凡人高校生

ゆるだら公

文字の大きさ
上 下
23 / 24
凡人高校生

23話

しおりを挟む
__大家

「大ちゃんただいま!!家から果物とか、近くのコンビニで色々買ってきたよ!!」

レジ袋やら紙袋やら、たくさん腕にぶら下げて帰ってきた。かなり焦っているように見える。
気が引けるなと、大は少し申し訳なくなった。

「あ、ありがと…満」

「なんのそのだ!」

ニッコリと笑った満は、コンビニのものであろうレジ袋から、熱が出た時に貼る冷却シートを取り出した。
そして大の前髪をかきあげ優しく押えた。

「貼るぞ大ちゃん。じっとしてろよ」

「…ん…っ…」

額にひんやりとした冷たいものがあたったので、貼ったと同時に大はちいさく声を漏らした。

「どうだ?少しは楽になったか」

まだ大の顔が赤いので、不安気に彼を覗いた。満との距離が近くなったので、思わず大は顔を逸らした。

「ちょ、そんな近づいたら、風邪うつす…」

大は満になるべく風邪をうつさないように、布団に潜って蹲った。
そんな彼を見て、満は静かに微笑み、ゆっくりと自分もベッドに乗って布団に入った。

「え、はぁ…!?何してんの………!」

気を利かせて離れてくれると期待していた大だが、満相手にそう上手くいくことではなかった。
自分に背を向けている大を、満はぎゅぅと抱きしめた。高校生2人が1つの小さいベッドに入るという、なんとも見てて窮屈そうに感じるが、満はそんなことどうでもよかった。

「…大ちゃん。…俺はな……」

「………」

「……風邪にはならない!!」

「…………はぁ…?」

この状況で言える発言ではなく、大はさらに頭が痛くなったような気がした。
確かに満はほとんど風邪をひかない元気な子だ。だからといって、必ずしもそれが正解とは限らない。
大はこの事がきっかけで満が風邪になることを恐れて距離を置いたのに、無駄だったようだ。

「…俺はな、例え極寒の中だろうが壮大なフラグを立ててしまおうが、風邪にはならない自信がある」

「うん、ほんとにフラグは立てた…」

はぁとため息を吐く大だが、喋っていると満の吐息が耳にあたってそれどころではなくなった。
満がゆっくりと呼吸する度に彼の息があたるので、大は毎回ビクリと体を震わせてしまい、たまに意識していないのに「あっ」と声が出てしまう。

そんな余裕がないことがわからない満は、思いっきり大の近くで話し始めた。

「俺は別に、大ちゃんならうつっても構わないぜ。かかったとしてもすぐに治るし。
…俺、大ちゃんの傍に居たいんだよ」

「満……」

口説くように語りかけてくる満に、大も段々と大人しくなっていった。

「さっ、早く治るためにも睡眠は大切だから、このまま寝るぞ」

「え、でも俺、今起きたばっか…」

「まだ熱は下がってないだろ。こんなにあったかいし」

「それはお前が抱きついてるからで」

確かにそうだと、満はうーんと考え事をしているようなポーズをとった。

「ま、でも2人で寝た方が心も身体も安心するし、いいだろ!」

「……え…?」

考えるのは面倒くさいと、満は安直に片付けてしまった。

「じゃ、おやすみ~……スー……」

「……」

満の体温を感じながら、大もまた浅い眠りについた。温かさが倍になって、さらに心地のよい空間となった。



_____✻✻_____



…ピーンポーン……

「大せんぱーい。大丈夫ですか~?」

「…返事ねぇな」

部活が終わり、姫野と朝霧は早速大の家へ向かったのだが、誰も返事をしてくれない。

「寝てんだろ、多分」

「はッッ!もしかして、歩けないほど辛いんじゃ…!」

体が貧弱な大だからこそ連想されることだった。大なら有り得なくもない話だ。

「あ、ドア開いてるぞ」

恐らく、急いでいた満がドアの鍵をかけ忘れていたのだろう。警備がガバガバになっていた。

「お、お邪魔しまーす」

物音をなるべく立てずに入った2人はまず初めに寝室に向かった。風邪なので、寝ている可能性が高いと考えたのだ。

「ここですかね」

ゆっくりと部屋のドアを開けると、どうやら当たりだったようで、小さな寝息が聞こえてきた。しかし、それは1つではなかった。

少しだけドアを開けて覗いている2人は、大の他にももう1人いることに気づいた。

「あれは…大とよく一緒に居る奴」

「確か、えっと…満先輩。でしたっけ」

誰かわかったし、大が安静に出来ていることが確認できたので、2人とも安心した。しかし、あの2人の絵面がどうも気になって仕方がなかった。

「…あぁすれば風邪も早く治るんですかね」

「んなわけあるか」

「じゃあどうして…」

姫野が悩んでいると、朝霧ははぁとため息をついて、寝ている2人を見つめた。

「落ち着くんだろ。心の安らぎみたいな」

「…へぇ、そうなんですね。…というか、朝霧先輩がそんなこと言うなんてレアですね」

「うるせぇ、わかったからもう帰るぞ。邪魔すんな」

「はーい」

姫野は静かにドアを閉め、小走りで玄関へ向かっていった。早く、大が元気になってほしいと願いながら。

「…僕らも今度やってみますか」

「やんねぇよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

過ちの歯車

ニューハーブ
BL
私は子供の頃から、何故か同性に気に入られ沢山の性的被害(自分は被害だと認識していない)を 経験して来ました、雑貨店のお兄さんに始まり、すすきののニューハーフ、産科医師、ラブホのオーナー 禁縛、拘束、脅迫、輪姦、射精管理、などなど同性から受け、逆らえない状況に追い込まれる、逆らえば膣鏡での強制拡張に、蝋攻め、禁縛で屋外放置、作り話ではありません!紛れもない実体験なのです 自分につながる全ての情報を消去し、名前を変え、姿を消し、逃げる事に成功しましたが、やもすると殺されていたかも知れません。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく

かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話 ※イジメや暴力の描写があります ※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません ※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください pixivにて連載し完結した作品です 2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。 お気に入りや感想、本当にありがとうございます! 感謝してもし尽くせません………!

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

処理中です...