上 下
2 / 35
第1章~無能な勇者~

第1話Part.2~無能な勇者~

しおりを挟む
 俺たちは目的地の泉に到着した。この泉は退魔の泉と呼ばれる魔を寄せ付けない泉で弱い魔物はここに近づくことができないので休憩するにはちょうどいい。俺はここでシューたちと改めて話すことにした。

「皆お疲れ様。とりあえず集まってくれるか?」
「何だよぉ。改まって。」
「こうして俺たちパーティーを組んだわけだけど、何か気づいたことややりづらさとかはないかと思ってな。」

 まずはパーティーのメンバーとの情報共有という形で話を始める。いきなりこちらが詰るような態度を取っては冷静な話もできないだろうと考えたからだ。

「特にねえよなあ?なあみんな。」
「はい。シューインさんが強いので特に苦は無いです。」
「アタシも無いよ。」

 シューと2人の女性魔術師、マリー・ルイスとエリサ・バードは特に何もないと答えた。前々から思っていたことなのだがこの3人、随分と仲が良さそうだ。俺と関係が悪いというわけではないのだがいつも1対3のやり取りをしている気がするのだ。
 しかしシューの奴はともかく、慌ててまるで見当違いの方に魔術を放ってしまった2人からも何も無いとは思わなかった。前衛が敵を押さえてほしいくらいは言われるかと思っていたのだが。

「そ、そうか。じゃあ俺から。シュー、俺の指示が聞こえづらかったり言い方が悪いということはないか?」
「あ?別にねえな。」

 このままでは話が進まないので言葉を選びながらシューに自分の指示はしっかりと伝わっているかと尋ねた。だがシューは特に問題ないと言う。とぼけているのか本当に分かっていないのかは分からないがもう少し踏み込んで言う必要がある。

「さっきのケンゲール4体を相手にした時の事なんだが、俺の指示は右側のケンゲールを引きつけてほしいという指示だったんだが――」
「――だから右に当たったじゃねえか。」
「そうだな。だが前から言っていたと思うが敵が多い時は前衛の俺たちが後衛が魔術に集中できるよう当たろうと言ってただろ?あの時は2体ずつ足止めをしたかったんだ。」
「あ?知らねえよ。そんなのはお前がやってればいいだろ。俺が必要ねえくらい斬り伏せてんだからよぉ。」

 俺はさっきの戦いを例にフォーメーションを無視していないかとシューに尋ねたが、やはり無視をしているようだ。奴が言うには自分が敵に斬り込んであっという間に片づけるから足止めは俺が全てやれば良いというのだ。

「それができるならそれも考える。だがあの時お前はケンゲール1体に手間取っていただろう。」
「はぁ?あの時間位押さえきれねえのお前さ。」

 冷静に話を進めようと思っていたがヒートアップして語気が荒くなるシューに合わせて俺も段々怒気を孕んだ口調で応じる。俺もシューも立ち上がってにらみ合いながら言い争いになっていく。

「ブレイド、アンタ偉そうに言ってるけどシューに勝てんの?」
「な?!」
「ファーマー地区のミオーニーを倒したのもシューインさんですし……。」

 グレイティス王国のファーマーという地域に出た魔族ミオーニー。頭部はコーと呼ばれる家畜だが身体は筋骨隆々とした男のような身体。頭はそこまで良くないが熟達の戦士たちが10数人が束になって掛かっても倒せないほどの強さを誇っている。俺たちパーティーはそのミオーニーを倒したのだが思えばその辺りからシューが増長し始めた。

 俺とシューが同じく前衛で戦っていた。ミオーニーは魔術を使えないので俺たちが前衛で押しとどめて後衛の2人に魔術を撃ち込んでもらった。だが非常にタフなミオーニーは俺たちが何度刃を突き立てても魔術を撃ち込んでも倒れない。
 マリーとエリサの魔術力も切れてしまい新たに魔術を使えない。その為シューに前衛を任せて俺は魔術と剣を併用しながら戦った。
 そしてダメージの蓄積でバランスを崩したミオーニーにシューの大技が突き刺さる。

 間違いなくミオーニーを倒した殊勲者はシューだったと思うが、それも4人で当たったからこその結果だったはず。だがシューはこの戦果で自信を深めてしまった。それ以来奴は自分1人で敵を倒そうとする動きを見せ始めた。

「大体お前ぇは命令するばっかりで役に立たねえじゃねえか。」
「剣じゃシューに、魔術じゃアタシやマリーにも勝てないくせに。」
「お前ぇが『勇者』やってられんのも俺たちのお陰ってこと。分かってんのか?」
「い、言い方は厳しいと思いますけど、その通りだと思います。」

 俺は3人に攻め立てられた。たしかにエリサの言う通り彼女らより秀でた能力は持っていない。3人が俺を蔑むような目で見る。これは明らかに前々からそう思っていたような様子だ。俺の知らない所でそのような話をしていたのか?

「まあいいよ。お前ぇがそう言うんなら俺たちは抜けるわ。1人で勇者サマやってろよぉ。行こうぜ。」

 ここまで共に冒険していた勇者ブレイドのパーティーはその一言であっさりと解散してしまった。俺が間違っていたのか?希望に燃えて4人で故郷を出た時、このような事になるとは思っていなかった。俺はあまりのことに途方に暮れる他なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

処理中です...