百万回転生した勇者

柚木

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魔族の潜む街

目を覚めさせてやってくれ

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「ガーフィールお前は家族を何だと思っているんだ? フランのあの悲しそうな顔を見て何も思いはしないのか?」

 突然現れたウィルさんにガーフィールは一瞬たじろぐが、すぐに噛みついてくる。

「俺はイクシルの事を思ってやっただけだ。父さんの様に能天気に生きて一族を反映させる気もない腰抜けとは違うんだよ」

「おいおいそれは違うだろ。ウィルさんは地盤を固めてた、お前が何をしてもイクシルの家が潰れないようにな」

 夜を待つ間色々話を聞いた。
 懇意こんいにしている貴族に声をかけバックアップをして、親しい連中と交友を深め、息子のために地盤を固めていた。
 その結果ガーフィールがどれだけやらかしてもイクシル家が傾くことはなかった。

「お前みたいな部外者が知った口を利くな! 何の役にも立たないお前みたいなのに俺の苦悩がわかるはずないだろ! こんな何もない所の統治とうちをさせられ、他の貴族から下に見られる俺の苦しさがわかるはずないだろ!」

 やっぱりこいつは何もわかっていない。
 どうしようもなく我がままで、利己的りこてきな最低の理由だ。
 俺が言葉でどれだけ言っても伝わることはないのだろう。

「その結果がお裏の連中と関りを持つことか? ワシは悲しくて仕方ないよ利己的に自分の欲求を満たすことしか考えていないバカ息子でな。だからワシはタクトくんに頼んだんだ、バカ息子の目を覚めさせてやってくれとな」

「ふざけるなよ? 俺がどれだけの力を発展のために使ったと思ってるんだ! 今ではお前みたいな爺が治めていた時よりもこの家は栄えているじゃないか」

 いまだに自分が正しいと信じているガーフィールは懐から赤い水晶を取り出す。

「俺が手に入れた力を見せてやるよ。爺恐れおののけばいいぜ、俺ががどれだけ強くなったのかをなぁ!」

 赤い水晶の中には小さな赤い鱗のトカゲの様な生物が閉じ込められている。
 召喚結晶しょうかんけっしょうか。
 呼び出せるのはドラゴン。色からしてファイアドラゴンってところか。

 召喚結晶は生物を結晶化し隷属れいぞくさせることで意のままに操ることができる。
 魔王軍がアイドウロンを僕にするためによく使う魔法だ。

 裏って魔王軍の関係者か。
 ガーフィールに召喚結晶を渡した奴にたどり着けば何か情報はあるかもしれないな。

「出て来いファイアドラゴン! 俺の邪魔をする奴らを全員殺してしまえ」

 結晶に派手なヒビが入り結晶が粉々に砕けると、中からは五メートルほどのファイアドラゴンが生まれた。
 赤い鱗は高温を持ち、背中の翼を一振りすれば火の嵐が生まれ、口から吐く炎は鉄をも溶かす。
 過去に幾度となく倒したアイドウロンだ。

「タクトくんすまない。ワシがガーフィールを追い込みすぎたせいでこんなことに……」

「大丈夫だよおじいちゃん。タクト様は強いから」

 フランは初めて見たドラゴンに怯えるウィルさんと気絶しているルードを連れて家の外に出て行った。

「あんたも外に出てないと巻き添え食うぞ」

 突然の出来事に固まっていたフランの母親は、俺の言葉を素直に聞き不格好に家の外に走り出して行った。

「英雄気取りで逃がしたところでお前の次はあいつらだぞ。少しは腕が立つようだがファイアドラゴンに勝てると思っているのか?」

 ファイアドラゴンが口を開くと一気に周囲の気温が上がる。
 開いた口の中心に炎が渦を巻き赤から青へ炎の色が変わっていく。
 ファイアドラゴンの最大の技【業火】ヘルファイア石をも溶かすほどの熱を放出する破壊力を追求した一撃が俺に向けて放たれる。

「【ウォーターカーレント】」

 魔法陣から生まれた水流が【業火】ヘルファイアを飲み込み一瞬で沈下する。
 今の一撃でファイアドラゴンの動きが止まる。
 自分よりも上位の存在だとファイアドラゴンは気が付いたらしいが、ガーフィールは気が付いていない。

「何をしている早くやれ、何をしているお前を買うのにどれだけの金を使ったと――」

 次の指示が出る前にファイアドラゴンは俺に殴られ、建物を揺らしながら壁にめり込んだ。
 ガーフィールの目には目の前から突然姿を消したように見えたのだろう、辺りをきょろきょろとして壁に埋まるドラゴンの姿にようやく力の差を理解した。

「待て、助けてくれ、フランは好きに持って行くといい。そ、そうか金が欲しいのかいくらだ好きな額を言え、好きなだけくれてやる」

 俺が近づくと同じ分だけ距離を取る。
 やがてガーフィールは壁際に追い詰められる。

「俺を殺すのか? 貴族を殺したら王都の連中が黙っていないぞ。俺は王都とも関係を結んでいるんだから」

 本当に救いようがないな。
 最初から最後まで誰かの庇護下ひごかに居ようとする。
 そのくせ自分が一番偉いと思い込んでいる。

「殺しはしない。お前みたいなのでもウィルさんの息子でフランの父親だ」

「そうだ、二人が悲しむぞだから助けてくれ」

 情けなく顔を汚すガーフィールは助かすために殺そうとしていたフランとウィルさんを使い始める。

「歯食いしばれ、この一発で許してやるからよ」

 俺は拳を振り下ろしガーフィールの顔を殴り飛ばす。
 断末魔だんまつまを上げることなく殴られたガーフィールは、階段に受け止められるまで床を跳ね力なく気絶した。
 死ぬほどではないだろうが、少しくらい顔の形は変わってしまうかもしれない。

「さて、あのドラゴンはどうしたらいいかな。恨みはないけど、生かしておくのはまずいよな」

 可哀想だと思うが、ガーフィールに隷属されている以上このままにしたら何をしでかすかわからない。
 仕方なく、俺はファイアドラゴンの命を奪った。

「タクトくんありがとう。バカ息子の件はこちらでなんとかするから気にしないでくれ」

「はい。お願いします」

 気絶したガーフィールを縛り終えるとウィルさんにそう言われ俺は胸を撫でおろす。
 変に貴族と喧嘩するのはよくないからな。
 何度かお尋ね者の勇者になったことがあるけど、あれはかったるかった。
 どこの町に行っても門前払もんぜんばらいで宿屋にも泊まれないから空き家で眠って、盗賊から武器や防具を奪って旅をしていた。

「フラン、いつでも帰っておいで。名前も捨てる必要はないんだ。ここはお前の家なんだから」

「ありがとうおじいちゃん」

 笑ってやり取りをする二人は本当に仲が良さそうで安心した。
 ちゃんとこの家にもフランの味方はいた。
 それだけでもわかれば十分だろう。

「フランそれじゃあ行こうか。旅の準備をしないといけないしな」

「旅に出るんですか?」

 きょとんと首を傾げるフランに俺は思い出した。
 そう言えば旅に出るって話をフランにはしてなかった。
 ノノとウィルさんには話していたからフランにも話した気になっていた。

「とりあえず俺の家に戻ってから話をしようか」

 結局カッコよく決まらないまま、俺とフランは家に戻った。
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