上 下
94 / 105

奪還

しおりを挟む

「……!」

「あんたは早く……っ、車に乗れ」

 僅かに息をきらしたカルロは、戦闘の余韻を残したまますぐに車に戻ってきた。

 呆然とするミレイより先に運転席に回り込み、さっさと座って扉を閉める。

「おい」

「……っ」

 いけない、急がないと。

 まだ追っ手が来るかもしれない、早く逃げないと。

 しかし

カツン──

 静かな駐車場に靴音が響いた時、車に乗ろうとするミレイの足が止まった。


「ジンさん……!」


 そこには会場にいた筈の彼が立っていて、少しの距離をとった場所からこちらを見ていた。

「相手にするな。……さっさと乗れ」

「は い……っ」

 すぐに二人を止められるような近さじゃない。

 カルロは彼を無視し、邪魔をされる前に逃走しようとする。

 動きを止めていたミレイも思い直して助手席に座ろうとした。だが

「十数年ぶりに再会した実の娘を手元に引き取ったかと思えば。──…こうもすぐに、嫁に出す事になろうとはな」

「……!!」

「本気でその男について行くのかい」

 怒りとも違うジンの言葉を背中に投げかけられて、彼女はまた止まってしまった。

 すでに車に乗り込んでいるカルロは、そんなミレイを急かすこともせず……かと言って、何か言葉をかけることもしなかった。

「……」

 グローブを付けた片手をハンドルに添えて黙っている。

「カルロさん。少しだけ、いいですか」

「……勝手にしなよ」

 彼女が遠慮がちに問うと、素っ気なく承諾する。

 ミレイはドアを開けたまま車から数歩離れて、ジンの方に振り向いた。


「ジンさん…っ…わたし、あなたに、聞きたいことが」

「なにかね」

 駐車場の真ん中で突っ立っているジンは、二人を止める気は無いようだ。

 ミレイは恐る恐る……そんな彼に質問する。

「どうして今さら、わたしと一緒に暮らそうと思ったの?」

「……」

「お母さんがいなくなって何年も経ちました。わたしを探しだそうとすれば、あなたならいくらでも手段があったのに……。これまでのあなたは、そうしなかった」

「……その通りかもしれないね」

 ミレイからの質問に即答しないジン。

「確かに私は、逃げたアンナの死を知った後も、君に干渉しようなどとは考えなかったさ。血のつながりこそあれど、……ほぼ他人のようなものだ」

 微笑みながら軽く頷き

 だがね……と

 彼は話を続けた。

「……だがね、こう歳をとると突然、思ってしまうんだよ。自分だけを構って生きるには、人間の命は長すぎる──と。誰かに何かを、残したくなる」

 ……年寄りのお節介。

 私もすっかり老けてしまったなと、ジンは愉快そうに笑っていた。

「それだけだ」 

「ジンさん……」

「家族ごっこに付き合わせて申し訳なかったね」


 何か言葉を返そうとして口ごもるミレイ。

 カルロは何も聞こえていないかのように無反応で、ただミレイにだけ声をかけた。

「……戻れ」

「は、はい」

 ミレイの口からは何も言葉が出ないまま、彼に言われて車に戻る。

 近づいた彼女の腕をカルロが掴んで、無理やり車に引き込んだ。

「…ぁ…っ」

 ドアはすぐに閉まってエンジンがかかる。

 発車した車は出口へと躊躇なく進み

 カルロはバックミラー越しに、ほんの一瞬だけ男と視線を交わした──。




 また逃げられた……か


「あの時も…──もっと必死になって君を追いかけていたら、よかったのかね、アンナよ」


 駐車場に残されたジンのところには、その後、部下達が集まってきた。彼らはすぐに負傷した仲間を病院に運ぶ。

 追跡すべきという部下に対し、ジンはその必要は無いと言って諭した。






──…




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...