。
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