上 下
8 / 12

8

しおりを挟む
マクシミリアン殿下のお誕生日パーティーに参加したことで、クローデットが美少女であることが知れ渡った。お茶会の招待状も大量に届いたが、両親が判断して必要最低限で参加することとなった。


ルネも公の場に登場したことから、次期アルトー公爵への婚約の申し込みが殺到。数多の釣書の中から家格や派閥を考慮し、令嬢自身や領民からの評判についても調査に調査を重ねた結果、最終的な候補者は3人まで絞られ、最終判断はルネに委ねられる。


フローラ・アストリー伯爵令嬢。ルネと同じ11歳。
辺境の地を治めるアストリー伯爵家は武官を多く輩出しており、アストリー伯爵令嬢も男勝りな性格で剣術に優れた活発なご令嬢であるが、周囲を明るく元気にさせ、使用人や領民に好かれている。


セシリー・ハミルトン侯爵令嬢。ルネより1つ下。
本を読むことが大好きで、頭が良く、理解力が高い。普段はクールビューティーな印象を受けるが、間違った知識をひけらかす人を見るとスイッチが入り、ひたすら正しい知識について語り続けるので、話題には注意が必要らしい。噂には惑わされず、噂は噂として情報を扱い、検分や判断を行う。


マドレーヌ・ラクロワ侯爵令嬢。ルネと同じ11歳。
王族の婚約者に選ばれるかもしれないと、両親がきっちりと淑女教育を施したので、マナーや知識は完璧。見た目はおっとりとしていて、喋りも少しゆっくりなため、大人しい令嬢だと思われる。しかし、芯はしっかりとしているらしい。



アルトー公爵家の庭園にあるガゼボで、ルネが各令嬢と1対1でお見合いをしている様子を、クローデットは毎回自室から観察していた。

ゲームでは来るもの拒まずの遊び人ルネには婚約者は居なかった。アルトー公爵家では、第一王子の婚約者であるクローデットがなによりも優先。一応、婚約者候補として、ルネより5歳年下で、父の親戚の隣国の令嬢がゲームではチラッと出ていた気がする。5歳下ということもあって、確か、令嬢が学園に通う頃に正式に婚約を結ぶ予定であることをゲームでルネが言っていたはず……。


クローデットの婚約者がゲームと違う上、ゲームよりも早い時期の婚約者選びとなったせいか、今回のルネの婚約者の選定には、隣国の令嬢は名前すら上がっていない。

ルネは若干シスコン気味だが、きちんと教育を受けて、公爵子息の振る舞いを身につけている。努力家で勉強にも力を入れているが、エルネストやクローデットと過ごす時は、天真爛漫な可愛い弟。ヒロインではなく、婚約者と良い関係を築いてもらいたいとクローデットは強く思う。



アストリー伯爵令嬢とのお見合いでは、途中アストリー伯爵令嬢が席を立ち、ルネに剣術を見せているようだった。話が盛り上がって楽しそうに過ごしているように見えた。


ハミルトン侯爵令嬢とはゆっくりとお茶を飲みながら会話を楽しんでいたようだが、途中からハミルトン侯爵令嬢が段々と前のめりになって、ジェスチャーを交えながら話しているようだった。ルネは少し仰け反りながら、必死に相槌を打っていた様に見えたので、おそらくハミルトン侯爵令嬢の地雷を踏んでしまったのかもしれない……。


ラクロワ侯爵令嬢とは、終始ほのぼのとした空気が流れていた。笑顔も多く、楽しそうな雰囲気であった。


クローデットは3人の令嬢それぞれとのお見合いが終わった後に、ルネに率直な感想を聞いた。

「アストリー伯爵令嬢とは、剣技についての話で盛り上がりました。今度手合わせする約束したんですよ! えっと、ハミルトン侯爵令嬢は、噂で聞いたことある話を持ち出してからは、ずっとその話をされました……。あ、ラクロワ侯爵令嬢は、義姉さまと同じで甘いものが好きだそうです! 食べ物の話で盛り上がりました」

概ねクローデットが予想していた回答通りだった。

「そうなのね。楽しめたなら、良かったわ。それで、婚約者にしたい方はいたの?」

「婚約者にしたいと思うのは……ラクロワ侯爵令嬢です」

「どうしてラクロワ侯爵令嬢なの?」

「正直、僕の婚約者に誰が良いかと聞かれても、何を基準に選べば良いのか、わからないのです。公爵夫人に相応しいかは、お義父様が判断されていますよね? エル義兄様と義姉様を見て、一緒に居て仲良く楽しく過ごせる人が良いとは思いますが、初めて会ったばかりなので……。ただ、甘いもの好きなラクロワ侯爵令嬢といる時は、義姉様達といる時と同じような空気で心地よいと感じました。だから、あの3人の中なら、ラクロワ侯爵令嬢を選びます」


少し照れながら答えるルネを見て、クローデットも思わず微笑んだ。この感じであれば、婚約者はラクロワ侯爵令嬢で決まるだろう。


それぞれの令嬢との時間も何度か設けたが、やはりルネが選んだのは、ラクロワ侯爵令嬢だった。ルネとラクロワ侯爵令嬢の婚約が整い、ルネはラクロワ侯爵家に定期的に訪問するようになった。

クローデットも未来の義妹との交流を深めるべく、アルトー公爵家に招いた。ラクロワ侯爵令嬢はとても柔らかい空気を持つ令嬢で、お菓子の話で盛り上がり、最終的には『レーヌ』『クローディ義姉様』とお互い愛称で呼ぶくらいは、仲良くなれた。

クローデットはマドレーヌと一緒にお菓子作りをしたり、今までエルとルネの3人でお菓子を楽しんでいた時間にマドレーヌも呼び、4人で過ごすことも増えた。


ルネとマドレーヌの距離は段々近づき、お互いが少しづつ想い合っていっているのは、クローデットでもわかった。


ルネの学園入学まで約3年。
ヒロイン覚醒まで4年ーー

この調子でいけば、ルネがヒロインに攻略されることはないだろう。

エルも相変わらず時間があればクローデットに会いに行き、独占欲も隠さず、クローデットに常に気持ちを伝える日々が続き、あっという間に学園の入学式となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

他には何もいらない

ウリ坊
恋愛
   乙女ゲームの世界に転生した。  悪役令嬢のナタリア。    攻略対象のロイスに、昔から淡い恋心を抱いている。  ある日前世の記憶が戻り、自分が転生して悪役令嬢だと知り、ショックを受ける。    だが、記憶が戻っても、ロイスに対する恋心を捨てきれなかった。

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

悪役令嬢は婚約破棄を告げられる前に美味しい料理を平らげる

monaca
恋愛
「あ、これ、悪役で乙女ゲーに転生してる」 どうせ婚約破棄されるなら、この空腹を満たしたい!

悪役令嬢に転生したようですが、前世の記憶が戻り意識がはっきりしたのでセオリー通りに行こうと思います

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したのでとりあえずセオリー通り悪役ルートは回避する方向で。あとはなるようになれ、なお話。 ご都合主義の書きたいところだけ書き殴ったやつ。 小説家になろう様にも投稿しています。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

【完結】悪役令嬢マルガリータは死んだ

yanako
恋愛
悪役令嬢マルガリータ 彼女は本当に悪役令嬢だったのか 公爵令嬢マルガリータは第二王子ジャレスの婚約者 そこにあるのは、相互利益 マルガリータは婚約者にも親にも愛されずに、ただ利用されるだけだった

処理中です...