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第11話~居住棟絶滅作戦~

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『1セコン=1秒』


「それで俺たちはまずどうすればいい?一網打尽にする作戦とやらがあると言ってたが」
「簡単よ。居住棟に通気口があるのは知ってるわね?」
「ああ」
「そこに毒ガスを流し込むのよ。これが私の小さな愛人たちよ。これを混ぜ合わせれば毒ガスが発生して、吸い込めばたちどころに動けなくなって死ぬの。死ぬまで意識を失えずジワジワと自分が衰弱するのを感じながらね」

 ツェーンが立てた能力者一網打尽の策とは通気口に毒ガスを流し込むことだった。彼女は妖艶な顔を醜く歪めてケラケラと笑いながら、自分が精製したという液体の瓶を2つ取り出してその瓶に口づけをした。
 曰くこの2つの液体が混ざると致死性の毒ガスが発生するらしい。そのガスは目に見えず臭いも無く誰も気づけないまま吸い込んでしまうようだ。
 この女の脳内は自身を認めなかった者たちに対しての復讐心と自身の研究を誇示する自己顕示の2つしかないようで、そのために誰がどうなろうと知ったことではないようだ。

「このガスは空気より重いから、下に下に降りていくの。だから居住棟の上部から流し込むのが1番ね。あなたのテレポーテーションのスキルで行けるでしょう?」
「それは問題ない。だがナザリーの女たちはどうにか救えないか?」
「どうして?」
「あの娘らは被害者だろう?俺の復讐対象じゃない」
「ふーん。意外と甘いのね。いいわ、ここであなたにへそ曲げられちゃ仕方ないしね」

 ガスの性質上、上部からガスを流し込んだ方が効率が良いようでまずは居住棟上部へ俺たちはテレポートすることになった。
 だが通気口から流し込むとなれば全部の部屋に毒ガスが行き届くということになるので、5階から1階まで全て毒ガスが生き渡ってしまうということになる。そうなれば5階に居るナザリーの女たちも全員巻き添えになる。
 俺としては彼女らは救ってやりたい。そのことをツェーンに言うと彼女は意外そうな顔を見せてクスクスと笑いながら甘いとは言ったものの俺の要望を容れた。
 彼女もわざわざ俺と組むということは1人では研究所攻略は難しいと感じているからであり、可能な限り俺たちの要望を容認する構えのようだ。

 俺たち3人はテレポーテーションで居住棟屋上へ跳んだ。そこには当然ナザリーで俺が始末したインウント、吊り橋で俺が始末したフュンの死骸が転がっている。
 その2つの死骸を見たアイシスとツェーンの様子は対称的だった。アイシスは自分を半殺しにしてきた相手が居るということで目を剥いて怒りの眼差しを死骸に向け、ツェーンはまるで虫けらの死骸でも見るかのように嘲笑していた。

「それじゃあ私たちは毒ガスを流し込む準備をしておくわ。あなたはナザリーの女たちをここに連れてきて。言うからには考えはあるんでしょう?」
「ああ、一応な。行ってくる」

 ここで俺たちは二手に分かれることになった。俺がナザリーの女たちをこの屋上へ連れてくる間にツェーンとアイシスが毒ガスを流し込む準備を整える手はずだ。
 俺は再び屋上からナザリーの一室に繋がる梯子を下りていく。そしてドアを少し開けて音を聞いてあの彼女以外にまた能力者のケダモノが居るかどうかを確認した。声は聞こえず、物音もほとんどしない。どうやら今は彼女以外誰もいないようだ。
 一応30セカンほど待ってからやはり誰も居なさそうであることを確認してからドアを開けて飛び降りて着地する。

「ひっ」
「俺だ。驚かせたな」
「あ、あなたはさっきの……」

 やはり彼女以外は誰も居なかった。物静かなヤツが行為を終えて寝台に寝ていたらということも考えて一応警戒はしたのだが杞憂に終わった。
 さっきは自身の状況との天秤ですぐには救い出せなかったナザリーの女たちだったが、やっと助けることができる。俺は彼女に近寄り言いたかったのに言えなかった言葉を口にした「君たちを助ける」と。
 彼女は呆けたような表情をしている。イマイチ言葉の意図を測りかねているような様子だ。彼女たちは苗床としての生き方を知らない。おそらく俺たちと同じように幼少の頃は能力者として活動するためにその教育を受けただろうが、それだって人間らしい生き方とは言えない。
 俺だってもう普通の人間には戻れない。全身血みどろの怪物だが、そもそも普通の生き方が具体的には分からない。
 だが彼女たちもケダモノたちに虐げられる生き方よりはよほどマシだと俺はそう信じるからこそこの地獄の苗床から救いたいと思っている。

「今から外へ行く。他の娘たちも助けたいが話している時間が無いんだ。もし他の娘が怯え出したら君が落ち着かせてやってほしい」
「そんなこと、言われても……」
「そうだな。だが細かく説明する時間は無い。俺を信じてくれ」
「……はい」

 細かく説明はしたかったが、生憎そんな時間は無い。ツェーンの計画から言えばナザリーの女ごと毒殺する作戦なのだ。そしてそれは間違いなく合理的だ。ナザリーの女たちは完全な不確定要素。それをわざわざ抱えるよりも始末した方が間違いはない。
 そして時間も数少ない。時間経過と共に悟られる可能性が上がるしナザリーの部屋は50部屋ある。その全てに入っているかどうかは分からないが、入っている全てを救うにも時間が掛かるのでさっきの行動から彼女には信じてもらうしかなかった。
 幸いなことに彼女は一応信じてくれたようで、俺はまず彼女と共に屋上にテレポートした。
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