40 / 61
五、白雪と山桜
ケントという男
しおりを挟む
あれからハクは辰ノ国から巳ノ国へと向かっていた。
辰ノ国で起きた女性誘拐事件の時、術で繋がっていたルリ姫を通して小太りの髭を生やした男性と、もう一人の細身で眼鏡をかけた男性の会話を聞き、ハクは確信した。
もう一人の男性は卯ノ国の退治屋に属している、あの研究者だ。彼は研究材料となるセツを捜しているのだろう。
巣窟を一掃している時、小太りの髭を生やした男性がハクに命乞いをした。そこでハクは小太りの男性に彼に関する情報を聞き出すと、どうやら彼は巳ノ国の出身らしく、若い頃は巳ノ国の退治屋に属していたらしい。
ハクは昔から細身で眼鏡をかけた研究者が気になっていた。陰湿で不気味さがある異様な雰囲気は勿論だが、自分に対して好意とは程遠いものを感じていた。とは言っても、嫌がらせとかやっかみは一切なかったため、この違和感は受け流していた。だが、今回は黙って受け流すわけにはいかない。セツが狙われているからだ。
(何でもいい。彼に関する情報が欲しい)
巳ノ国に着くと、ハクは唸る雪の中を物ともせずに退治屋の屋敷へと歩き進めた。
◇ ◇ ◇
退治屋の屋敷に着くと、夜中になるのを待ってハクは裏口からこっそりと侵入した。
薄暗く、埃臭い書物庫に入ると、ハクは速やかに過去の名簿と研究の報告書を読み漁った。名簿には〈失踪者〉の括りで年代と共に数人の名前が明記されていた。
〈一二〇七年――ナツ、鬼に攫われ失踪〉
〈一二〇八年――ケント、任務中に失踪〉
〈一二一九年――タカト、失踪理由不明〉
――。
(ケント……)
この名前には覚えがあった。ハクの記憶では確か、細身で眼鏡をかけた陰湿な研究者の名前は「ケント」だ。だが、研究者は研究室にずっと籠もるため、任務で外出することは殆どない。
(昔は鬼を退治していたのか?)
名簿の次に、ハクは研究の報告書をパラパラと捲る。とある研究の報告者の名前に「ケント」と記されていた。
(彼は退治と研究の両方をやっていたのだろうか……?)
ケントの研究内容は、鬼の特異能力と特異性を活かした術式に関するものと、もう一つ、目を疑う内容が記されていた。それは〈人を暗殺する術〉というものだった。
「そこに居るのは誰だ!」
――時間切れか。
ハクは近くの窓を割って外に出たが、数人の退治屋に囲まれてしまった。彼は刀を引き抜き、雪の絨毯に陣を描いた。跪いて拳を撃ち出すと、竜巻のような風が発生し地吹雪が舞い上がる。
辺りの景色は灰白で埋め尽くされていた。
退治屋たちは目も口も開ける事が出来ず、しばらく地吹雪に耐えている――その間にハクは姿を消した。
――もう、この国にも長居は出来ない。
ハクは次の国へと放浪することにした。
辰ノ国で起きた女性誘拐事件の時、術で繋がっていたルリ姫を通して小太りの髭を生やした男性と、もう一人の細身で眼鏡をかけた男性の会話を聞き、ハクは確信した。
もう一人の男性は卯ノ国の退治屋に属している、あの研究者だ。彼は研究材料となるセツを捜しているのだろう。
巣窟を一掃している時、小太りの髭を生やした男性がハクに命乞いをした。そこでハクは小太りの男性に彼に関する情報を聞き出すと、どうやら彼は巳ノ国の出身らしく、若い頃は巳ノ国の退治屋に属していたらしい。
ハクは昔から細身で眼鏡をかけた研究者が気になっていた。陰湿で不気味さがある異様な雰囲気は勿論だが、自分に対して好意とは程遠いものを感じていた。とは言っても、嫌がらせとかやっかみは一切なかったため、この違和感は受け流していた。だが、今回は黙って受け流すわけにはいかない。セツが狙われているからだ。
(何でもいい。彼に関する情報が欲しい)
巳ノ国に着くと、ハクは唸る雪の中を物ともせずに退治屋の屋敷へと歩き進めた。
◇ ◇ ◇
退治屋の屋敷に着くと、夜中になるのを待ってハクは裏口からこっそりと侵入した。
薄暗く、埃臭い書物庫に入ると、ハクは速やかに過去の名簿と研究の報告書を読み漁った。名簿には〈失踪者〉の括りで年代と共に数人の名前が明記されていた。
〈一二〇七年――ナツ、鬼に攫われ失踪〉
〈一二〇八年――ケント、任務中に失踪〉
〈一二一九年――タカト、失踪理由不明〉
――。
(ケント……)
この名前には覚えがあった。ハクの記憶では確か、細身で眼鏡をかけた陰湿な研究者の名前は「ケント」だ。だが、研究者は研究室にずっと籠もるため、任務で外出することは殆どない。
(昔は鬼を退治していたのか?)
名簿の次に、ハクは研究の報告書をパラパラと捲る。とある研究の報告者の名前に「ケント」と記されていた。
(彼は退治と研究の両方をやっていたのだろうか……?)
ケントの研究内容は、鬼の特異能力と特異性を活かした術式に関するものと、もう一つ、目を疑う内容が記されていた。それは〈人を暗殺する術〉というものだった。
「そこに居るのは誰だ!」
――時間切れか。
ハクは近くの窓を割って外に出たが、数人の退治屋に囲まれてしまった。彼は刀を引き抜き、雪の絨毯に陣を描いた。跪いて拳を撃ち出すと、竜巻のような風が発生し地吹雪が舞い上がる。
辺りの景色は灰白で埋め尽くされていた。
退治屋たちは目も口も開ける事が出来ず、しばらく地吹雪に耐えている――その間にハクは姿を消した。
――もう、この国にも長居は出来ない。
ハクは次の国へと放浪することにした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
白鴉が鳴くならば
末千屋 コイメ
キャラ文芸
「鴉が鳴くと人が死ぬ」
この街ではそんな噂が――事実が、存在する。
不幸の象徴の鴉、縁起の悪い色の白。
そのどちらも併せ持つ【白鴉】を掲げる料理店。
表向きは普通だが、裏では口に出せない食材を取り扱い、
店主・雨泽(ユーズゥァ)が《うまく》料理にして提供していた。
ある日、雨泽は鴉の鳴き真似が上手い幼女と出会う。
それから、奇妙な二羽の鴉の生活が始まる――
ちゃりんちゃりん、と軽い金属音と共に。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
戦国姫 (せんごくき)
メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈
不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。
虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。
鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。
虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。
旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。
天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる