無色の男と、半端モノ

越子

文字の大きさ
上 下
21 / 50
三、団子と罠

研究材料

しおりを挟む
 ――やられた。

 意識が戻った時、セツは牢屋の中だった。

(ここはどこだ?)

 窓のない薄暗い空間の中、ぽつぽつとロウソクの火が灯されている。

「気がつきましたか?」

 声がする方に顔を向けるとレイが目を細めてセツを見ていた。

「今から貴方に面白いもの見せようと思ってね」

 そう言うと、この空間の奥からズゥンズゥン、と大きいモノが動く音が聞こえてきた。そのモノが近くまで来ると、セツは目を疑った。

「鬼だ……」

 ここに居るはずのないモノがここに居る。そして、その隣には痩せ細った男性が鬼に付き添うように立っていた。

「ふふっ。実はこの鬼、退治屋ですよ。そして、隣にいるのはそれを作った研究者です」

(わけがわからない!)

 セツが目を見開いて鬼を見ていると、細身で顔色の悪い研究者は、眼鏡をクイッと上げると同時に口角を上げた。

「ヒヒっ。コレ、貴方が退治した鬼ではありませんか?」

「あっ」

(そうだ! この鬼、人に化けた鬼だ!)

「私たち退治屋は特異能力や特異性のある鬼を持ち帰り、研究材料にしているのです」

 レイが説明をする。

(そういえば、ハクがそんなことを言っていたな)

「ヒヒっ。研究と実験を重ねて成功した結果がコレですよ。鬼の核や細胞、血液などから新しい陣を形成して術式を発動させたのです」

 付け加えて研究者が気味悪く説明する。

(そういうことか。……でも)

「残念だったな。俺にはそんな能力や性質は無い」

「あるじゃないですか。笛で鬼を操る力が」

「なっ!?」

「何故、それを知っているのかって? 実際に見たんですよ。大勢の鬼を、笛の音で操る貴方を。正確には貴方の匂いを感じた……ですけどね」

(そうか、あの日か! きっとハクもあの時から気付いていたんだろうな……。それはそうと、色々と良い状況ではないな)

 セツがひっそり考え込んでいると、

「そうそう。貴方の横笛はこちらで預かりました。変な行動をされては研究できませんからね」

 そう言って、レイはセツに漆黒の横笛を見せた。

「ハハッ。手際が良いな。で、俺にどうして欲しいんだ?」

「そうですね。まずは鬼になってもらいましょうか」

「断る。と言ったら?」

「今、ハクが行っている任務。どんな任務でしょうね?」

 ああ、そう言えば……と、レイは付け加える。

「ハクの目の前で子鬼を逃がしましたよね?」

「もしかして……」

「ハクは鬼の匂いがわかります。貴方が断れば……」

「……はあ。俺には師匠さんが悪に見えるよ」

 ――完敗だ。

 両手を軽く上げ、溜息を一つ吐くと、セツは身体を徐々に変化させた。
しおりを挟む

処理中です...