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第3章 イーキュリア王国編
諦めてても疑問は湧くんだよ
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結局、こうなったか。
2人から連絡を寄越されて、その用向きを知った時にブルーは溜息混じりでそう思った。
残念ながら想定の範囲内ではあったけれど。
(アイツ、何でか女になってる時の方が性格、親父さんに似るんだよなァ……見てくれは、流石にお袋さん側に寄るんだが)
先代聖勇者であり、勇者派遣隊前隊長であった父とミス・ギャラクシーユニバースを10連覇して殿堂入りした母を持つ相棒は、生まれた時から既に境界侵犯英雄の特質を持っていたらしく、出会った当初はそれを上手くコントロール出来なかったが為に男になったり女になったり縦に横に斜めにと半分半分になってしまったり、実にバラエティに富んだ性別の有り様を披露してくれて初っ端から己が気づかぬ内に持っていた性別固定観念を綺麗にブチ壊してくれた。
おまけに、その特質と父母の有名税もあってか相棒は当時から、とても犯罪被害対象者に選ばれる確率の高い子供だった。
ただでさえ生い立ちの所為で人間不信になっていた自分が、変態変質者誘拐犯なんぞに優しくなれる筈もなく。
誰に習った訳でもないのにアホを撃退できる能力(物理)には、子供ながらにかなり秀でていたと自負している。
そう。
思えばその頃からだったのだ。
宙ぶらりんだった自分の力を惜しんだのだろう相棒の父が、己の妻や自分の実の両親達と組んで一石三鳥を目論んだのは。
(ハメられたと気づいた時にゃ、俺も立派にこっち側の人間になってたからな。今でこそ感謝自体はしてるけどよ)
その「三鳥」の1つに、どう控えめに見積もっても目が離せない子供だった相棒のお守り役という代物が入っていたのだから、まぁ、こうなっても当然の関係だったのだ。
亜光速の諦念という新たなスキルを得た ── 技術欄に記される類いのものではなかったが ── のもこの頃だ。
だから今回も3度に渡って早々に諦めた。
相棒が女の側に「渡って」まで、この町に降り立ったことも、それについて行った保護対象たる娘には相棒の面倒が見切れなかったのだろうことも、留守番を言い渡された筈の自分がリスクを承知で結局、来ることになってしまったことも。
深々と溜息をついて纏っていた術式を解くとパキン、という甲高い音と共に陣が壊れてブルーは海岸砂丘へと降り立った。
と、同時にサンドワームと呼ばれる魔物が地中から五匹飛び出して来て彼を襲う。
すぐそれに気がついて彼を助けようとした女性漁師と三人の女性騎士達は次の瞬間、一気に凍りついた五匹の魔物を目の当たりにした。
昼間には30度を下回ることのないこの国で、氷魔法を受諾する氷精霊の力を必要とする術を使う者は少ない。
パチン、と指を鳴らす音がして凍りついた魔物が氷粒となって風に散る。
砂の地面にポトリと落ちた5つの魔石を一瞥することもせず、彼は歩き出した。
全身を覆う白の服、金の飾り。
背の中程まである漆黒の髪、目元全体を覆う形をしたガラス質のような何かは一見で魔導具を思わせた。
「待て! そこの男!」
彼の醸し出す只ならぬ者の雰囲気と一瞬で魔物五匹を屠ってみせた力量を警戒した女性騎士から鋭い制止がかかった。
「私はこの国の巡回警邏の者だ! そなた何者だ⁈ 名を名乗れ! この国に何をしに来た⁈」
「銀河連邦政府勇者派遣隊所属 聖銃士ブルーゼイ・ディアノ・ウェリッシュだ。留守番してろって言われたから俺も来る気はなかったんだがな。そう言ってた張本人に、やっぱ来いって呼び出されたんだよ。金の砂亭っつー食堂にいるらしいんだが、お嬢さん達の中に場所知ってる人は居るかい?」
背を向けたまま、顔だけをこちらへ向けて女性騎士からの誰何に答えた彼は、序でじみた調子の問いを4人に投げてきた。
「あ。そこなら知ってるよ、あたし。案内したげよっか?」
「いいのかい? 悪ぃな」
事の成り行きを見ていた女性漁師が自ら手を上げて立候補すると彼は優雅な仕草で踵を返して、行き掛けの駄賃よろしくサンドワームの魔石を5つ拾うと女性漁師に差し出した。
「いいの?」
「俺には必要ねぇものだからな。迷惑料と案内料ってことで」
「ありがと! あたし、レベッカ。ブルーゼイさんって、もしかしてラリアルって子の婚約者の人?」
(すぅっげぇえ久し振りに聞いたなぁあ、その設定ぇ)
「あれ? 違った?」
「いや、そうだけど……お嬢さん、何で知ってんだい? もしかしてアイツに会ってるのか?」
喉まで出かかってしまった突っ込みを飲み込んだ所為で遅れた返事を質問に変えてブルーは訊ねた。
「やっぱりね! そこの騎士さん達と話してるの聞いてただけで直接、彼女とは話してないんだけど。スッゴイ可愛い子だったからさ! さっすが今、話題の魔王討伐勇者様の婚約者だね、彼女!」
「女の子ってヤツは、どこの国でも情報通で大したモンだよなぁ」
問われたからした、たった1度きりの名乗りでキチンと自分が何者であるかに気づき、直接話した訳ではないラリアルの言葉をちゃんと覚えていたらしい彼女の記憶力と情報集積能力は中々に侮れないと判断したブルーは、素直な賛辞を口にして降参するように両手を上げた。
「ふふん。こちとら情報が命の海の女よ! 水の海でも砂の海でもお手の物なんだから。さ、こっちよ。この国では男の扱われ方は特殊だからちょっとの間、我慢してね!」
そう言って、レベッカはブルーの手首の辺りを掴んで町の方へと誘った。
「ブルーゼイさん、男前だからさ? 気を抜いてると飢えた女共に脇道へ引きずり込まれて貪られちまうから気をつけなっ?」
「アグレッシブな話しだなぁ……?」
そこまでの話だとは流石に思っていなかったのか、やや呆れた風情で言いながらブルーも彼女の後について歩き出す。
その間もレベッカは。
「ねぇねぇ、勇者様達って “ぎんがれんぽうせいふ” って国から来てんでしょ? それって何処にあんの?」
とか。
「ブルーゼイさん、背高いよねぇ。ずっと見上げて話してると首痛くなりそう」
などと次々に話題を振って、それに適当な答えを返すブルーと楽しげに歩いて行く。
「ま、待て! 男を野放しで町に入れられるかっ! 行くぞ、お前達!」
話の展開が早くてついていけてなかったらしい女性騎士達が慌てて2人の後を追いかけてきて、すぐ後ろについた。
(? ……妙だな。この騎士達は巡回警邏なんだろ? 1人だけならまだしも全員ついてくるとか、どういうことだ? ……そういや、随分前に出た筈の2人に、このお嬢さんだけじゃなくこっちの3人も会ってるっぽいし? 巡回警邏ってことにしてるだけで別の目的であそこに居たってことか?)
1番ありそうなセンは何だろう?
見張り、通行人の安全確保、後は。
(このお嬢さんの護衛、とかか?)
簡単に想定できるのはその辺りだろうか。
それなら職務である筈の警邏を放り出して自分達についてくるのも理解できる。
(女漁師とは仮の姿って? お付きの動きで怪しまれるんじゃ意味ねぇだろうに)
相変わらず色々と尋ねてくるレベッカは、興味本位な雰囲気を漂わせ、どうでも良さそうな質問の中に時折、核心をついてくるような問いを混ぜてきている。
(手慣れてるねぇ……あれか? 他の国で言う門番とか入国審査官みてぇなモンか?)
こちらに害が及ぶような相手でないなら特に問題はないだろうと大人しく案内に任せて辿り着いた場所は、石造りの建物だった。
「金の砂亭はここなんだけど、ちょっと待ってて。説明なしに男連れ込むとこの町の店は色々と面倒なことになるから」
「手間かけさせてすまねぇな」
「やだ、いいってば。案内するって言ったのあたしなんだから」
それだけ言ったレベッカは、ブルーと女性騎士3人を残して建物の中に入って言った。
「おい。ブルーゼイと言ったな。そなた本当に魔王を討伐した勇者の1人なのか?」
「そういう質問は真偽の確認手段がテメェにある時だけするこったな。バカだと思われるぜ?」
「っ!」
レベッカの姿が見えなくなった途端にぶつけて来られた疑義をド正面から叩き潰したブルーの言葉は、確かめなくとも彼女達にその手段がないことを確信しているようだった。
「ではハッキリ言おう! そなたが! 正義の使者である勇者を騙ったから! ラリアル嬢と婚約できたのではあるまいな⁈ と聞いているのだ!!」
「はぁあああ?」
何だかブルーが考えていたのとは、179.82度くらい方向が違う所に向いた彼女の言葉に、つい抑揚がおかしな具合に持ち上がって、背後へ振り向いてしまった。
「あ、あの…この子が失礼なことを…ごめんなさいまし? その、ラリアルさんに一目惚れしてしまったようで…婚約者が普通の男性だったらまだ、アレだったのですけれど、勇者様とか勝ち目がないからこんなことを言っているだけなんだと思いますの!」
(アレってドレだよ?)
「そ……い! わた……!」
喉まで出かかった突っ込みをギリギリ口にしないで済んだのは、この国の調査データにあった薔薇と百合な話を瞬時に思い出したからだった。
(何でアイツって女の側にちょっとでも「渡る」とこういうの片っ端から引っ掛けてくんだぁ?)
「そな……せい……だか……のか⁈」
これは相棒に関して子供の頃から抱き続けている彼の解けない疑問の1つだった。
変態変質者誘拐犯は言うに及ばず、訓練生時代の学内にも人生を狂わせたヤツが何人かいた。
(別に女になったからって美(魅力)の数値変わんねぇのになぁ、アイツ)
「ひと……ない……か⁈」
これでステータスに変動が起きているとか言うのならこういう現象もまだ理解できるのだけれど。
「答えろ!」
「へ? あ、悪ぃ。考え事してて、全然聞いてなかったぜ。何が何だって?」
「きっさまぁあ!!」
「よせグレーズ! 2人は、この国の民ではない! 例え相手が男でも勇者相手では貴女の正義は世界の正義に捩伏せられるだけだ!」
同僚に諌められて悔しげにこちらを睨みつける女騎士と彼女を制止する2人の女騎士とを溜息混じりでブルーは見つめた。
「正義ね。お嬢さん達の言うそれが、どんなモンを指してるのかよく分からねぇが、そんなお題目掲げてねぇと出来ねぇことはやらねぇ方が周囲の為だと思うぜ?」
「なんだとっ⁉︎」
「貴方は、正義の為に勇者として魔王を倒されたのではないのか?」
「グレーズ! アリティア! おやめになって!」
ブルーの発言にこれまで比較的発言を控えていたらしい3人目の女性騎士が、言葉の内容に苛立ったのか険もあらわに問いかけてきた。
同僚の制止も聞こえていないのか、2人の視線が射殺さんばかりにブルーを見据える。
「これまで何だかんだと1900近い魔王を倒して来たが」
「⁈」
「テメェにだけ都合のいい代物を正義とか聞こえのいい言葉に摩り替えて、そいつを正当化する為に戦おうとか思ったことは、ただの1度もねぇな」
出された数字にギョッとなった3人に頓着することなく言葉を続けたブルーは、はっきりとそう言い切ってから聞こえて来た声に意識を向けたような仕草をした。
「…おっと。お呼びのようだ。それじゃあな、お嬢さん方」
あっさりと向けられた背中と外側に何かを投げ捨てるような形で翻った右手が、そもそも自分達を真面に相手する気がないと語外に示しているようで、女性騎士達は唇を噛み締めて俯いた。
1人は、反論の証を立てる術がみつけられなくて。
別の1人は、自分と彼の認識の違いに愕然として。
最後の1人は、自分の同僚が思っていたより色々とダメな意味で重症だったことが彼のお陰で理解できたことに。
(本気で転職しようかしら……? 魔王討伐の勇者様に喧嘩売るような頭お花畑と一緒に居たらいつか同類の常識なしになりそう……)
ただ1人ひたすら制止する側に回っていた女性騎士は、深々と息をつき己の先行きに大いなる不安を抱いていた。
2人から連絡を寄越されて、その用向きを知った時にブルーは溜息混じりでそう思った。
残念ながら想定の範囲内ではあったけれど。
(アイツ、何でか女になってる時の方が性格、親父さんに似るんだよなァ……見てくれは、流石にお袋さん側に寄るんだが)
先代聖勇者であり、勇者派遣隊前隊長であった父とミス・ギャラクシーユニバースを10連覇して殿堂入りした母を持つ相棒は、生まれた時から既に境界侵犯英雄の特質を持っていたらしく、出会った当初はそれを上手くコントロール出来なかったが為に男になったり女になったり縦に横に斜めにと半分半分になってしまったり、実にバラエティに富んだ性別の有り様を披露してくれて初っ端から己が気づかぬ内に持っていた性別固定観念を綺麗にブチ壊してくれた。
おまけに、その特質と父母の有名税もあってか相棒は当時から、とても犯罪被害対象者に選ばれる確率の高い子供だった。
ただでさえ生い立ちの所為で人間不信になっていた自分が、変態変質者誘拐犯なんぞに優しくなれる筈もなく。
誰に習った訳でもないのにアホを撃退できる能力(物理)には、子供ながらにかなり秀でていたと自負している。
そう。
思えばその頃からだったのだ。
宙ぶらりんだった自分の力を惜しんだのだろう相棒の父が、己の妻や自分の実の両親達と組んで一石三鳥を目論んだのは。
(ハメられたと気づいた時にゃ、俺も立派にこっち側の人間になってたからな。今でこそ感謝自体はしてるけどよ)
その「三鳥」の1つに、どう控えめに見積もっても目が離せない子供だった相棒のお守り役という代物が入っていたのだから、まぁ、こうなっても当然の関係だったのだ。
亜光速の諦念という新たなスキルを得た ── 技術欄に記される類いのものではなかったが ── のもこの頃だ。
だから今回も3度に渡って早々に諦めた。
相棒が女の側に「渡って」まで、この町に降り立ったことも、それについて行った保護対象たる娘には相棒の面倒が見切れなかったのだろうことも、留守番を言い渡された筈の自分がリスクを承知で結局、来ることになってしまったことも。
深々と溜息をついて纏っていた術式を解くとパキン、という甲高い音と共に陣が壊れてブルーは海岸砂丘へと降り立った。
と、同時にサンドワームと呼ばれる魔物が地中から五匹飛び出して来て彼を襲う。
すぐそれに気がついて彼を助けようとした女性漁師と三人の女性騎士達は次の瞬間、一気に凍りついた五匹の魔物を目の当たりにした。
昼間には30度を下回ることのないこの国で、氷魔法を受諾する氷精霊の力を必要とする術を使う者は少ない。
パチン、と指を鳴らす音がして凍りついた魔物が氷粒となって風に散る。
砂の地面にポトリと落ちた5つの魔石を一瞥することもせず、彼は歩き出した。
全身を覆う白の服、金の飾り。
背の中程まである漆黒の髪、目元全体を覆う形をしたガラス質のような何かは一見で魔導具を思わせた。
「待て! そこの男!」
彼の醸し出す只ならぬ者の雰囲気と一瞬で魔物五匹を屠ってみせた力量を警戒した女性騎士から鋭い制止がかかった。
「私はこの国の巡回警邏の者だ! そなた何者だ⁈ 名を名乗れ! この国に何をしに来た⁈」
「銀河連邦政府勇者派遣隊所属 聖銃士ブルーゼイ・ディアノ・ウェリッシュだ。留守番してろって言われたから俺も来る気はなかったんだがな。そう言ってた張本人に、やっぱ来いって呼び出されたんだよ。金の砂亭っつー食堂にいるらしいんだが、お嬢さん達の中に場所知ってる人は居るかい?」
背を向けたまま、顔だけをこちらへ向けて女性騎士からの誰何に答えた彼は、序でじみた調子の問いを4人に投げてきた。
「あ。そこなら知ってるよ、あたし。案内したげよっか?」
「いいのかい? 悪ぃな」
事の成り行きを見ていた女性漁師が自ら手を上げて立候補すると彼は優雅な仕草で踵を返して、行き掛けの駄賃よろしくサンドワームの魔石を5つ拾うと女性漁師に差し出した。
「いいの?」
「俺には必要ねぇものだからな。迷惑料と案内料ってことで」
「ありがと! あたし、レベッカ。ブルーゼイさんって、もしかしてラリアルって子の婚約者の人?」
(すぅっげぇえ久し振りに聞いたなぁあ、その設定ぇ)
「あれ? 違った?」
「いや、そうだけど……お嬢さん、何で知ってんだい? もしかしてアイツに会ってるのか?」
喉まで出かかってしまった突っ込みを飲み込んだ所為で遅れた返事を質問に変えてブルーは訊ねた。
「やっぱりね! そこの騎士さん達と話してるの聞いてただけで直接、彼女とは話してないんだけど。スッゴイ可愛い子だったからさ! さっすが今、話題の魔王討伐勇者様の婚約者だね、彼女!」
「女の子ってヤツは、どこの国でも情報通で大したモンだよなぁ」
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「ふふん。こちとら情報が命の海の女よ! 水の海でも砂の海でもお手の物なんだから。さ、こっちよ。この国では男の扱われ方は特殊だからちょっとの間、我慢してね!」
そう言って、レベッカはブルーの手首の辺りを掴んで町の方へと誘った。
「ブルーゼイさん、男前だからさ? 気を抜いてると飢えた女共に脇道へ引きずり込まれて貪られちまうから気をつけなっ?」
「アグレッシブな話しだなぁ……?」
そこまでの話だとは流石に思っていなかったのか、やや呆れた風情で言いながらブルーも彼女の後について歩き出す。
その間もレベッカは。
「ねぇねぇ、勇者様達って “ぎんがれんぽうせいふ” って国から来てんでしょ? それって何処にあんの?」
とか。
「ブルーゼイさん、背高いよねぇ。ずっと見上げて話してると首痛くなりそう」
などと次々に話題を振って、それに適当な答えを返すブルーと楽しげに歩いて行く。
「ま、待て! 男を野放しで町に入れられるかっ! 行くぞ、お前達!」
話の展開が早くてついていけてなかったらしい女性騎士達が慌てて2人の後を追いかけてきて、すぐ後ろについた。
(? ……妙だな。この騎士達は巡回警邏なんだろ? 1人だけならまだしも全員ついてくるとか、どういうことだ? ……そういや、随分前に出た筈の2人に、このお嬢さんだけじゃなくこっちの3人も会ってるっぽいし? 巡回警邏ってことにしてるだけで別の目的であそこに居たってことか?)
1番ありそうなセンは何だろう?
見張り、通行人の安全確保、後は。
(このお嬢さんの護衛、とかか?)
簡単に想定できるのはその辺りだろうか。
それなら職務である筈の警邏を放り出して自分達についてくるのも理解できる。
(女漁師とは仮の姿って? お付きの動きで怪しまれるんじゃ意味ねぇだろうに)
相変わらず色々と尋ねてくるレベッカは、興味本位な雰囲気を漂わせ、どうでも良さそうな質問の中に時折、核心をついてくるような問いを混ぜてきている。
(手慣れてるねぇ……あれか? 他の国で言う門番とか入国審査官みてぇなモンか?)
こちらに害が及ぶような相手でないなら特に問題はないだろうと大人しく案内に任せて辿り着いた場所は、石造りの建物だった。
「金の砂亭はここなんだけど、ちょっと待ってて。説明なしに男連れ込むとこの町の店は色々と面倒なことになるから」
「手間かけさせてすまねぇな」
「やだ、いいってば。案内するって言ったのあたしなんだから」
それだけ言ったレベッカは、ブルーと女性騎士3人を残して建物の中に入って言った。
「おい。ブルーゼイと言ったな。そなた本当に魔王を討伐した勇者の1人なのか?」
「そういう質問は真偽の確認手段がテメェにある時だけするこったな。バカだと思われるぜ?」
「っ!」
レベッカの姿が見えなくなった途端にぶつけて来られた疑義をド正面から叩き潰したブルーの言葉は、確かめなくとも彼女達にその手段がないことを確信しているようだった。
「ではハッキリ言おう! そなたが! 正義の使者である勇者を騙ったから! ラリアル嬢と婚約できたのではあるまいな⁈ と聞いているのだ!!」
「はぁあああ?」
何だかブルーが考えていたのとは、179.82度くらい方向が違う所に向いた彼女の言葉に、つい抑揚がおかしな具合に持ち上がって、背後へ振り向いてしまった。
「あ、あの…この子が失礼なことを…ごめんなさいまし? その、ラリアルさんに一目惚れしてしまったようで…婚約者が普通の男性だったらまだ、アレだったのですけれど、勇者様とか勝ち目がないからこんなことを言っているだけなんだと思いますの!」
(アレってドレだよ?)
「そ……い! わた……!」
喉まで出かかった突っ込みをギリギリ口にしないで済んだのは、この国の調査データにあった薔薇と百合な話を瞬時に思い出したからだった。
(何でアイツって女の側にちょっとでも「渡る」とこういうの片っ端から引っ掛けてくんだぁ?)
「そな……せい……だか……のか⁈」
これは相棒に関して子供の頃から抱き続けている彼の解けない疑問の1つだった。
変態変質者誘拐犯は言うに及ばず、訓練生時代の学内にも人生を狂わせたヤツが何人かいた。
(別に女になったからって美(魅力)の数値変わんねぇのになぁ、アイツ)
「ひと……ない……か⁈」
これでステータスに変動が起きているとか言うのならこういう現象もまだ理解できるのだけれど。
「答えろ!」
「へ? あ、悪ぃ。考え事してて、全然聞いてなかったぜ。何が何だって?」
「きっさまぁあ!!」
「よせグレーズ! 2人は、この国の民ではない! 例え相手が男でも勇者相手では貴女の正義は世界の正義に捩伏せられるだけだ!」
同僚に諌められて悔しげにこちらを睨みつける女騎士と彼女を制止する2人の女騎士とを溜息混じりでブルーは見つめた。
「正義ね。お嬢さん達の言うそれが、どんなモンを指してるのかよく分からねぇが、そんなお題目掲げてねぇと出来ねぇことはやらねぇ方が周囲の為だと思うぜ?」
「なんだとっ⁉︎」
「貴方は、正義の為に勇者として魔王を倒されたのではないのか?」
「グレーズ! アリティア! おやめになって!」
ブルーの発言にこれまで比較的発言を控えていたらしい3人目の女性騎士が、言葉の内容に苛立ったのか険もあらわに問いかけてきた。
同僚の制止も聞こえていないのか、2人の視線が射殺さんばかりにブルーを見据える。
「これまで何だかんだと1900近い魔王を倒して来たが」
「⁈」
「テメェにだけ都合のいい代物を正義とか聞こえのいい言葉に摩り替えて、そいつを正当化する為に戦おうとか思ったことは、ただの1度もねぇな」
出された数字にギョッとなった3人に頓着することなく言葉を続けたブルーは、はっきりとそう言い切ってから聞こえて来た声に意識を向けたような仕草をした。
「…おっと。お呼びのようだ。それじゃあな、お嬢さん方」
あっさりと向けられた背中と外側に何かを投げ捨てるような形で翻った右手が、そもそも自分達を真面に相手する気がないと語外に示しているようで、女性騎士達は唇を噛み締めて俯いた。
1人は、反論の証を立てる術がみつけられなくて。
別の1人は、自分と彼の認識の違いに愕然として。
最後の1人は、自分の同僚が思っていたより色々とダメな意味で重症だったことが彼のお陰で理解できたことに。
(本気で転職しようかしら……? 魔王討伐の勇者様に喧嘩売るような頭お花畑と一緒に居たらいつか同類の常識なしになりそう……)
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そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。
そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。
彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。
そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと――
これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。
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