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第1章 ウィムンド王国編 1

ギルドでの合流

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 いつでも城下へ出られるようにしていたこともあり、騎士団長を務める彼……フリュヒテンゴルト公爵が冒険者ギルドの防衛本部に到着したのは、アーウィンよりも早かった。
 街を襲っていたワイバーンが突如として姿を消した理由を確かめるのが、その主な目的だったのだが、やってきたその場で彼に齎された情報は、完全に予想の範疇を超えまくったものだった。
 先にレンリアードから事の次第を説明されていた現場責任者であるベントレー子爵にされていたものと同じ説明を聞き、門で確認された身分証の読み取り機から得られている情報を渡された上で尚、フリュヒテンゴルト公爵が出した結論は、ここへ向かっているらしいくだんの相手に「とにかく会ってみる」という実に問題先送りチックな代物であった。
だが、レンリアードはその判断をある意味正解だろうと評価していた。
 実際に会ってみなければ分からないズレというか、違和感というか、言葉にしがたいそういうものもあるのだから。
やがて、ローガンを先頭にした部隊が到着したことをギルドの者が知らせて来て、曲がりなりにも他国の王族相手だからと3人揃って、階下の入口へと出迎えに降りた。

「レンリアード隊長。遅くなりまして」
「いや。ゆっくりしてくれて助かった。道中、何か問題は?」
「………」

 傍までやってきて、そう問いかけたレンリアードにローガンは、ただ沈黙だけを返した。

「ローガン?」

 これは絶対に何かあったな、と察したレンリアードが、名を呼びかけることで説明を促すが。

「遅くなったことは、私から謝罪をさせてもらおう。理由は私にあり、彼らに責はない」

 答えを返したのは、当のローガンではなくアーウィンだった。

「で? 何があった?」

 こんな言われ方をすれば尚更、尋ねない訳にはいかなくて、レンリアードは再びローガンに質を重ねた。

「イズマの妹が務めている店が、ワイバーンのブレスで火事になっとる現場近くを通りましてな。彼奴あやつが隊を離れてそちらに向かってしまったのを殿下が追いかけられまして」

 仕方なさげに話し出したローガンは、チラリと肩越しにイズマを振り返りながら続ける。

「結果、殿下の御力で火事は即座に鎮火。逃げ遅れた者は皆、殿下に助けだされた上に治癒魔法をかけていただけたので怪我も火傷も全回復。手厚いことに何某かの魔法で、その者達の服までお世話くださいましてなぁ。おまけに、こちらへの向かいぎわ、イズマのアホウめが殿下の身分とワイバーン討伐の件を公表してくれやがりましてのう。野次馬を含めた一般人ばかりでなく、騎士も冒険者も傭兵達もその場におりましたから? 民の間で噂が広まるのも時間の問題かと。いやはや、参りましたなぁ?」
「………」
「………」
「………」

 隠蔽工作は、する前から終了のお報せ。
 しかもこんな短時間でワイバーン討伐ばかりか民に関することでまで、メチャメチャ世話になっていた。
 普通、他国の王族は、またまた訪れただけの地で生きている民へ、ここまでしてくれることはない。
 それは内政干渉を警戒されるのが主な理由ではあるけれど、今は非常時であるがゆえに喉から手が出るほど、援助が欲しいのもまた事実だった。
だが、本来ならば有り難いことこの上ない筈のそれが今は、退路を断たれているに等しい所業に思えてしまうのは、自分達の被害妄想なのだろうか。
だって、民の間で既に良い人として認知されてしまっただろう他国の王族をニアリ国境侵犯なんて、してもらったことに比べたら微々たることと言わざるを得ないような代物を理由に国内で知らぬ者なき悪名高い自国の王子と宰相一派に売り渡すような真似をしたら、これまで自分達が民との間で築き上げてきた信頼だの実績だのが、真っ逆さまで地に落ちるだろうことが火を見るよりも明らかなのだから。
 一体誰が悪いのかって?
アーウィンが善意のみで行動したと仮定するならば、満場一致で有罪ギルティ対象者はイズマだろう。
他に誰が居ると言うのだ。

「そう皆で責めてやるな」

 その場の者達が無言のまま視線の全てを注いでいるのがイズマであることを確認して、申し訳なさそうに小さくなっている彼を不憫に思ったのか、アーウィンがそう声をかけた。

「家族があのような目に遭って居るのを目の当たりにすれば、大概の者は気が動転しよう。それは訓練で抑えるのにも限界のある感情と衝動だ。そなた達としては、なるべく私のことは民に伏せたかったのであろうが、恐らく、これからのことを考えれば、それは難しくなると思うぞ?」
「これからのこと?」

 イズマのフォローというだけではなさそうな言い方にレンリアードが問い返すとアーウィンは、その時になってようやく空中から地へと降り立って、騎士団長の前に立った。

「そなたが総括責任者と見たが、如何に?」
「はい。ウィムンド王国騎士団長、ダンベルド・フリュヒテンゴルト公爵にございます、アーウィン王子殿下」

 アーウィンの問いに左胸に右手を当て、貴族式の礼をしながら名乗ったフリュヒテンゴルト公爵に彼は、頷いてみせてからレンリアードへと視線を戻した。

「うむ。レンリアード、私が既にそなたへと渡した情報は、全て伝達済みとの認識で間違いないな?」
「はい。間違いございません」

 今度は己へと向けられた確認じみた問いにレンリアードは是を返す。

「ならば話しは早い。ワイバーン通常種の亡骸引き渡しが終わり次第、早急に報せておきたいことがある。その情報とワイバーンの討伐、2つの利を貴国へ齎すことと引き換えに、私としても不測の事態であった国境侵犯を不問としてもらえると、こちらとしては助かるのだが?」

 やはりワイバーンの後に「通常種」という単語が付け足されていて、そうでない種がいるのだろうか? という不安が胸に過ぎる。
だが、フリュヒテンゴルト公爵は、それに言及することなく、軽いお願いじみた音で以って紡がれたアーウィンの言葉の方を拾い上げた。

「その件に関しては、私の判断1つで不問を御約束出来ると誓いましょう。早急な情報提供を御望みであれば、引き渡しよりもむしろ、そちらを優先すべきかと。ここは本来、冒険者ギルドの建物になりますが、今は対ワイバーン防衛本部として会議室の一室を借りております。よろしければ中へ御足労いただき、御話をいただければと」

 入口から横に移動する形で道を譲ったフリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵。
その先に深々と頭を垂れる冒険者ギルド職員の姿。

「よかろう。私としてもこのような往来で情報を公開して、いたずらに民を不安にさせたくはないのでな。部屋を使えるというのであれば、そうさせてもらうとしよう」
「御配慮、痛み入ります」

 提案を受け入れると語外に示しながら建物内へと歩を進めたアーウィンの後ろにフリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵が続く。
 捜索隊の面々はレンリアードとローガンの2人だけがそれに続き、残りの者達は馬を連れて裏手へと回った。

「この国では、有事の情報をまず騎士団が把握して、必要ならば冒険者ギルドや傭兵ギルドに共有する形を取っていると理解してよいか?」
「はい。その理解で間違いございません」
「では、当該組織に情報を共有するかどうかは、そちらで決めてもらうとしよう」
「かしこまりました」

 案内された部屋の扉を開けると待機していた騎士が中で出迎えて、一堂はアーウィンを先頭にそのまま室内へと入って行った。
 扉を閉めた冒険者ギルドの職員は、どうやら今回のワイバーン襲撃が、これで終わりにはならなさそうだ……と予感しつつその場を去って行った。




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