31 / 35
第2章~新たなる旅立ち~
第3話~匂いに釣られて登場~
しおりを挟む
「それじゃあ食べるとするか。いただきます」
「「いただきまーす」」
完成した穀物と野菜のスープと焼き魚をそれぞれ1つずつ取り、切り株で作られた椅子に座って食事を始める。
出来立てで熱々のスープを匙で掬って息を吹きかけて少し熱を冷ましながら食べる2人。ミリアは汁物を冷まし足りなかったのか、「あつっ……あつっ」と言って汁物を飲んでから舌をペロリと出して舌を外気に当てていた。そんな様子を眺めつつ俺も汁物を口に運んでいく。
「自分が林で戦ったラグヮジャの群れへの対応はどうでありましたか?」
「そうだな、概ね問題なかったと思うよ。それにしてもあの長くて重い槍で次々飛び掛かって来たラグヮジャを的確に打ち落とす技量は素晴らしかったと思うぞ」
「それほどでもないでありますよ~」
俺たちは食事を摂りながら今日の魔物との戦いの反省会を行う。アンには林で戦闘した8体のラグヮジャの群れの対応の話だった。
ラグヮジャは素早く飛び跳ねることが得意な四足歩行の獣型の魔物。体長は30~50センメラーほどだ。魔物としては小柄な部類でそこまで獰猛では無いものの、それでも大の男を気絶させるほどの体当たりをブチかましてくる魔物だ。
その際にアンが弱そうに見えたのか、ラグヮジャが一気に5体飛び掛かって来た。だが彼女は顔色も変えずに最低限の動きで鉾槍を振るってラグヮジャを打ち落としたのだ。
俺の言葉に照れながら答えるアンだが力量は相当高い。俺がこの娘に教えられるようなことがあるのだろうかと改めて思った。
「そうだ、ミリアはどうだった?一応俺たちが前衛には居るけど俺たちの動きで魔術が撃ちづらかったりとかは無いか?」
「いえ、そんなことは全然ないですよっ?」
「本当に?」
「え……っと本当はたまに攻撃の指示が見えづらい事があって。多分盾の裏地の色と指が被って見える事が」
「すまない。たしかに木の色そのままじゃ見づらいかもしれない。街に着いたら染料でも買って色を変えるよ。ありがとう」
次はミリアに話を振る。彼女は魔術での攻撃を得意にしており、基本的に攻撃は彼女に任せているのだが俺たちが魔術で巻き添えを食わないように攻撃の機会を指示することがある。
声で指示をすることがほとんどだが、魔族相手になれば人語を解する者も多く、声を聞かれれば攻撃の察知されるので後ろ手で指し示す形の指示の練習もしていた。
その際に俺の指と盾の裏地が被って見えてしまい、指示が分からないことがあったらしい。
しかし彼女は言いづらかったのかそれを黙っていた。だがミリアは嘘が下手なようで俺に話を振られて明らかに目を逸らして、返答も妙に語尾が上がって不自然だった。
もう一度尋ねるとやっと思っていたことを答えたので俺は素直に謝り、指摘してくれてありがとうと返した。
言った側が気に病んでしまい、意見を言うことに委縮してしまっては全くの意味が無い。
ミリアは恐縮しつつも「はい」と返事をした。
俺は反省会を進めつつ次は焼きたてのマッサオを頬張る。大きくて食べ応えのあるマッサオの塩焼き。魚は宿でも割と口にする機会は多いのだが、こうやって自分で釣り上げた魚をそのまま焼いて食べる。これに勝る食べ方は俺の中ではそうそう無い。
マッサオはほんのりと赤みがかった魚肉で味は癖が無くあっさりとした味わい。川魚は癖が強いものも多く、それが苦手な人でも比較的食べやすい魚だ。
皮は少し固めではあるが、骨は非常に柔らかくそのままバリバリと食べてしまってもそこまで問題はない。
「う~ん、この魚、非常に美味でありますなあ!」
「あ、ホントだ。美味しいです」
アンは俺と同じように豪快に胴体部分に一気にかぶりついて食してからこちらに満面の笑みを向けながら力強く味の感想を言う。俺もニコリと笑顔を返して「ああ、中々イケるだろう?」と答えた。
ミリアはあまりこういった食べ方をしたことが無かったのか、少し遠慮がちにカプッといった感じで小さく齧ってから言う。
とりあえず2人の口に合ったようで良かったと安堵しているところで俺たちが今いる野営地を囲んでいる茂みの一角がガサガサと揺れ始めた。気になるほど音を立てて茂みが揺れているのに他の茂みや近くの木の枝が揺れていないところを見ると明らかに風ではなく何らかの生物がその茂みに居るのは明白だった。
「ミリア、アン」
「「はい!」」
さすがもう既に態勢を整えている2人に声を掛けて武器を手に構える。俺は茂みを見据える。アンとミリアはこれが陽動であった時のためにその他の場所への警戒をしてもらう。
しばらく茂みの音が聞こえ続けるものの、周囲の場所から何か飛び出すことも無い。これは茂みの中に居る何かだけのようだ。そしてこれだけ音を立ててしまうということは大したことはないと考えられるが、油断は禁物だ。
茂みの音が少しずつ近づくに連れて何かの影が形作ってきた。その影はどうも人のように見える。人型なら魔族か他の冒険者か。どちらにせよそれならばこちらの言葉が分かるかもしれない。
「お前は何者か!」
俺は茂みの人影に向かって声を発したが返答がない。しかし人影はこちらに近づいて来る。俺は二度三度と「何者か答えろ」と言うがやはり返答は無し。俺たちは人影に向かって戦闘態勢をとる。
人影がその全貌へとはっきりと姿を変えていく。何の警戒も無く現れたのは10代前半から半ばくらいに見える幼い少女だった。
「「いただきまーす」」
完成した穀物と野菜のスープと焼き魚をそれぞれ1つずつ取り、切り株で作られた椅子に座って食事を始める。
出来立てで熱々のスープを匙で掬って息を吹きかけて少し熱を冷ましながら食べる2人。ミリアは汁物を冷まし足りなかったのか、「あつっ……あつっ」と言って汁物を飲んでから舌をペロリと出して舌を外気に当てていた。そんな様子を眺めつつ俺も汁物を口に運んでいく。
「自分が林で戦ったラグヮジャの群れへの対応はどうでありましたか?」
「そうだな、概ね問題なかったと思うよ。それにしてもあの長くて重い槍で次々飛び掛かって来たラグヮジャを的確に打ち落とす技量は素晴らしかったと思うぞ」
「それほどでもないでありますよ~」
俺たちは食事を摂りながら今日の魔物との戦いの反省会を行う。アンには林で戦闘した8体のラグヮジャの群れの対応の話だった。
ラグヮジャは素早く飛び跳ねることが得意な四足歩行の獣型の魔物。体長は30~50センメラーほどだ。魔物としては小柄な部類でそこまで獰猛では無いものの、それでも大の男を気絶させるほどの体当たりをブチかましてくる魔物だ。
その際にアンが弱そうに見えたのか、ラグヮジャが一気に5体飛び掛かって来た。だが彼女は顔色も変えずに最低限の動きで鉾槍を振るってラグヮジャを打ち落としたのだ。
俺の言葉に照れながら答えるアンだが力量は相当高い。俺がこの娘に教えられるようなことがあるのだろうかと改めて思った。
「そうだ、ミリアはどうだった?一応俺たちが前衛には居るけど俺たちの動きで魔術が撃ちづらかったりとかは無いか?」
「いえ、そんなことは全然ないですよっ?」
「本当に?」
「え……っと本当はたまに攻撃の指示が見えづらい事があって。多分盾の裏地の色と指が被って見える事が」
「すまない。たしかに木の色そのままじゃ見づらいかもしれない。街に着いたら染料でも買って色を変えるよ。ありがとう」
次はミリアに話を振る。彼女は魔術での攻撃を得意にしており、基本的に攻撃は彼女に任せているのだが俺たちが魔術で巻き添えを食わないように攻撃の機会を指示することがある。
声で指示をすることがほとんどだが、魔族相手になれば人語を解する者も多く、声を聞かれれば攻撃の察知されるので後ろ手で指し示す形の指示の練習もしていた。
その際に俺の指と盾の裏地が被って見えてしまい、指示が分からないことがあったらしい。
しかし彼女は言いづらかったのかそれを黙っていた。だがミリアは嘘が下手なようで俺に話を振られて明らかに目を逸らして、返答も妙に語尾が上がって不自然だった。
もう一度尋ねるとやっと思っていたことを答えたので俺は素直に謝り、指摘してくれてありがとうと返した。
言った側が気に病んでしまい、意見を言うことに委縮してしまっては全くの意味が無い。
ミリアは恐縮しつつも「はい」と返事をした。
俺は反省会を進めつつ次は焼きたてのマッサオを頬張る。大きくて食べ応えのあるマッサオの塩焼き。魚は宿でも割と口にする機会は多いのだが、こうやって自分で釣り上げた魚をそのまま焼いて食べる。これに勝る食べ方は俺の中ではそうそう無い。
マッサオはほんのりと赤みがかった魚肉で味は癖が無くあっさりとした味わい。川魚は癖が強いものも多く、それが苦手な人でも比較的食べやすい魚だ。
皮は少し固めではあるが、骨は非常に柔らかくそのままバリバリと食べてしまってもそこまで問題はない。
「う~ん、この魚、非常に美味でありますなあ!」
「あ、ホントだ。美味しいです」
アンは俺と同じように豪快に胴体部分に一気にかぶりついて食してからこちらに満面の笑みを向けながら力強く味の感想を言う。俺もニコリと笑顔を返して「ああ、中々イケるだろう?」と答えた。
ミリアはあまりこういった食べ方をしたことが無かったのか、少し遠慮がちにカプッといった感じで小さく齧ってから言う。
とりあえず2人の口に合ったようで良かったと安堵しているところで俺たちが今いる野営地を囲んでいる茂みの一角がガサガサと揺れ始めた。気になるほど音を立てて茂みが揺れているのに他の茂みや近くの木の枝が揺れていないところを見ると明らかに風ではなく何らかの生物がその茂みに居るのは明白だった。
「ミリア、アン」
「「はい!」」
さすがもう既に態勢を整えている2人に声を掛けて武器を手に構える。俺は茂みを見据える。アンとミリアはこれが陽動であった時のためにその他の場所への警戒をしてもらう。
しばらく茂みの音が聞こえ続けるものの、周囲の場所から何か飛び出すことも無い。これは茂みの中に居る何かだけのようだ。そしてこれだけ音を立ててしまうということは大したことはないと考えられるが、油断は禁物だ。
茂みの音が少しずつ近づくに連れて何かの影が形作ってきた。その影はどうも人のように見える。人型なら魔族か他の冒険者か。どちらにせよそれならばこちらの言葉が分かるかもしれない。
「お前は何者か!」
俺は茂みの人影に向かって声を発したが返答がない。しかし人影はこちらに近づいて来る。俺は二度三度と「何者か答えろ」と言うがやはり返答は無し。俺たちは人影に向かって戦闘態勢をとる。
人影がその全貌へとはっきりと姿を変えていく。何の警戒も無く現れたのは10代前半から半ばくらいに見える幼い少女だった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる