無色の男と、半端モノ

越子

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五、白雪と山桜

ケントという男

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 あれからハクは辰ノ国から巳ノ国へと向かっていた。

 辰ノ国で起きた女性誘拐事件の時、術で繋がっていたルリ姫を通して小太りの髭を生やした男性と、もう一人の細身で眼鏡をかけた男性の会話を聞き、ハクは確信した。

 もう一人の男性は卯ノ国の退治屋に属している、あの研究者だ。彼は研究材料となるセツを捜しているのだろう。

 巣窟を一掃している時、小太りの髭を生やした男性がハクに命乞いをした。そこでハクは小太りの男性に彼に関する情報を聞き出すと、どうやら彼は巳ノ国の出身らしく、若い頃は巳ノ国の退治屋に属していたらしい。

 ハクは昔から細身で眼鏡をかけた研究者が気になっていた。陰湿で不気味さがある異様な雰囲気は勿論だが、自分に対して好意とは程遠いものを感じていた。とは言っても、嫌がらせとかやっかみは一切なかったため、この違和感は受け流していた。だが、今回は黙って受け流すわけにはいかない。セツが狙われているからだ。

(何でもいい。彼に関する情報が欲しい)

 巳ノ国に着くと、ハクは唸る雪の中を物ともせずに退治屋の屋敷へと歩き進めた。


   ◇ ◇ ◇


 退治屋の屋敷に着くと、夜中になるのを待ってハクは裏口からこっそりと侵入した。

 薄暗く、埃臭い書物庫に入ると、ハクは速やかに過去の名簿と研究の報告書を読み漁った。名簿には〈失踪者〉の括りで年代と共に数人の名前が明記されていた。

〈一二〇七年――ナツ、鬼に攫われ失踪〉
〈一二〇八年――ケント、任務中に失踪〉
〈一二一九年――タカト、失踪理由不明〉
 ――。

(ケント……)

 この名前には覚えがあった。ハクの記憶では確か、細身で眼鏡をかけた陰湿な研究者の名前は「ケント」だ。だが、研究者は研究室にずっと籠もるため、任務で外出することは殆どない。

(昔は鬼を退治していたのか?)

 名簿の次に、ハクは研究の報告書をパラパラと捲る。とある研究の報告者の名前に「ケント」と記されていた。

(彼は退治と研究の両方をやっていたのだろうか……?)

 ケントの研究内容は、鬼の特異能力と特異性を活かした術式に関するものと、もう一つ、目を疑う内容が記されていた。それは〈する術〉というものだった。

「そこに居るのは誰だ!」

 ――時間切れか。

 ハクは近くの窓を割って外に出たが、数人の退治屋に囲まれてしまった。彼は刀を引き抜き、雪の絨毯に陣を描いた。跪いて拳を撃ち出すと、竜巻のような風が発生し地吹雪が舞い上がる。

 辺りの景色は灰白で埋め尽くされていた。

 退治屋たちは目も口も開ける事が出来ず、しばらく地吹雪に耐えている――その間にハクは姿を消した。

 ――もう、この国にも長居は出来ない。

 ハクは次の国へと放浪することにした。
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