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五章 鍵の行方

50話 氷美湖とレイラ

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 ここはどこかしら? 無駄にだだっ広い空間に壁と天井だけ。
 あのムカつく男の能力? だとしたらここは私達を閉じ込める牢屋って事ね。

「姿は見えないけど、誰かいるんでしょ?」

十纏じってん色麻しかま彩李いろり。ヴァクダ様の命によりお前を殺す」

 何もない空間からスラリとした背の高いモデル風の女性が現れた。

「姿を見せるだけじゃなくて名前も教えてくれるのね。それなら一応私も名乗らないとね。門番鬼石氷美湖。いざ尋常に勝負」

 先に動き出したのは彩李だった。
 軽く腕を振ると、その姿は突然消える。

 気配はあるけど、ぼやけててちゃんとしたした場所はわからないわね。
 さっきの偉そうな男を隠してたのはこいつか。
 じゃあ、これはこいつの能力じゃないってことね。

「尋常にって言ったのに、姿を隠すのは卑怯じゃない?」

 返事はなしか。
 操られてるみたいだし、当然と言えば当然よね。

 彩李は姿を隠しながら攻撃の準備を進めていた。
 自作の爆弾や、武器を用いた罠をすぐに使える状態にし行動に移る。
 今仕掛けた罠だけを隠し自分の姿を現す。

「その姿を消すのは時間制限かな?」

 氷美湖は何も考えずに言葉を発し、相手の力量を確認するために飛び出す。
 再び姿を消した彩李の代わりに氷美湖の足元に爆弾が現れ、爆発した。
 釘や錆びた金属が噴き出すす手製の地雷。
 秋良や揖斐川みたいな人間が踏めばかなりのダメージを負うが、この程度では氷美湖に大したダメージは与えられない。
 そしてそれは彩李も知っている。
 背後から包丁で氷美湖を狙うが、後数ミリの所で躱されてしまう。
 そしてすぐに彩李は景色に溶け込む。

 この爆弾はあくまで目くらましってわけね。
 本命は本人の攻撃ってことね。
 わかりやすいトラップ戦術ね。
 そうなると厄介なのはこの消える能力ね、音も気配も感じないし、さっきも攻撃されるまで気がつかなかった。
 まずは能力の条件を確かめたいところだけど、あんまり時間もかけられないし一気に制圧する。

 そう思った矢先、虚空から球体が現れ氷美湖の手に収まる。
 やばいと思った時にはその球体が破裂し、閃光が氷美湖を包んだ。

 まさか閃光弾まで使ってくるなんて……。
 元から見えない敵と戦ってるけど、自分の足元も見えない……。

 視界が白に埋め尽くされている間に彩李は次の準備をしていた。
 今度のは爆弾だけではなく、彼女自身が直接手を下す。
 一斉に放たれる矢や爆弾、銃弾を全方位から打ち尽くし、その直後に直接攻撃を仕掛ける。
 気配や感覚では防げない数による攻撃で、確実に氷美湖を殺すつもりだった。

「見えないなら対処は同じでしょ。鬼石流氷術 氷結界・樹氷原」

 何もない空間が氷に覆われ、床から氷の木が一斉に生える。
 その木はまるで意思を持っている様に彩李が仕掛けた罠を一斉に破壊した。

 氷結界の中にいて彩李が攻撃されないのは、彼女の能力のおかげだった。
 対象を自分以外のあらゆるものの意識から外す。
 氷美湖はもちろん、氷結界からも存在を認識されていないおかげで彩李は攻撃されずに済んでいる。

「氷結界も反応しないのねだったら、もうこれしかないわね。鬼石流氷術 氷室」

 辺りを囲っていた氷の結界は内側に向けて氷を伸ばしていく。
 それがやばいと彩李が理解した時には、前にしか進めなくなっていた。
 見えようが見えまいが関係のない一本道。

「このまま押しつぶしてもいいけど、名乗られたからには直接止めを刺してあげるわ」

 氷美湖と彩李の後ろの氷が二人を勢いよく押す。
 それでも彩李は自分の持つ一番長い槍を取り出し、先に殺そうと伸ばすがその槍は氷に阻まれる。

「そう、そこにいるのね」

 この状況になればもう彩李に勝機はほぼない。
 姿が見えないアドバンテージも部屋を縮小することでなくなった。
 そして武器選びも失敗している。
 狭い所では使いづらく、自分の能力で隠しきれない。
 氷美湖には彩李の姿は見えなくても、槍の向きで彼女の位置がわかっていた。
 その結果、彩李は全身を薙刀に突かれ、体中から黒い靄を吐き出していた。

「姿を隠すなら、広い所や短い武器じゃないとダメよ。洗脳されてなければそのくらいわかってたでしょうけどね」



 氷美湖の戦闘と同時刻、レイラも同じように部屋の中に閉じ込められていた。

「これはメイヴィスの能力だよね。って聞いても答えるわけはないか」

 レイラは目の前でライアンの操り人形になっているミアに話しかける。

「可哀想だなって思うよ。私もさっきまでそうだったしね」

変異交雑へんいこううざつ

 レイラの会話に耳も貸さず、ミアの両手に剣と銃が左右で混ざり合う。

「でもさ、ざまあみろっても思ってるよ。私あんたが嫌いだし」

 右腕は銃と混ざり合い様々な場所から銃弾が放たれる。

「だから、同情もしないし助けるなんてこともしないから」

 全ての銃弾を躱し、ミアの腹部を全力で殴りつけた。
 確かな手ごたえと一緒に痛みが来る。
 手には折れた一本の剣、ミアの体からはハリネズミの様に剣が無数に飛び出していた。
 殴られる直前にミアは体と融合させるのを剣だけにしていた。

「やっぱりあんたは面倒だよ。だから、さっさと奥の手切らせてもらうから」

 レイラは卵をその場に出した。

「外で出すと秋良達に迷惑がかかるから、今ここで使わせてもらうから頑張ってこの子倒してみてね」

 レイラが卵を割ると中から魔法陣が生まれそこから一体の生物が生まれる。
 レイラの顔ほどしかない大きさ、その全身はふわふわの毛に覆われていた。

「可愛い、前のと違う」

「おいらは最終段階だからね。それで、おいらは何をしたらいいの?」

 思わずつぶやいた言葉に生物は反応した。

 前にレイラが発動させたときは力のある限り周囲を破壊し生みの親の言葉を聞こうともしなかった。
 それが、言葉を発したことにレイラは驚いた。

「おいらを生んだのはあなただよね? それなら命令してよ。おいらの名前はフルフルだよ。戦うのは誰だい?」

「まずは目の前にいる針山みたいな女」

「了解」

 フルフルはふわりと宙に浮くと二本の鹿の角が生え、バチバチと電気を発生させる。
 電気はそのまま球体の形に変化し放出された。
 ミアは咄嗟に防御の姿勢を取った。
 変異交雑で竹とゴムに混ざり、雷を防ごうとするがフルフルの電気はその程度では防ぎきれない。
 電気の発する熱と発射された速度が融合する破壊力は、いとも容易くミアの体を粉砕した。
 電気が通ったミアの体からは、傷から溢れ出す靄なのか彼女が燃えた黒煙なのか区別がつかない程に黒く染まっていた。

「これで、おいらの仕事は終わりだね。他にも何かあるなら命令を聞いてあげるけど?」

「ここから出して。それと、ライアンって奴を殺して」

「わかった。でも、ここから出るのは問題ないけど、二つ目はどうなるかわからないかな。おいらはライアンって知らないから」

「そう、ならまずここから出して。他の三つの部屋も出せるようにして」

「了解」

 伸びた角にさっきよりも強い電気が集まり、その電撃が一斉に放たれた。
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