百万回転生した勇者

柚木

文字の大きさ
上 下
24 / 57
魔族の潜む街

よくここまで来れましたね

しおりを挟む
 エストワ邸に到着するが、やはり門番も見回りも誰もいない。
 さっきから騒いでるし俺がここにいるのもバレているはずなのに、見張りもいないってことはこの先に罠が待っているのか完全に舐められているってことか。
 堂々と門から入るが罠も無し。
 どうやら人間だからと完全に舐められているらしい。

 そのまま真直ぐ館に入り館の捜索を始める。

「完全な無人なのか? 【スキャン】」

 俺の足元から魔法陣が広がり、館の内部を全て確認する。
 二階にある応接室の奥から人型の何かを感知した。
 おそらくヴェルモンドとエストワだろう。
 そしてそれ以外に屋敷の中にいる人物は誰もいない。

 魔法を使い二人が移動していないかを確認しながら二人のいる方に歩いていく。
 もう二人のいる部屋の扉が見えた時、その扉が盛大に破壊された。
 そして破壊される扉の向こうから何かが猛烈な速度で近づいてきた。

「邪魔者は殺す」

 突進してくるのはエストワだった。
 武器も持たないエストワを取り押さえようと身構えるが、エストワは自分の腕を壁にめり込ませ力任せに振り切る。
 壁を石礫いしつぶてにしての攻撃に威力はないが、目くらましの効果は十分で一瞬で俺の目の前に来ていた。

 目の前で俺を覗くエストワの目は換金所の男と同じで虚ろだ。
 それに壁を抉る力に体は耐えられないらしく、腕はボロボロになっている。
 完全に操られてるな。

 自分の身を顧みない怪力は壁から柱を抜き、武器にして殴りかかってくる。
 このままだとこいつの体が壊れてしまう。

「【キャプチャー】」

 魔法を唱えエストワを捕縛する。
 しかし捕縛されているはずのエストワはその状態でも攻撃を仕掛けてくる。
 体を反らし自分の体を武器にして俺に攻撃を続ける。
 俺が避ければそれだけエストワの体は床や壁に打ち付けられる。

 このままでは死んでしまうと俺はエストワの攻撃を全て受け止める。

「【ファイアボール】」

 奥の部屋から魔法が通路を塞ぐほどの火の球が放たれた。
 俺がエストワを殺さないと察し、エストワごと一緒に焼き払うつもりか。

「【ウォーターボール」】

 エストワが燃えてしまわないように水の魔法でエストワを捕らえる。
 これなら暴れても自分の体を傷つけることはない。

 俺はすぐさま駆け出し、相手の攻撃を剣で切り裂き奥の部屋に向かう。

「よくここまで来れましたね。流石グリーンスライムを倒した男だ」

 ヴェルモンドは手の平で仮面を弄りながら椅子に座っていた。
 すでに魔法は放てる状態で待機しており、数十の魔法陣で部屋は埋まっていた。

「お前はイクシル邸の地下で何を作っていた?」

「生物の繁殖をさせました。人間もドラゴンも私が無理矢理に繁殖させ、魔族になる生物を作っていました。過度のストレスを与え、無意味に暴力を振るったり――」

「もういいしゃべるな。今からお前を殺す」

 外道を平気で行うヴェルモンドに怒りを通り越して殺意を覚えた。
 魔族の中でも特別いかれているこいつを放置しておくなんてできやしない。

「この状況でそこまで言えるなんて大したものだ」

 ヴェルモンドの意思に魔法が一斉に発動する。
 魔法陣からは水の槍や、炎の玉、雷の矢が俺に向かって一瞬で発動する。
 俺に向けられた魔法を全て剣で打ち落とす。

「まさか一つも当たらないとは、ただの人間がどれだけの力を持っているんだ?」

「これくらいだよ【レイ】」

 魔法を唱えると夜の世界が眩い光に照らされ昼の様な明るさになる。
 そしてその閃光が放つ熱はこの館の天井を一瞬で溶かし、ヴェルモンドに降り注ぐ。

「驚いたよ……。スライムの核が無ければ死んでいた……、ここまで恐怖を感じたのは久しぶりです……」

 ヴェルモンドは今の攻撃を防いでいた。
 手には半分に切られているスライムの核を握られていた。
 しかし半分になっている核では体全てを守り切れないようで、体の半分は黒く焦げていた。

 あのスライムの核は換金所で俺達が換金した核だろう。
 あそこで手に入れた素材は全てヴェルモンドの手に渡っていたわけだ。

「それなら今度は叩き切ってやるよ」

「本当に切り殺していいんですか?」

 ボロボロの体でヴェルモンドは笑みを作る。
 何か逆転する手があるのか?
 どっちみち、首をはねればそれで終わりだ。
 俺は剣をヴェルモンドの首元目掛け力一杯に振る。

「私を殺せば、二人の少女が大変な目に遭いますよ」

 その言葉に俺の手は止まる。
 こいつなんでノノだけじゃなくフランの事まで知ってるんだ?

「私が操り人形にしている連中が見ている景色を見れるんですよ」

「それがどうしたんだ?」

「今あなたがここに居る間にこの町の犯罪者を全て彼女たちの元にいます」

 嫌な考えが頭をよぎる。

「あっけなく捕獲しています。服も装備も全て取り上げられ裸になっている可憐な少女二人を前に犯罪者が何もされずに済むと思いますか?」

「この下種野郎……」

「それでいいなら殺して洗脳を解除すればいい。あなたが駆けつけたころには面白いことになっていますよ。今私を殺せば少女達は尊厳もなく玩具の様に使われ命も無くなりますがよろしいですか?」

 俺はヴェルモンドを放置し宿に向けて走り出す。

「そう、それでこそ人間です」

 何が守るから安心しろだよ。
 結局二人を守れてなんていないじゃないか。
 怖い目に合わせ、危険な目に合わせただけだ。
 何が勇者だ何が最強だ。
 そんなものが何の役にも立ちやしない。

 全力で町をかけ宿屋に着くと俺は自分の目を疑った。
 宿屋の前には町の人達が転がっており、宿の屋根は消え周辺の家も瓦礫がれき同然に破壊されていた。

「フラン、ノノどこだ!?」

 俺がそう声をかけると、壊れた宿屋から顔が二つ覗いていた。

「タクト様! ご無事でしたか」

「お兄さんが無事に戻ってきてくれて嬉しいです!」

 急いで二階まで向かうと、二人には傷一つないらしい。
 多少汚れているが、それはこの崩壊した埃だろう。

「二人とも無事か? 何かされたりしてないか?」

「少し危なかったですけど大丈夫です」

「大きな棍棒を担いだメイサって人が助けてくれましたので」

 さっきのあいつか。
 てっきり帰ったと思っていたが二人を助けに来てくれたのか。
 ってことはヴェルモンドにまんまと騙されたわけか。

 逃がしたことは残念だが、二人が無事でよかった。
 そう思った時地面が小さく揺れた。
 そして縛られている町の人達は意識を取り戻したらしく夜のはずなのに周囲が騒がしくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜

マグローK
ファンタジー
「リストーマ。オマエは追放だ!」  天職がジョブという形で天から才能が授けられる世界。  主人公であるリストーマは、ジョブが剣聖でないとわかった瞬間、父親から追放を言い渡されてしまう。  さらには、実の子じゃなかった、万に一つのギャンブルだった、剣聖として人並みの剣の才すらないゴミなどという言葉をぶつけられた挙句、人がほとんど足を踏み入れることのできていないダンジョンに捨てられてしまう。  誰からも求められず、誰にも認められず、才能すらないと言われながらも、必死で生き残ろうとする中で、リストーマはジョブ【配信者】としての力に覚醒する。  そして、全世界の視界を上書きし、ダンジョンの魔獣を撃退した。  その結果、リストーマは、真っ先にヴァレンティ王国のセスティーナ姫に探知され、拾われ、神や悪魔、魔王の娘たちも、リストーマの存在を探るため、直々にやってくる 「僕は、姫のための配信者になります」  しかし、リストーマは、セスティーナ姫に拾われた恩から、姫のため、未知なるダンジョンの様子を配信することを決意する。  これは、家族と信じた者たちに捨てられ自信をなくした少年が、周囲の温かさを頼りに少しずつ自信を得ていく物語。 この小説は他サイトでも投稿しています。

処理中です...