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第4章 星間指名手配犯襲来編

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『もう嫌! いい加減トラブルの連続は、お腹いっぱいよ!』
「えー……青空中継をご覧の皆様。大変残念なお知らせがございますわ。私達の中から選出された新たな勇者様。きっと何故、このタイミングで勇者になられたのかと皆様、さぞ疑問に思われていたことでしょう。それには理由がございますの」

 そう前置きして、フィリアはお空の上映会を利用して大暴露大会ともとれる説明を始めた。
邪魔をされない為にも足先でリズムを取りながら砲撃することは続行していたが、その話しはアストレイも下手をするとフィリアの家族すらも知らない裏話的なアレやソレで。
自分が転生者であること、エルメシアの力を譲られていること、この2つを除いた全てを語った。

「……と、言う訳でこの星は聖脈の力が足りず、ライツフェルト王国での魔王戦までに勇者は生まれることが出来ませんでした」

 虫魔物達と戦っている者以外は、皆、自分達がどれだけ危険な滅亡の危機一歩手前に居たのかを今更ながらに理解して慄いていた。

「その為、エルメシア様を始めとした神々が私達を助ける為に銀河連邦政府という所にお願いをして、私達のような窮状に置かれた者達の為に日々、ありとあらゆる所の魔王と戦い続けているスペシャリストである聖勇者様と聖銃士様に来ていただくことができました」

 その2人が、今も現れた第2の魔王とその背に張り付いてる寄生生物と戦い続けてくれているのは、上空に映し出されている通りだった。

「御二方は、この地の魔王を倒した後もアルニーブ様の要請で聖脈を整えるめいをいただいた私を助けてくださる為、この地に残ってくださいました。その過程で私は、聖脈には聖脈穴という聖光力の溜まり場があり、私の生まれ育った国の王城地下にあったものが、この地に残った最後の聖脈穴であったこと、私が自国を出てはならないとアルニーブ様から言いつけられていた理由がエルメシア様からの力で以って、最後の聖脈穴を守ることにあったのだと知ったのです」

 それは勿論、良い方の理由であり、ダメな方の理由は口を噤んでおくことも忘れない。
それは自分の転生にも関わってきてしまう話しなので、そうするのが無難だ。

「聖脈を元に戻すには現時点で聖脈を侵している障力をそこから押し出し、聖脈穴地下に存在している支柱に一定量の聖光力を注がねばなりません」

 ここで漸くでてきた「支柱」という単語に他大陸の者達も話が繋がった感を得て、その直後、物凄く引っかかる何かに気付いて顔が強張った。

「分かりますか? 何故、私や勇者様方が先程、あのような反応をしたのかが」

 世界中の自然災害発生や天候不順、作物の不作に漁獲高不調、しまいには勇者が生まれて来なかったこと。
全てがこの聖脈がおかしくなっていたことが原因で、しかもその起因となったのが支柱が大地から失われた場所があったからなのだ、とここまで聞いていれば大概の者が理解できた。

「他大陸における聖脈の流れもこの大陸の聖脈の流れと1つになっていて、綺麗な流れであってこそ意味があり、正常な状態なのです。そこにあるべき支柱がなくなっている状態で、それは叶わないのだと言うことを先ずは、ご理解くださいませ」

 一通りの説明を終えたフィリアが映る空を見上げながら誰かが呟いた。

「何てことしてくれやがったんだ、創世教……」

 他大陸で、また別の誰かが叫ぶ。

「だったら簡単なことじゃないか! その創世教とやらに支柱を元に戻させろよ!」

 それが聞こえた訳ではないが、いやに絶妙なタイミングで再びフィリアが話し出す。

「ご理解いただけましたならば? ガルディアナ聖王国 聖王イルデフォンソ陛下、並びに創世教 教皇オクタビリオス猊下。支柱を元の場所に戻していただけませんこと? 今、すぐに」

 この話しを空中継で聞いたディエスト大陸の各国王、皇王、大公、帝王、女后及び外交部は、阿吽の呼吸とも呼ぶべき素早さでガルディアナ聖王国聖王宛と創世教教皇宛に抗議文とも取れるような要請書簡を水魔法で送りつけた。
 特にガルディアナ聖王国と直接国境を接している2つの隣国、ヘイユーディア公国とクストディオ皇国の反応は早かった。
水魔法書簡を送りつけた後、即座に国を発った使者達は、ガルディアナ聖王国の聖王に直接圧力をかけることで確実に創世教を動かしてもらう手段に出たのだ。

「それとケリスプラ島に無許可で神殿とか建てちゃってるそこの貴方達。その内、勇者様方が今、戦っておられる魔王が空から、そこへ堕ちますからね? 御神体とか言って飾ってある支柱を持って、とっととそこを離れてくださいまし? 下敷きになって死んでも知りませんわよ? 以上」

 これ以上ないフィリアの脅しは確実に島の神殿連中を狼狽させていた。
逃げたい。
正直言って支柱とかどうでもいいからアレが空から降ってくる前にここから逃げ出したい。
だが、自分達の立場はその選択を自分の意思のみで選ぶことを許されないものだった。
海で隔てられた本国の本神殿からそれを許す指示が来なければ、このまま支柱と共に殉じろということなのだと理解して召されなければならない。

「恐れることはありません。神は必ず我々を守ってくださいます」

 神殿の司祭がそういって、支柱という名の御神体へと祈りを捧げる。
 フィリア姫の話しが本当ならば、自分達は主犯格レベルの戦犯だ。
神の救いや慈悲が与えられるなど傍目にはあり得ないと思える状況なのだけれど。
 司祭の言葉に従って、その場に居る全ての者が空を見上げるのをやめ、地面に膝をつくと神殿内にある支柱に向けて司祭同様祈り始めた。
これまでもそうであったように、これからも祈ること以外の選択肢を彼等が選ぶことはなさそうな光景が、そこに広がっていた。

『ブルー! 4本目行くよ!』
『おう!』

 一方、上空の勇者達は寄生体の触腕削りを順調にこなしていた。
残る本数が2本となった所で、寄生体が上げる声は叫びや悲鳴の類にすら聞こえ、空を通じて虫魔物達がますます動きを活発にした。



地上まで後 …── 8km




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