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ナツの作戦

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──



「──…サン…、おーい」

「──…」

「…っ…枢木さん!」

「…ぇ…!?」

 人が行き交う午後の購買部。

 いつの間にか歩く足が止まっていたミレイに、前方から声がかかった。

「急に立ち止まってなんかあった?」

「ぁ…ごめん。何でもないの…っ」

 新学期が始まってのこの季節、LGA運営のここ購買部は生徒でいっぱいだ。

 ミレイ達は、今日の授業で指示された道具を買うために同級生数人でやって来たのだ。

 置いていかれそうなミレイに気付いたナツは、人の流れに逆らって戻ってきた。

「他に買うもん見つけた?」

「う?ーんと…。ちがう、ちょっと考えごと」

「ならいいけど……」

 ぼーっとしていたミレイは誤魔化すように笑顔を向けたが、ナツはそんな彼女の様子を怪しんでいる。

「……朝から具合でも悪いの?授業前からそんな感じだけどさ」

「そ……そうかな」

 ミレイは顔を伏せて、彼と目を合わせないようにした。

 しかたがないのでナツは買い物に戻る。

 講義の教科書。文具や参考文献。動きやすい靴やスーツ。銃をはじめとした武器類など、店棚に並ぶ様々な売り物の中で、今日、彼等が買いに来たのはとある工具セットだった。

「ナツ~、見つけたぞ」

「あったのか?」

「たぶんこれじゃね?」

 同級生が目的の物を見付けたようでナツを呼んだ。

「似たようなのが何個かあるな……」

「指示されたのはどっちだ?」

 爆発物処理論

 それがミレイ達が受けている講義名。

 次回から講義の中で使っていく工具が彼女達には必要だった。

「こんなんで爆弾分解しろってことかよ」

「今どきそんな分解できるような旧式の爆弾、誰も使わないだろって……なあ?」

「時限爆弾を止めるのって、古い刑事ドラマにはお決まりのシーンだけど」

「ちょっとしたロマンだな」

「……」

 同級生等の会話を聞くミレイは、やはり上の空。

「後半からはIC機器を使っていくって指導官も言ってたろ?工具で分解なんて最初だけだよ」

 ひとくちに爆弾と言っても、その構造は年々複雑になりつつある。

 ペンチとドライバーで停止させるなんて昔の話だ。けれど旧式の爆弾を使用する物好きな犯人も存在するわけで、だからそれを停止させる知識と技術も欠かすわけにいかない。

 結局ミレイ達は多くの工具の内の、高くも安くもないひとつを選んだ。

 お金を払い、工具箱を両手に抱える。

「じゃあ……」

 購買部の建物を出て、ミレイは同級生等に別れを告げた。



....



「……今日、あの子元気ないね」

 購買に来たメンバーの中で年長の男が言う。

「寂しいのかもな。他に女の子いないし」

「飯に誘おうかと思ったけど……」

「──…」

 彼女の後ろ姿を見ながら……

「……やっぱ……変だよな」

 放っておけなくなったナツは、彼女を追いかけた。

「どうすんだよナツ!」

「悪い、また明日な」

「…っ…ぬけがけかよ」

 残された者達は互いに顔を見合せ、ある者はニヤッとした。

「ナツの奴……。ぜったい枢木さんを狙ってるよな」

「幼なじみとかじゃねぇの?」

「そうなのか?」

 そして二人の邪魔はしないように、さっさとその場から立ち去っていった。




「枢木さんっ」

「…っ…どうかしたの?久保山くん」

 追いかけてきたナツに振り返る。

 それでもミレイは、やはり彼と目を合わせようとしなかった。

「どうもしないけどさ!ただ」

「……ッ」

「──…あっ、悪い…っ」

 追い付いた彼がミレイの腕を掴むと、彼女の身体が反射的に縮こまり、ナツは慌てて手を離した。

 二人の間に気不味い空気が流れる──。

「……」

 工具箱を確かめるふりをして下を向くミレイ。

「枢木さん……!」

 すると彼女の髪の毛がサラッと動いて、白いうなじが現れた。

 ナツはそれに目を見開いた。

 女性らしい白い肌──その、一点に

 紅い痣が浮かび上がっていたからだ。

“ え、このアザってまさか ”

 それがいったい何の痣なのか、ナツにはだいたいの予想がついてしまう。

「だ、誰かに……ナンか、されたの……!? いや、……言いにくかったら別に…──言わなくていいっ!」

「──…」

 嫌な想像が膨らんで、それで──。

 ……でも、どう聞けばいいか益々わからなくなってナツは困り果てる。

「別に無理強いはしないけどさ…っ、…もし、話だけでも聞いてほしかったら……」

「……っ」

「俺じゃなくてもいいし!他の誰かにでも……」

「……久保山……くん……」

「は‥!?」

 そして次の瞬間、ナツの焦りは最高潮に。

 やっと顔をあげてくれたミレイが、なんとその目にいっぱいの涙を溜めていたのだ。

「な…//」

 泣いてる…っ

 周りに生徒がうじゃうじゃといる中──ナツは涙目の彼女に見上げられていた。


ザワザワ...


 何あれ、カップルのケンカ?

 それよりあの女の子も生徒か?珍しいな

 どっかの職員じゃね?

 彼氏のくせに泣かせてやんの~



「…ぃ…ッ」

 周囲から好奇の目が集まっている。

「久保山くん、わたし……」

「…は…っはい!」

「わたし帰りたくないの……!!」

「帰りたくないって……どこへ?」

「──…あの家」

“ あの家って、理事長のとこか? ”

 それしか考えられない

 もしかして

 さっきの紅いアザを付けたのは……

「……!」

 ナツはさっと真剣な顔に戻って、そして目の前のミレイを見下ろした。

「東城三兄弟に、なんかされた?」

 静かなトーンで聞いてみる。

 ミレイはそれに答えるかどうか躊躇った後、頬を流れた涙を手の甲でぬぐった。

「あの家は、……変なの」

「……っ」

「このままだと変になりそう……。おかしく、なりそう……!!」

 何を思い出したのか。

 ミレイは肩を震わせていた。

 それでもなんとか浮かべた笑顔で、これ以上彼に心配をかけないようにふるまう。

「……やっぱり」

「…?」

「やっぱり……今日はあの家に帰れないや」

「え?でも夜になったら」

「いいよ……公園とか綺麗だし。屋根がなくても生きていける筈だから」

「そうは言ってもさ…っ」

「平気!ごめんね急に泣いちゃって」

 無理に気丈にふるまっているのがバレバレ。

 話を切り上げて立ち去ろうとする彼女を……

“ ぜったい平気じゃないだろっ ”

 もちろんナツは放っておけない。



「公園で寝るくらいなら俺の部屋に…──!」

「……え?」

「…ぇ?は、いや、…だからさ…ッ」



 うわあああ

 なに言い出しちゃってんだよ俺はああ!









───





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