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魔族の潜む街
一つ賭けをしようぜ
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俺はフランを壁際に居るように指示を出し周りに見えていないのをいいことに、一族全員を見下ろすため階段の手摺に座り自分にかかる魔法だけを解除した。
「イクシル家の皆さん初めまして。タクト・キサラギと言います」
俺が声をかけると予定通り三人が一斉にこちらを向く。
突然の登場に男二人がこちらを睨み、母親は不安げな目でこちらを見上げている。
「お前はフランを唆している下民だな。どうやって侵入したか知らんが、フランをどこに隠したんだ?」
「隠したなんてそんなはずないだろ、フランが勝手に逃げ出したんじゃないの? こんなつまんな所に押し込められたらネズミだって逃げたくなるさ」
「そんなわけないだろう。あれは逃げないさ、そういう風にしつけたんだからな」
さも当然の様にそう言い切る男は吐き気がするほど胸糞悪い。
フランが逃げないように翼を折り鎖で繋ぐ。
クソみたいな絆もあったもんだ。
「さあ返せ。あれは嫁ぎ先が決まっているんだ。お前みたいな何の役にも立たないゴミの様な男の側に置いていては価値が下がる」
あくまでフランは自分の私腹を肥やすための道具なわけか。
他の二人もそれが当然だと思っているわけか。
こんな家族に育てられたらフランみたいないい子はあんな風になってしまうだろう。
「父さんああいう輩は口で言うだけ無駄だ。力づくで口を開かせないと調子に乗るだけだよ」
フランの兄ルードはよほど腕に自信があるのか、脇にある剣抜き剣先をこちらに向け父親と同じオールバックの髪型を整える。
流石フランの兄だ。
剣をこちらに向ける姿は絵になるが、目に宿る傲慢さが品位を落としている。
「その意見には賛成だよ。一つ賭けをしようぜお坊ちゃま」
「挑発しているのか? その程度で僕の心を乱すつもりか? だとしたら浅はかだと――」
「挑発なわけないだろ。世間知らずだからお坊ちゃまだって事実を言ったのにそれだけで挑発扱いされるのは心外だな」
効いてないって面しても、瞼がそんなに痙攣してたら嘘だってバレバレなんだよな。
別にこっちは本当に挑発しているつもりはない。
ただ賭けに乗ってくれるだけでいいんだけど。
「世間知らずはどっちかな。学園主席、剣技、魔法、モンスターの討伐数も上位の俺に勝てるつもりでいるのか?」
この周辺の低レベルの雑魚モンスターを狩っただけでそれだけ威張れるなら大したもんだ。
ウィルさんの話だとレベルは26だっけか。
この前のポイズンドラゴンの半分以下のレベルなのにな。
「そんなに凄いなら負けちゃうかもしれないなぁ。それでそんなことより賭けは乗ってくれるの?」
「受けてやるよ。お前が勝てばフランを連れて行くってことでいいんだよな。僕が勝ったら何を差し出すつもりだ?」
「殺すなり実験するなりサンドバッグにするでも好きにしてくれていいぜ」
「わかった受けて立ってやるよ。行くぞ!」
その掛け声とともに二人の男が俺の両腕を押さえつける。
一騎打ち風に見せてこの建物の中にいる全員か。
そうなる様にわざとルールのことは言わなかったんだが、本当にそう来るとはわかりやすくて笑えて来るな。
「そのままお前を串刺しにしてやるよ」
俺が動けないと思い真直ぐに向かってくるルードに向かい、俺は両腕にしがみついている二人を投げつけた。
「なっ!? ぐはっ……」
まさかの攻撃だったらしく、ルードに俺の投げた二人が激突しルードは床に倒れる。
それに動じていない他の警備員が俺を取り押さえようと動くが全て躱し気絶させる。
「できれば一騎打ちがいいんだが、貴族はまともに決闘もできないらしいな」
「ほざけ底辺の人間が!」
効いていないフリも限界らしく、整った顔が真っ赤になり青筋を立て怒り狂う。
「挑発って案外面白いな。そこまで顔が変わるならもっと挑発してやろうか」
俺は宣言通り手すりから降り、ゆっくりとルードの元に歩いていく。
飛びかかってくる護衛を一人ずつ気絶させ、いまだに膝を着くルードを見下ろす。
「下民如きが僕を見下すな!」
「なら立ってみろよ。はっきり言うがお前みたいなのよりもフランの方が強いぞ」
「ふざけるなああぁぁああ!!」
ルードは怒りに任せ剣を振り続けるが、そんな攻撃が届くはずもない。
俺は止まったような動きのルードの手から剣を奪い取り天井に突き刺す。
ルードには一瞬の出来事のようで、ここまで簡単に剣を取られたことが信じられず目を丸くしている。
「剣はもう使わないのか? 学園主席ってこの程度なのか?」
「なら魔法を見せてやるよ【ファイアボール】」
空中に十ほどの魔法陣が生まれ、同数の火球が作られていく。
これくらいの魔法なら確かにMPの消費も多いし、優秀な部類にはいるだろう。
だがそれもそのレベルにしてはという話だ。
「お前は魔法を使えないんだったな。【ウィンド】如きしか使えないんだろ?」
ウォーターエレメンタルの時の話か、そう言えばそういう風に話してたんだっけか。
しかし【ウィンド】如きって結構使い勝手がいいんだけどな単純で応用が利く優秀な魔法だ。
「死ね。貴族を馬鹿にした報いを受けてもらおうか」
「【ウィンド】」
「はっ?」
どれくらい優秀かと言えば、すでに発動している火の玉を風圧で消したり、進行方向を変え互いをぶつけ消滅させたりすることができるくらいには優秀だ。
自分の魔法で決着だと思っていたルードは、如きと見下していた【ウィンド】により消滅した自分の魔法を見て間抜けな顔をしている。
「ご自慢の魔法が【ウィンド】如きに負けた感想は?」
「うわああぁぁああ!!」
打つ手が無くなったルードは素手で我武者羅に突っ込んでくる。
そのまま軽く殴るとあっさりと意識を無くし、突進していた勢いのまま地面を転がっていく。
「俺の勝ちだな」
「ふざけるなよ! 何が勝ちだルードにそんなことしてただで済むと思っているのか? 貴様のしたことは反逆だ。王都に伝えすぐに打ち首にしてやるぞ!」
相手に有利な状態で戦い勝利したのにガーフィールはこんな状況でも権力にすがり水を差してくる。
向かって来ればいいのに自分で戦う気概も力も無く、権力を笠に着るだけの典型的なボンクラ貴族だ。
それに比べればルードの方が自分で向かってくるだけマシだった。
一発殴ろうとした時、俺の腕に何かがしがみついた。
姿は見えないがフランなのだろうと察しがついた。
「タクト様ありがとうございます。後は自分でできます」
姿は消えているがフランはしっかりと自分の意思でそう言った。
自分でできると言えるなら俺がわざわざ殴る必要はない。
「【ウィンドボール】」
次の瞬間目の前に魔法陣が現れ空気が集まっていく。
集められた空気はこぶし大の球状にまとまり、ガーフィール目掛けて放たれ腹部に直撃する。
ガーフィールにこの威力を耐えるだけの力はなく、そのまま壁まで転った。
「なんだ……、今のは……、お前がやったのか?」
「俺じゃないよ。やったのはこいつだ」
俺が魔法を解くと隣にはフランが立っていた。
パジャマ姿なのが少し緊張感を欠くが、怯えた様子もなく父親をにらみつけている。
「フラン、貴様何をしているのかわかってい――」
「わかっています。今の一撃を最後にイクシルの名を捨てます」
「貴族の名前を捨ててお前みたいなのが生きていけると思っているのか!」
「たとえお父様の言う通り野垂れ死んだとしても、私は自由に生きていきたい! フラン・イクシルという道具としてこの家に飼われているよりも私はフランという一人の人間として死にます!」
フランは立派に父親にそう宣言した。
それがどれだけの勇気だったかは震えるその手からはっきりと伝わった。
「ふざけるなよ。そんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
「ガーフィールいい加減諦めなさい。お前の負けだ。お前にはまだ領主の地位は早かったらしいな」
「父さん……」
決着がついたタイミングでウィルさんがエントランスに現れた。
「イクシル家の皆さん初めまして。タクト・キサラギと言います」
俺が声をかけると予定通り三人が一斉にこちらを向く。
突然の登場に男二人がこちらを睨み、母親は不安げな目でこちらを見上げている。
「お前はフランを唆している下民だな。どうやって侵入したか知らんが、フランをどこに隠したんだ?」
「隠したなんてそんなはずないだろ、フランが勝手に逃げ出したんじゃないの? こんなつまんな所に押し込められたらネズミだって逃げたくなるさ」
「そんなわけないだろう。あれは逃げないさ、そういう風にしつけたんだからな」
さも当然の様にそう言い切る男は吐き気がするほど胸糞悪い。
フランが逃げないように翼を折り鎖で繋ぐ。
クソみたいな絆もあったもんだ。
「さあ返せ。あれは嫁ぎ先が決まっているんだ。お前みたいな何の役にも立たないゴミの様な男の側に置いていては価値が下がる」
あくまでフランは自分の私腹を肥やすための道具なわけか。
他の二人もそれが当然だと思っているわけか。
こんな家族に育てられたらフランみたいないい子はあんな風になってしまうだろう。
「父さんああいう輩は口で言うだけ無駄だ。力づくで口を開かせないと調子に乗るだけだよ」
フランの兄ルードはよほど腕に自信があるのか、脇にある剣抜き剣先をこちらに向け父親と同じオールバックの髪型を整える。
流石フランの兄だ。
剣をこちらに向ける姿は絵になるが、目に宿る傲慢さが品位を落としている。
「その意見には賛成だよ。一つ賭けをしようぜお坊ちゃま」
「挑発しているのか? その程度で僕の心を乱すつもりか? だとしたら浅はかだと――」
「挑発なわけないだろ。世間知らずだからお坊ちゃまだって事実を言ったのにそれだけで挑発扱いされるのは心外だな」
効いてないって面しても、瞼がそんなに痙攣してたら嘘だってバレバレなんだよな。
別にこっちは本当に挑発しているつもりはない。
ただ賭けに乗ってくれるだけでいいんだけど。
「世間知らずはどっちかな。学園主席、剣技、魔法、モンスターの討伐数も上位の俺に勝てるつもりでいるのか?」
この周辺の低レベルの雑魚モンスターを狩っただけでそれだけ威張れるなら大したもんだ。
ウィルさんの話だとレベルは26だっけか。
この前のポイズンドラゴンの半分以下のレベルなのにな。
「そんなに凄いなら負けちゃうかもしれないなぁ。それでそんなことより賭けは乗ってくれるの?」
「受けてやるよ。お前が勝てばフランを連れて行くってことでいいんだよな。僕が勝ったら何を差し出すつもりだ?」
「殺すなり実験するなりサンドバッグにするでも好きにしてくれていいぜ」
「わかった受けて立ってやるよ。行くぞ!」
その掛け声とともに二人の男が俺の両腕を押さえつける。
一騎打ち風に見せてこの建物の中にいる全員か。
そうなる様にわざとルールのことは言わなかったんだが、本当にそう来るとはわかりやすくて笑えて来るな。
「そのままお前を串刺しにしてやるよ」
俺が動けないと思い真直ぐに向かってくるルードに向かい、俺は両腕にしがみついている二人を投げつけた。
「なっ!? ぐはっ……」
まさかの攻撃だったらしく、ルードに俺の投げた二人が激突しルードは床に倒れる。
それに動じていない他の警備員が俺を取り押さえようと動くが全て躱し気絶させる。
「できれば一騎打ちがいいんだが、貴族はまともに決闘もできないらしいな」
「ほざけ底辺の人間が!」
効いていないフリも限界らしく、整った顔が真っ赤になり青筋を立て怒り狂う。
「挑発って案外面白いな。そこまで顔が変わるならもっと挑発してやろうか」
俺は宣言通り手すりから降り、ゆっくりとルードの元に歩いていく。
飛びかかってくる護衛を一人ずつ気絶させ、いまだに膝を着くルードを見下ろす。
「下民如きが僕を見下すな!」
「なら立ってみろよ。はっきり言うがお前みたいなのよりもフランの方が強いぞ」
「ふざけるなああぁぁああ!!」
ルードは怒りに任せ剣を振り続けるが、そんな攻撃が届くはずもない。
俺は止まったような動きのルードの手から剣を奪い取り天井に突き刺す。
ルードには一瞬の出来事のようで、ここまで簡単に剣を取られたことが信じられず目を丸くしている。
「剣はもう使わないのか? 学園主席ってこの程度なのか?」
「なら魔法を見せてやるよ【ファイアボール】」
空中に十ほどの魔法陣が生まれ、同数の火球が作られていく。
これくらいの魔法なら確かにMPの消費も多いし、優秀な部類にはいるだろう。
だがそれもそのレベルにしてはという話だ。
「お前は魔法を使えないんだったな。【ウィンド】如きしか使えないんだろ?」
ウォーターエレメンタルの時の話か、そう言えばそういう風に話してたんだっけか。
しかし【ウィンド】如きって結構使い勝手がいいんだけどな単純で応用が利く優秀な魔法だ。
「死ね。貴族を馬鹿にした報いを受けてもらおうか」
「【ウィンド】」
「はっ?」
どれくらい優秀かと言えば、すでに発動している火の玉を風圧で消したり、進行方向を変え互いをぶつけ消滅させたりすることができるくらいには優秀だ。
自分の魔法で決着だと思っていたルードは、如きと見下していた【ウィンド】により消滅した自分の魔法を見て間抜けな顔をしている。
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「俺の勝ちだな」
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向かって来ればいいのに自分で戦う気概も力も無く、権力を笠に着るだけの典型的なボンクラ貴族だ。
それに比べればルードの方が自分で向かってくるだけマシだった。
一発殴ろうとした時、俺の腕に何かがしがみついた。
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自分でできると言えるなら俺がわざわざ殴る必要はない。
「【ウィンドボール】」
次の瞬間目の前に魔法陣が現れ空気が集まっていく。
集められた空気はこぶし大の球状にまとまり、ガーフィール目掛けて放たれ腹部に直撃する。
ガーフィールにこの威力を耐えるだけの力はなく、そのまま壁まで転った。
「なんだ……、今のは……、お前がやったのか?」
「俺じゃないよ。やったのはこいつだ」
俺が魔法を解くと隣にはフランが立っていた。
パジャマ姿なのが少し緊張感を欠くが、怯えた様子もなく父親をにらみつけている。
「フラン、貴様何をしているのかわかってい――」
「わかっています。今の一撃を最後にイクシルの名を捨てます」
「貴族の名前を捨ててお前みたいなのが生きていけると思っているのか!」
「たとえお父様の言う通り野垂れ死んだとしても、私は自由に生きていきたい! フラン・イクシルという道具としてこの家に飼われているよりも私はフランという一人の人間として死にます!」
フランは立派に父親にそう宣言した。
それがどれだけの勇気だったかは震えるその手からはっきりと伝わった。
「ふざけるなよ。そんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
「ガーフィールいい加減諦めなさい。お前の負けだ。お前にはまだ領主の地位は早かったらしいな」
「父さん……」
決着がついたタイミングでウィルさんがエントランスに現れた。
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