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第7章 マーベラーズ帝国編

再会と確認と

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 程なくしてスガルが待っていた状況はやって来た。
前庭に転移してきたブルーとフィリアに一瞬、騒然となったものの、ブルーの姿を空と実物とで見ていた者も居り、また騎士の大半がフィリアを知っている状態だった為にその騒ぎはすぐ沈静化してしまったけれど。

「聖銃士様、フィリア姫様。お待ちして居りました。皆様がおいでの場所へご案内いたします」
「お願いしますわ」

 予め指示を受けていたらしいメイドの言葉にフィリアが応じると彼女は早速、踵を返した。

「こちらへどうぞ」

 歩き出した彼女について行くと館の2階にある部屋前へと連れて行かれ、扉をノックしてすぐ姿を見せた執事と2、3言葉を交わしてから2人は中へと通された。

「スガル。お姫さん連れて来たぜ」
「有り難う、ブルー」
「お待たせ致しまして、申し訳ございません。ギルベルト殿下」

 入室したフィリアは、最初にこの場で1番位の高い皇太子ギルベルトへ、そう謝罪を送った。

「構わぬ。久しいな、フィリア姫。1年ぶりくらいであったか?」
「はい。殿下が最後に我が国へおいでになられたのが魔王戦の始まる半年前でございましたので、そのくらいかと」

 皇太子の言葉に軽い礼を送って答えたフィリアに再び彼が質問を投げかけて来た。

「活躍の様子は空にも映っておったが、聞けば神々と共にガルディアナの趨勢にも関わる予定とか?」
「ああ、そのことですか。…… “いねー神様教” の方々を匿っているようなので、諸共逝っていただこうかと?」
「いねー神様教?」

 初めて聞く名称とその名称の持つ言葉本来の意味に皇太子が目を丸くして確認を取るような音程で疑問形にしたそれを繰り返した。

「黒薔薇女豹のラリリアっていう女リーダーが命名した連中の、こっちの方が表現として正しいだろ? ってぇ呼称なのさ。ああ、そうだ。それで思い出したけど、彼女達は、この町で前に暴走スタンピードがあった時にアンタに面識あるらしくて、よろしく伝えてくれって言ってたぜ?」
「なるほど……彼女は、何というか……すぐに自分の覚えやすくて呼びやすい渾名みたいなものをつけてしまう女性なのだよな。私も不可思議な呼称をつけられた覚えがあるよ……呼ぶこと自体はパーティの仲間に全力で止められていたけれど」
「当たり前よ。下手したら不敬罪で捕まるじゃないの」

 ブルーの説明を受けて、思い出したようにそう答えた皇太子の言い分にアストレイが即座に突っ込んで、副団長が肯定を示して幾度か頷く。

「別に不名誉な渾名ではないので、そこまではせんが……うむ、言伝を有り難う」
「所で殿下? この領が置かれている現状については、どこまでお聞きになられましたか?」

 一段落した感のある話しの流れにフィリアが確認するように問いを投げかける。

「いや、実はこれからなんだ。聖勇者殿が、きっとフィリア姫が町の人達の話も聞いて来るだろうから是非、その後に話を聞いて欲しいと仰られてね。私も君はそうするだろうなと思ったし。子爵から報告をしてもらうのは勿論だが、フィリア姫や勇者殿達が我が国にいる事情なども含めて、話しを聞かせてくれないかい?」
「分かりました。まずは国として1番の心配ごとであろう鉱山のお話しから致しますわね」

 そう言って、フィリアは町の人達から聞いた話しを掻い摘んで説明した。
自分達がやって来る前の鉱山が水モグラルロラッタに掘られて脆くなった岩盤が崩れて、魔王城のあったダンジョンと地下で繋がってしまっていたこと。
それに伴って鉱山に出没する魔物の質と量がこれまでとは段違いに跳ね上がり、鉱夫や冒険者が対応するには厳しくなってしまったことから徐々に領の財政を圧迫して行ったこと。
また、魔王戦をきっかけにそれが手に負えないレベルとなったのを皮切りに商人達が来る頻度が落ち、経済の停滞が起こってしまったこと。

「そこにつけ込んで高値で食材を売り捌き、鉱石や地妖精ドワーフ細工を安値で買い叩いていた商人が領の借財のカタにシルヴィを妻に寄越せと言っているようなんですの」
「ん? デメトリオ家は、夫人と跡取りが相次いで亡くなっていた筈だな?」
「はい。今はシルヴィが一人娘ですわね」
「ほう? ……一商人風情が、彼女と両思いなのでもあるまいに一人娘を寄越せとは、中々に不遜な要求に聞こえるが、当然、嫁に来い、なのであろうな?」
「まさか。町中の被害者達からの声を集めれば、そんな殊勝な男でないことは明白ですわ。こちらをお聞きになってくださいまし」

 そう言って、フィリアは耳につけていた魔導具を外してブルーへと差し出した。

「聖銃士様、お願いいたします」
「へいへい。えーと……トラックタイム考えると、この辺か?」

 フィリアから手渡された魔導具の機能である録音再生の部分を弄ったブルーがアタリをつけた時間帯へアクセスをかけると手にしたそれから早速、女性の声が流れ出た。

『あのクソ男! いきなり後ろから抱きついてきて、胸と尻を揉みしだいて来たのですよ⁈』

 内容が内容だったこともあり、皇太子や副団長ばかりかデメトリオ子爵までギョッとしたような顔をした。

「もうちょい前か」

 再びトラックレンジを弄ってもう少し前の時間に録音されたものへアクセスすると。

『親切顔して、にっこにこ笑いながら何て言ったと思います?』
「まだ先か」
「いや、気になる。このまま聞かせてくれぬか?」
「……構わねぇけど?」

 もう1度トラックレンジを弄ろうとしたブルーの所作を遮って出された要望に反応して手を止めると魔導具から続きの声が流れ始めた。

『 “魔物を退治出来ないのであればこの鉱山から出る鉱石は、これが最後なのだろう? 石は食えないが石を売って得た金ならば食い物が買えるだろう? 例え銅貨1枚であろうとも” ですよ⁈ ボタ山売ろうってんじゃねぇんだよ! 白連結晶石ですよ⁈ 本来ならグラムで大金貨300枚は確実にする! それをグラムで銀貨100枚⁈ 桁が変わる所の騒ぎじゃありませんよ! ふざけんなって思っちゃダメですか⁈ 違法行為なんですよ⁈ でもあの時は、それでも売るしかなかった! 領民をこれ以上、飢えさせる訳にはいかなかったんですから!』

 ある意味、己の犯した罪の告白でもある内容に皇太子の眉間に縦の皺が刻まれた。
 フィリアも話しにならないレベルの買取価格に彼から話しを聞いた時のことを思い出し、表情が強張った。

「止めてくれ」

 短く出された指示にブルーが魔導具の再生を停止すると副団長が皇太子にも劣らぬ渋面で口を開いた。

「殿下。これが事実なら……」
「分かっている。国が管理している白連結晶石の相場を故意に操作するとは」

 副団長の言葉を全て口に出される前に肯定し、腰を下ろしていた席から立ち上がった。

「この話しに出てきた鉱石は、相場が国によって一元管理されている。この話しが事実なら双方の聞き取り調査をせねばならん。デメトリオ子爵。外にいる騎士を使って構わん。この話しをしている官僚と商人を私の前に連れて参れ」
「は、ははっ! 商人カジェンターノは、当家に向かっておる所だと思われますが、正確な現在位置は不明でございますので、先ずは官僚を連れて参ります!」

 皇太子の命令に深々と頭を下げた子爵は、フィリアから該当者の情報と最後に会った場所が冒険者ギルドであることを聞いて、すぐに行動を起こしたのだった。






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